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第一節 探す当て 2話目

「まったくもう! そんな変な香水なんて探していなかったというのに!」

『そう怒るなよラスト。向こうも申し訳なかったって言っていたし、ちょっとしたお菓子を包んでもらっただろ』

「そうですけど……私が探したかったのは、そういうものではないのに……」


 それは目的のものがあった筈なのに見つけきれなかった――というより、あるかどうかも分からないが、僅かな可能性にかけてそれを探していたというのが正しかったかのような、そんな言葉の濁し方だった。


「…………」

『見つからなかったものはしょうがない。また別の店を探せばいいだろう』

「……そうですね。確かにおっしゃる通りですわ」


 ラストにしては珍しい空返事とでもいうべきか。俺の言葉を聞いても正面から受け取るような雰囲気でもなく、とりあえずで返事をするかのような様子だった。


『……実は俺もここまでで行ってみたい店があるんだが、ついてきてくれるか?』

「……ハッ! も、勿論です主様! ラストはどこまでもついていきますわ!」


 ようやく自分の頭の中でぐるぐると考えを巡らせていたところから戻ってきたのか、ようやくラストはこちらの目を見て返事を返す。


『まったく、何を探していたのか知らないが、この先もああいった気になる店とかあったら教えてくれ。買い物くらいは付き合ってやるから』

「ほっ、本当ですか! 感謝いたします、主様!」


 別に買い物程度の時間ならいくらでも割いてやれるし、俺自身も何か役に立つものを調達できるかもしれないからな。


「さて、俺の目的の店だが……」


 このままプラプラと見て回って時間を潰すにしては、夕方の馬車の時間まではだいぶ余裕がある。途中の武器店も興味が無い訳ではないが、大抵は今持っている装備よりはレアリティレベルが低いものばかりだろうし、わざわざ覗く必要もないだろう。

 では一体何を探しているかというと――


「――やけに煙突が大きな家……ここだな」


 俺が探していたのは、この村に一軒だけある鍛冶屋だった。


「なぜ鍛冶屋に……?」

『以前お前に勧められて買ったなまくら刀、覚えているか?』

「……そういえば!」

『あれの錬成をやっていなかったなと思ってな。時間もかかるだろうから丁度いいと思っていたんだ』


 シロさんの言う分だと特段期待できるものでもないだろうし、こだわった錬成をやる必要もないだろう。いわゆるただの装備ガチャみたいなものだろうし。


「確かに、丁度良いかもしれませんね」

『だろう?』


 外にある鉄鉱石を溶かす製錬炉の火が消えているところから、家の中で何かしらの作業でもしているのだろうか。俺は鍛冶屋の入り口のドアに手をかけ、中の様子を伺う。すると案の定、外よりも規模が小さいながらも、炉の前で作業をする小さな老人の姿が。


「誰じゃ?」

『客だ。刀の打ち直しを頼みたいんだが』


 老人は最初俺が打ち込んでいるキーボードが気になったのか、じろじろと見てくるが、最後はどうでもいいといった様子で不愛想な接客態度のままこちらへと歩いてくる。


「打ち直し……? はんっ、他人が打った武器に手を加えるつもりは無い」


 小さな背中に、大きな態度。眼鏡の奥に見える怪訝な目。そんな気難しそうな鍛冶屋の老人と、俺は目が合った。


『ここは打ち直しとかの錬成は受け付けていないのか』

「どうせわしよりも腕の劣ったなまくら武器しかよこすつもりもあるまい」

『それは見てみないと分からないだろう』

「分かるわい。大体おぬし、プレイヤーって奴じゃろ? 適当に行商人から買ったものをガチャと評してわしに錬成させようって魂胆なのは見え見えじゃ」


 ぐっ、図星かよ……というか、そういうプレイヤーも結構な数いるということか。


『まあそういわずにやってくれると助かる。金なら出す』

「はんっ、金の問題じゃないわい。全く、ボケ防止にと息子からもらったげぇむとやらをやってみたはいいものの、元の世界に戻れないだのなんだのと……そもそもげぇむは一日一時間と決まっておるじゃろうに」

『不本意ながらにこの騒動に巻き込まれた感じか、爺さん』

「そうなるな。まったく、いつかはやってみたかった鍛冶屋の仕事というのをばぁちゃる空間で味わえるのはいいが、それもずっとだとただの仕事にしかならん」


 腰をトントンと叩きながら、金槌が立てかけてある小さな炉の近くの椅子へと腰を下ろし、キセルを吹かす。愚痴ばかり吐いているが、なんだかんだ言いながらも満喫しているようにも見える。


「それで? 一体どんなガラクタを錬成させたいと?」

『やってくれるのか?』

「最近だと見るだけで大体どの程度のものが出来上がるか予想がつくもんでな」


 このじいさん、知らない内に鑑定スキルもしくは審美眼スキルが相当育っているようだ。となると、逆にこれが一発で本物のなまくらかどうか確認してくれるということか。


「どれ、見せてみろ」

『よろしく頼む』


 そう言って俺は過去に行商人のマルタからぼったくり価格で買い取ったなまくら刀を老人へと渡し、鑑定を依頼する。


「うーむ……刃がつぶれておるし、欠けてもおる……なんじゃこの刀は」

『やはりただのなまくらか?』


 老人の言う通り、改めて見れば見るほど、ただのなまくらに思える。刃を収める鞘の方もまたごく普通の特徴のない鞘であって……これ本当に行商人として話術でぼったくらせる用の代物だったか?


「うーむ……小僧、これをいくらで買った?」

『いくらだったかな……これくらいだ』


 薄々と感づいてしまったことを心の中で後悔しながら、家が数件立つレベルの数字を提示して見せると――


「小僧お前もしかせんでも馬鹿か!?」

『それを買った当時の事であれば自覚はある』

「家が何件立つと思っておる!? 下手すれば首都のまどれあに家を持てるぞ!」

『まあそれくらいの値段だろうな』


 爺さんが腰を抜かしているが、俺も正直この場で叫びたいくらいだ。なんであの時買ってしまったのか。確かにラストから買わないで後悔するより買ってから後悔した方が、なんて言われたが、いざそうなるとやはりつらいものはつらい。


「主様……私のせいで――」

『いや、お前のせいじゃない。最終的な判断は俺だ』

「うーむ……しかし分からんな。大体見ている内にれありてぃれべるというのが分かって、数字が高いほどいい武器だというのが判明するはずじゃが……」

『まさか……見えないのか?』

「ふむ、わしにはこのなまくらに価値があるかどうか見極めることはできん、ということじゃ」


 まさかの一発逆転があり得るのか!? いや、あまり期待しない方がいいかもしれない。

 様々な感情が俺の中で沸き起こっているが、この老人もまた刀に興味を持っている様子。


「普段なら打ち直しなどする気もおきんが……こいつはやってやらんでもない」

『そうか? なら――』

「言っておくが、わしがやるからには金はかかるからな。なまくらに家数件分の金を出せるほど余裕があることを耳にしてしまったからな」

『構わない。やってくれ』

「ほう、金額も聞かずに二つ返事で了承とは。気に入った」


 炉の中に火種が入り、再点火される。そうして燃え上がった炎の前で、老人は腕をまくって刀身を火にくべる。


「お前はそこで見ておれ。わしが鍛え直してやる」

『ああ……期待して待っておこう』

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