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第四節 背信 3話目

「――ハイ! ということでリベリオンワールドから抜け出せなくなっちゃったシリーズの配信も遂に記念すべき五十回目になりましたッスよぉー!」

『前言撤回。消し飛ばしていいぞ、ラスト』

「仰せのままに」

「どひゃーっ!? うちを抹消しちゃったら暗黒大陸に散らばる二万人のファン、そして現実世界で待っているであろう三十万人のファンが悲しむッスよぉー!?」


 誰を連れてきたのかと思ったら、何故かゲーム内で配信業をしている女性が立っていたんだが。というかできるのか配信って。誰を対象にどうやってこの文明レベルで配信するんだよ。


「という訳でどもどもー! 今作でも有名な蒼侍ことジョージっちと、そのお連れの戦術魔物に熱烈な歓迎を受けながら『誰も歓迎したつもりは無いぞ』此度もやっていきますよー! イマミマイの曖昧ちゃんねる、スタートっスぅ!!」


 オッドアイのカラコンに、魔導士らしきローブの服装。ただしローブにしてはかなりカジュアルさを感じさせるような装飾がなされており、当然のようにステータスよりも見た目に振り切っているような装備を身に着けている。


『どういう意図で連れてきたんだ? というか、そもそも誰だよあいつは』

「あらら、もしかしてご存じないですか? 彼女こそが現実世界におけるゲーム実況界隈における新規気鋭の実況者、イマミマイさんですよ」


 分かった。今回は完全にあんたの趣味で連れてきたんだなシロさん。そうじゃないとこんなフザけた奴がギルドに入れる訳がない。


『……悪いがあんたの趣味には付き合えない。こっちは真面目な話をしに来たんだ』

「それはボクも同じですよ。今回利用したいのは、彼女の発信力なのですから」


 発信力? ようは情報拡散を期待してということか?


『情報拡散って、余計なことまで拡散されるんじゃないか?』

「なので今回の撮影は首都ベヨシュタットのオラクル信仰についてを中心に、フェイクのオカルト要素を交えつつ、攻略法をプレイヤーに広めるつもりです。例の会議はその後ということで」

『会議についてはそれでいいとして、あのオラクルの攻略法が見つかったのか?』

「まだ半信半疑といったところなので、他のプレイヤーに実験台になってもらうつもりです」


 確かにシステマが対抗武器を投じていたりと戦ってほしい部分もあるのだろうが、リスク面は大丈夫なのだろうか……グリードから聞いていた分では対人は想定されていないから、負けて抹消デリートされた場合の挙動とかはまだ確定していないのが不安要素だと思うんだが。


「今回はなな、なんと! 前作で猛威を振るったあの最強のギルド、“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の内部へと潜入しちゃっていまぁーす!」


 どっちにしても動画に映るのはあまり得意じゃないし、ラストに至っては敵に手札を晒すようなものだからできる限りこちらは撮らないで欲しいところだが。


「あっ、大丈夫ッスよー! このゲーム動画配信するときは本人が許可を下ろさない限り、声とかも全部勝手にモザイク処理されるッスからー!」


 それはそれで、戦争しているシーンとかモザイクだらけでグロなのか何なのかわからないスプラッタ映画みたいなことになってそうで何とも言えない。まあ今回は俺の部分だけモザイクマジックで消しておいてくれ。


「というか今回は動画を先に撮って後で編集するッスから、映りたくなかったらこっちで編集しとくッスよー!」

「意外と真面目だな……」


 とりあえず取りたい絵としては殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーションの宣伝も兼ねたギルドの軽い紹介と、拠点としているレリアンの観光案内。そしてメインである所属しているベヨシュタットの首都圏地域が信仰を始めたオラクルという存在について、シロさんとイマミマイを中心にあれこれと話をしていく構成にするつもりらしい。


「今回の動画構成はこのようにしてはいかがでしょう?」

「ふむふむ……流石はゲームクリアを目指す真面目なギルド、今までの動画の傾向とはまるで正反対ッスねぇ」


 二人で何やら動画の内容について話し合っているようだが……そもそもどうやって撮影器具とか調達してきたんだ?


『……一つ聞いてもいいか?』

「ん? うちに答えられる範囲であれば何でもいいッスよー!」

『その、撮影道具とかどこで手に入れたんだ? それと配信していると言っても、どうやって――』

「ああー! これ全部テクニカ本土に行けば手に入るッスよー! はっきり言って、向こうはここと違ってかなり近未来のSF映画みたいッス! それこそビル群の間を縫うように広がる高速道路をホバーカーが走っているッスから!」

「嘘だろ……」


 思わず素でドン引きしてしまうと共に、向こうの本土決戦は尋常じゃないものになりそうだと、戦う前から辟易してしまいそうになる。


「械王様も結構俗人でしたし、ガチガチに敵対していない感じなら、気軽に遊びに行けるッスよ!」


 因みに配信された動画はほとんどテクニカ内でしか視聴できないようで(そもそもこっちにはパソコンのパの字もないレベルの文明レベルだからしょうがないが)、そのせいでファンの増やし方に苦戦しているのだという。


『……ということは、事実上テクニカだけにオラクル討伐技術を渡すということでいいのか?』

「いいではないですか。これでテクニカ側もベヨシュタットに強く攻め入ることもできるようになりますし」


 その言い分だとテクニカにベヨシュタットを落としてほしいようにも聞こえるが。

 でもまあ正直今のベヨシュタットにはそこまで思い入れもないし、初代剣王の花壇から花の子株を分けて貰った今、爆撃をくらおうが何をされようが、俺の知ったことではないという気持ちがあったりもする。


「……ちょっといいかしら」

「ん? うわわっ! それは大切な商売道具ッスよ!?」


 シロさんと話している間に、ラストがどうやらイマミマイの持っている撮影に使うカメラに興味を持った様子で、手に取って色々と眺めている。


「これに、記録というものができるの?」

「そうッスね! 今回だとギルドについて、シロっちと色々と企画を練っているんで、動画をテクニカに持ち帰れば、この場にいなくても見れるようにできるッスよ!」

「つまりこれがあれば、一度過ぎ去った時でも、何度でも巻き戻して記憶に触れることができということなのね?」

「んー、まあ少々詩的な表現ッスけどそういうことッス!」


 イマミマイは軽く答えているが、ラストの方はというと、決して好奇心に満ちた晴れやかな表情ではないものだった。


「……百年前にこの道具があったら、もう少し、寂しい思いをせずに済んだのかしら。それにこれさえあれば……もしかして、これからまた――」

「何やら、深刻な悩みッスね……動画にしてもいいなら相談に乗るっスよ」

「いえ、相談の必要はないわ……邪魔したわね」


 同性を相手にするにあたって、ラストにしてはやけに大人の対応を見せていた。そしてそんな二人の会話を目にした俺にとって、その内容はとても重たいものだと理解できた。

 やはり今は一緒にいられたとしても、また離れ離れになる時が来てしまうのではないか――とラストの中に不安のかけらが残っているように思えたからだ。


「…………」


 確かに俺は、ゲームクリアに向かって動いている。だがそれは、ラストとの別れの道を歩んでいることと同義となる。

 だがそれこそが正しき道。前作同様、ゲームオーバーで終わるのではなく、ゲームクリアをすることこそが、プレイヤーとして――そして現実世界に生きる人間として正しい選択肢だ。


「…………」


 そして最後は笑顔で別れて、互いに違う道を歩む。それが前作での俺が選んだ道であり、正しい終わり方(グッドエンディング)だったはずだ。


 ――しかし、別の道もあったのではないか? もしかしたらこの世界でラストとも共に歩むことができて、そして現実世界にも帰ることができる道が……俺にとって本当の進むべき道(トゥルーエンド)があるんじゃないか?


「……今考えていても仕方がない」


 答えが出ない問題など、雑念と同じだ。それよりも今の事に集中しなければ。


「ではそろそろ撮影に入りますよー! 5、4、3――」

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