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第一節 道のり 4話目

「てめえ等か! 兄貴をやったのは!!」


 屋根伝いにやってきたのは二人の男だった。どちらも剣を構えている様子から、接近戦を得意としていることがうかがえる。


『俺が見た時は確か五人の筈だったが、残りはどうした?』

「ハッ! 残りは客車の輩から金を巻き上げてんだよ! もしかして大切な人でも置いて来たってか!? それはご愁傷様だぜ!!」


 ご愁傷様はむしろこちらの台詞だが……まあいい。それよりも目の前の敵を倒す方が先決だ。


「遠距離装備……これは丁度いい」


 先程消された男が何か持っていないかと周辺を見やると、レアリティはかなり低いが拳銃リボルバーが落ちている。強盗のお約束というべき代物だろうが、この剣が主体の国で持っていてくれたのはありがたい。

 銃の適性がついていないから適当な攻撃になるが、それでも一応遠距離攻撃にはなるだろう。

 左手で拳銃を構えながら、右手は刀を意識しつつキーボードに手を添えて、それぞれ遠距離近距離のレクチャーを始める。


『まず基本となる遠距離だが、面で制圧もしくは動きの制御、そこからの部位を狙ってのピンポイント攻撃と、動き方自体は悪くない。が、問題は接近された場合だ』

「何言ってやが――ぎゃあいってぇ!!」


 しかしながら適当な発砲でも逆ノーコンで一人当ってしまったのはなんともいえない。そして期待通りにもう一人がかいくぐって向かって来た時、俺は改めてチェイスに対するレクチャーを続けることができる。


『当然ながらここにくるまでに撃ち倒したいところだが、無理ならいっそ捨てる』

「えっ……」


 そう言って俺は拳銃を放り捨てるとそのまま左手で鞘をつかみ、即刻右手で腰元の刀に手を添え、目の前の空間を一閃と横に薙ぐ。


「ぎゃあああ――って、なんだぁ?」


 この程度のレベル帯なら当たれば一太刀で十分始末ができる。俺はそのまま刀を納めると、何事もなかったかのように再びキーボードを呼び出して言葉を続ける。


『こうすることで無駄な考えもなく即座に戦闘の切り替えが可能になる上、ある意味身軽にもなる。まあ、鎖だと中々難しいだろうがな』

「ジョージさま、当たってない」

「ひゃ、ひゃははは! 素振りになってりゃ意味ねえんだよ!!」


 確かに俺は敵があと一歩踏み込めばというところを斬っている。しかし俺が一閃横薙ぎした空間に異変が発生していることにはどちらも気が付いていない様子。

 そのことを踏まえて、俺はチェイスにもう一つのアドバイスを授ける。


『そしてもう一つの方法だが、設置技をおいておくことだ』

「?」

「格好つけて背中を向けやがって、がら空きなんだよ!!」


 空間断裂。技や魔法を放つ際に使われるTP(テクニカルポイント)と呼ばれるものを更に追加で消費することで、その場に特殊な空間を生み出すことができる。

 名前の通り、刀によって切られた空間にはズレが生じるようなエフェクトが残り、そこに人間の身体など何かしらの物体が通過しようとすると――


「ぐげばっ!?」


 ――文字通り断裂された空間に巻き込まれ、自身もその空間のズレの通りに肉体が切断されてしまい、事実上の大ダメージを負ってしまうという中々にえげつない技である。


「おおー……」

『おっと、指で触ろうとするなよ。指が切れちまうからな』

 納刀と同時に断裂した空間は修正され、元に戻る。つまり一度抜刀して空間断裂をし続ければ、やり方次第で積極的な武器にも、相手を追い込む罠にもすることができる便利な追加技だ。更に元々の抜刀法次第ではかなり遠くまで空間断裂を生み出すことができるので、ほかに派手な技があるせいで目立たないだけで、これ自体が普通にチート過ぎるのではという指摘を受けたこともある。


『ちなみに判定的には【空間歪曲エリアルディストーション】より上だから、この技は事実上最強の物理攻撃になる』


 ラストと相対した時の切り札がこの空間断裂だが、如何せんデメリットも存在する。今の小規模なものでも相応のTPを消費するため、連発するにしても考えて発動しなければすぐに息切れしてしまう。


「かっこいい……」

『別に今のような強い設置技を用意する必要など無い。相手が近寄りがたくなるような牽制さえできれば十分だ』

「うん、わかった」


 さてと、色々と教えることは教えたし、後はラストのところへ――


「主様……?」

「ギクッ!?」


 な、なんで待機しているはずの俺の戦術魔物の声が今ここで聞こえるんですかね……?

 それよりもゆらりゆらりと接近してくるその様に、先日戦った時よりも恐怖感を覚えるのだが。


「心配になって参りましたら、その小汚い羽虫は一体……?」

『あ、ああ。こいつは――』

「誰? このおばさん」


 ……終わったな。


「おばっ!? こっ……このっ、虫ケラがァああ!! 主様の側にいていいのは、この私だけだということを、その身に死をもって刻み込んでくれるわぁー!!」


 両手にこれまでに無い程の魔力を秘め、今でもここに【絶対的死滅アブソリュート・デス】を展開しようとするラストだったが、流石に今の“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”を担う人材を潰させるわけにはいかない。


『待て! ラスト!』

「どいて主様! そいつを殺せない!」

『どこかで聞いたことがある台詞だが落ち着け!! 俺は子供は趣味じゃない! ラストくらいの色気があった方が良い!』


 適当な言葉を並べているが、これで彼女が落ち着くならそれでいい。


「……本当ですか?」

『ああ、嘘じゃない』

「嘘。ジョージさま、チェイスの上、嬉しそうだった」

「ハァアアアアアアアアアアアア!!?」


 だから状況を掘り返すな! ちょっと口を閉じてろ!


『とにかく一旦客車に戻れ!! 話はそこからだ!!』

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