第五節 それぞれに示された道 6話目
『――支度は済んだか?』
「ええ、主様。長旅になると考えて、あらゆるものを準備しております」
『それは助かるな』
自宅のリビングにてラストと一緒に持っていく荷物の確認を終えた俺は、手持ちの中で一番大型のボストンバッグを肩に担ぐ。見た目はかなり重たく見えるが、これには付呪がなされており、中に入れているものの重量を五分の一にしてくれる魔法のバッグとなっている為、実際は見た目よりずっと軽い代物だ。
『それと、そっちも済んだか?』
「うん! まさか師匠たちと本格的に修行する為にお泊り会をするなんて、楽しみー!」
「もう、パパが無理を言って頼んだんだから失礼なことしちゃ駄目だからね」
「私も、行っていいのかな?」
『行って貰わないと困る。というか今回は全員家を空けることになる』
三人娘もそれぞれ荷物を纏めて、玄関前へと集合する。少し遅れてグリードが自室の奥から姿を現し、俺の方を向いて現状の確認に入りだす。
『……話は昨日の通りだ。ギルドに身を寄せているとはいえ、油断するなよ』
「分かっている。だが最悪の場合、この三人は私の作った世界に“かくまう”ことになることだけは念押しで言っておく」
『そうなったときは仕方ない。そうしてくれ』
そうなることは万が一にも無いと思いたいが、もしそうなれば、怖い目に会うよりは何倍もましだろう。
『まずは四人に【転送】を。迎えはシロさんとキョウに任せている』
俺が指示を出した通りに、ラストは最初に三人娘とグリードをレリアンへと転送を開始する。
「それじゃ、行ってくるねー!」
「パパも気を付けてくださいね!」
「い、いってきます!」
三人それぞれが俺に向かって別れの挨拶を告げる中、グリードはラストの方をじっと見つめている。
「……娘よ」
「……何かしら」
「向こうは寒いからな、風邪をひくなよ」
「……フン、風邪など今更ひくものか」
――つんけんとした態度を取ってはいたが、ラストはグリードの“娘”という言葉までは否定しなかった。
「……それもそうだな」
それを聞いて満足したのか、グリードは静かに目を伏せ、転送をじっと待っている。
「それでは――【転送】」
四人の姿が消え、無事に魔法が完了したことを確認すると、俺とラストもまた、転送魔法で今回の目的であるソーサクラフの国境近くの村へと移動を開始する。
『目的地はカナイ村。シュベルク山脈にある村だな』
「そこを超えていけば一年中冬とされるソーサクラフの首都、マドレアへと到着ですわね」
『そういうことだ』
足元の魔法陣の輝きがより一層増してゆき、ついには当たり一辺を光で包み込み始める――
――いざ行かん、極寒の地へと。




