第五節 それぞれに示された道 3話目
『動画撮影は終わったのか?』
「ええ。無事終わって、イマミマイさんも【転送】でテクニカの方へと帰っていきましたから」
『もういないと思ったら、転送魔法を使ったのか』
円卓のある部屋へと戻ってきた俺達は、既にその場にイマミマイがいなくなっており、代わりに呼ばれていたクロウとアレクサンダー教授がその場にいることに気づいた。
ラストはというと、やはりまだあの撮影道具の事を覚えていたようで、かなりショックを受けている様子。
「そんな! 私はまだ用件が!」
『終わってしまったことはしょうがない、今度テクニカに撮影道具を買いに行くぞ。その時にはお前も絶対に連れて行ってやる』
「撮影に使うカメラか……材料があれば作れなくもないが、レンズとかそういう一部の中間素材がテクニカにしかないからなぁ」
その場に居合わせていたクロウが横から会話に入ってくるが、やはりあの道具自体がテクニカ特有のもののようで、この場では作れないのだという。
『そうか……それは残念だ』
確かに今この場で撮れなかったのは俺にも心残りがあるが、いないのなら仕方がない。連絡を取る手段もない今、わざわざシロさんに呼び寄せてもらうのも忍びないからな。
そうしてラストに買い物を約束することで納得してもらおうとしたが、当の本人はまだ少し不満げな様子。
「むぅ……」
「悪いが、無理なものは無理だ。力になれないのは残念だがな」
「……仕方ありませんわね」
ラストは俺やクロウに対して抗議の意味を込めてぷぅっと頬を膨らませるが……ちょっと可愛いと思ってしまった自分がいる。
「こうなったら、絶対に買いに行きますからね」
『ああ。約束だ』
「そうですね。この場の会議によってはテクニカに行って貰うこともありますし、その際にはジョージさんにお願いしますよ」
カメラはともかく、テクニカに用事? 一体何をするというのか。
それはそうとグスタフさんは動画配信をずっと見学している内に興味を持ったのか、シロさんに色々と話を聞いている様子。
「いやはや、動画配信者とやらの仕事、中々に興味深いものだったな」
「グスタフさんも、なろうと思えばすぐになれますよ」
「そうか!? ならば戦士としての戦い方を語るチャンネルでも作ろうか!」
……あんまり人気でなさそう。
『……色々とあったようだが、本題に入るんじゃなかったのか?』
気を取り直して言った俺の一言をきっかけに、各々が席に座って会議の姿勢を整える。ラストはというと、先程までの態度をすぐに引っ込めて、忠実な戦術魔物として、俺の背後に姿勢よく立っている。
「そうですね。確かに少し横道にそれ過ぎました。申し訳ないです」
その姿を見たシロさんは、ようやく自分も気持ちを切り替えなければならないと、円卓の席に腰を下ろす。そして既に呼んでいたアレクサンダー教授も同じ円卓の席に着かせると、今回の議題について語り始める。
「今回の議題のメインですが、オラクルについてある程度情報がまとまったので共有を、ということです」
内容は大きく分けて三つ。一つ目は首都圏の民の信仰対象としてオラクルが幅を利かせている件について。これには二つ目の理由である神刃派閥も絡んでいるらしく、その辺りについて調べたことを話したいとのこと。
そして二つ目の神刃派閥について。初代剣王を差し置いて銅像を建てたり、首都圏に勝手に布教したりとやりたい放題やっているので即刻叩き潰したいところだが、これも難しいらしく、調べた限りでの理由を話してくれるらしい。
三つ目は対抗策について。これは先程の動画撮影にも絡んでいたことだが、シロさんからそれぞれ俺達に武器を贈りたいのだという。
「戦斧、刀、槍と、それぞれ一振りずつですが確保してあります」
『シロさんの言い分だと、剣以外はまだルーン文字の配列解読が出来ていないってことだった筈だが?』
「あれはブラフです。近接武器限定ですが全て解読済みです」
「わしが解読を手伝ったからな。とは言っても、剣や槍などにしか使えないが」
何なんだよこの人……古代文字からルーン文字まで何でもアリかよ。
「近接武器限定かー。ロボットにプログラミングという形でルーン文字を入れるとなると俺の技術的にも成功率が低いし、まだまだお預けってところか」
どうやら機械類にはプログラミングという形でルーン文字を入れ込めるようだが、まだそこまでの解読には至っていないようで、クロウは残念がっている様子。
「さらに解読できた文字列を一部の信頼できる冒険者に情報として渡し、特定のギルドに売って広めるところまで話をつけています」
どうやら既に根回しもある程度済んでいるようで、国内にいるであろう反勢力にもアポクリファ武器が広まる手はずになっているようだ。
『つくづくあんただけは敵に回したくないって思ってしまうな』
「フフ……さて、贈り物等については後にして、まずは一つ目の件について話を済ませましょうか」
『首都のオラクル信仰についてだな……正直いつから広まっていった?』
「正式サービスの日に降臨して以来、最初は首都で一人の宣教者が現れて、細々と広めていたそうです。そうしたところから物好きな貴族が影響を受け、更に判事、騎士団と国を護る立場の人間まで感銘を受ける始末となり、この現状がなされているようです」
「……その最初に広めだした者の名は?」
今まさに聞きたかった質問を、グスタフさんが投げかける。
シロさんはまさに今語ろうといった様子で、俺達にしっかりと記憶してもらうためという意味もあってか、ゆっくりとその名を口にした。
「――“奇跡の宣教師”テオリ=カイスと言うそうです」




