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第四節 背信 4話目

「――しょ、初代剣王の銅像がいつの間にかオラクルの像に!? ひえぇーっ!? 怖いッスねー!」

「ボク達が中央にいた前作のころでは、プレイヤーの皆さんの剣王に対する忠誠心がとても高かったですからねぇ。特に我々のギルドはまさに剣王の右腕として動いていた訳ですから、そのシンボルがすり替わることの意味を重く受け止めている次第なんです」


 いつものギルドの円卓が、撮影会場となってしまっている。

 俺とラストは映るつもりもなく隅の方でそれとなく撮影内容を見ながら待機しているが、この状況を他のメンバーが見たらどう思うだろうか。


「……主様」

「ん?」

「あの……後で、二人であの道具を借りて、動画とやらを撮りませんか?」

『……それは“思い出として残す為に”か?』

「っ……どう説明すればよろしいのか――」

『別にいいぞ』


 テクニカに行けばいくらでもあの機材が買えるって話だろ? それに、思い出の写真や動画を残すことくらい、誰もが意識しなくてもやっていることだ。


『というか、あんなのがあるんだったらとっくの昔に買いに行ってたっての』

「そうなのですか? それってつまり――」

『これから先もずっと、色々な思い出を残すんだろ?』


 単なる別れの品として撮り貯めるなんて、そんなつもりは毛頭ない。いつか二人で思い出を振り返りたくなった時、その為に残しておく。そんなものでいいんじゃないか。


『ひとまず撮影が終わって時間ができたときに借りるとしよう。そして次の休みの時に、テクニカに買い物でも行くか』

「っ、はい!」


 テクニカに入国する際には、イマミマイの伝手を頼るとするか。下手にベヨシュタット所属の蒼侍が入ったとなっては争いごとの種になりかねないし。


「それで今回皆さんが知りたがっているという、オラクルの攻略法についてですが!」

「そうですね。端的に言いますと今回のアップデートで追加されたという、オラクル特効のアポクリファシリーズのおおよその制作方法について、プレイヤーの皆さんに無料公開させてもらいます」


 えっ!? アポクリファシリーズって製作武器だったの!? というか、もう制作方法を突き止めたのか!?


「おぉー!? ま、まさかの最新情報ッスか!?」

「はい。まさに本邦初公開となる新情報ですね」


 というか、武器制作で作れるってことは実はシロさんも既に持ってるってことか……? あの人いくつ武器を隠し持ってるつもりだよ……。


「鍵となるのは前作にもあった武器に刻み込めるルーン文字で、この文字列を特定の順番で並べた上で、武器の鍛造に成功すれば出来上がるようです」


 そう言ってシロさんはおもむろに大剣型の武器を取り出し、鞘から抜いて刃を見せる。


「これ、ボクが試しにドワーフ族と組んで作った武器なのですが――」

「ほぇー! すっごい綺麗ですねぇー!」

「ありがとうございます。それで、この光っている十三個の文字が、例のルーン文字ですね」


 円卓の上に置かれたそれは、確かにルーン文字が刻まれた代物だった。磨き上げられた鏡のように美しい刃の根元部分には、専門のルーン工匠しか刻み込められないというルーン文字が十三個も並んでいる。

 ルーン文字自体はどちらかというと魔法寄りの代物で、知っているプレイヤーもベヨシュタット内だとそう多くはない。聞いた話によれば、二十四種類あるとされる文字を組み合わせて武器、防具に刻み込んだり刺繍したりすることで、様々な効果を発揮するらしい。

 当然適当に並べても意味など通らず、逆にデバフがかかってしまう等といったこともおきたりする。組み合わせのヒントは古代遺跡にある石板を読み解いたりすることで手に入るところから、今回の対オラクル用の文字列は遺跡巡りの副産物なのだろう。

 ――というか、十三個も刻みいれるって……鍛造している時の武器の耐久値管理とかどうなっているんだよ。


「……ときどき思うんだが、シロさんって実は謎が多い人物じゃねぇか……? ベスはそういうものと分かっているにしても、シロさんもさりげなく単独行動することが多いし、交友関係もギルド外だと分かんねぇし……」


 今回も謎の動画配信者を連れてきてるし、しかも登録者数的にまずまずの知名度の人っぽいし……それに比べたら俺って意外とこういう時の人脈ってないよな……唯一交流が深いのってエルフ族くらいか? とはいえあれもきっかけは受け身で始まったことだから、ここでも俺のコミュ障が遺憾なく発揮されているってか。


「敵対者としては有名なあたり、俺ってもしかして世間的には悪党側……?」

「他の羽虫のことなどどうでもよいではありませんか、主様。主様にはこのラストがいるのですから」

『……まあ、確かにそうだが』


 唯一味方国として仕えてきたベヨシュタットもあの有り様だし、本当の意味で味方はここにいる面々だけなのかもな……。


「このアポクリファシリーズと呼ばれる製作武器で一番苦労するのが、ルーン文字を打ち込むことでしょうね。文字列は今お見せしているものは剣に対応する文字列ですが、ここまで絞り込むのに相当苦労しました。しかも十三文字も入れなければいけないということで、工匠の腕も相当に必要になります」

「ってことは、剣以外でも恐らく同じように武器を作ることはできるっスけど、ルーン文字の文字列配置までは判明していないってことッスか?」

「そうなりますね。しかも遺跡跡地を巡るなんて中々大変な作業ですし、我々のような情報を買い取ってくれるギルドも出てくるのではないですか?」

「おお! つまり一獲千金のチャンス!」

「……なるほどな。確かにこれだと情報を拡散させた方が早いな」


 皆がこの配信を見て新武器の作成に取り掛かることで、ルーン文字の解析時間の短縮がなされると共に、アポクリファ装備の普及につながる。そしてそれは今の神刃派閥が中心のベヨシュタットにとっては大きな痛手につながる。

 現状誰も手を出せないような風潮があるオラクルに対して、明確な弱点となりものを広める事ができれば、オラクルを勝手に改造した開発へのプレッシャーにも繋がる。


「考えたな、シロさん」


 そうして動画撮影の様子を見守っていると、会議に参加予定だったグスタフさんが部屋へと入ってくる。


「すまぬ、少々遅れ――って、これは一体何が?」

『動画を撮影しているんですよ。オラクル対策を広める為に』

「なんと! あのオラクルに弱点が!」

『詳しい話は会議でも挙がってくるので、今は静かに見守りましょう』

「そうだな。邪魔をしてはまずいか」


 そうして動画の撮影が終わるまで、俺達は静かにその場を見守っていた。




 ――思えばこの時に動画配信をするという行為自体、シロさんにしては浅薄な行動だったのかもしれない。

……いや、この先にある結果こそ、シロさんが狙っていたものなのかもしれない。


 ――俺達に、ベヨシュタットを捨てる覚悟を持たせることを。

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