第四節 背信 2話目
久々にレリアンの街に到着したが――
「――なんか来るたびに発展してる気がするなこの街は」
文明レベルとしてはさほど変わっていないと思うが明らかに人の出入りが多く、職種も首都並みに多種多様に見受けられるようになってきている。
意外と先入観で見落としがちなものではあるが、この世界においてプレイヤーは必ずしもどこかの国に所属しなければならない、という訳ではない。どこにも所属しない、ただまだ見ぬ地へと辿り着くために世界を歩き回る冒険者ロールプレイをする者もいれば、行商人ロールプレイ、あるいは政治の世界に入り込む貴族、議員ロールプレイをする者もいる(ただ、政治の世界に入り込んでいる奴にあまりいいイメージは付きにくいが)。
そんな中でレリアンもまた、冒険者としてエンジョイする者にとっての憩いの場――止まり木のような役割を果たし始めているようだ。
「で、これからどこいくのさ!」
『ひとまずアジトに向かう。ギルドの会議になったら暫くの間別の部屋で待ってもらうことになるが、我慢してくれ』
「えぇー! あたしの稽古はー!?」
『その後の予定だ』
ユズハをなだめながら、これからのことについて話し合う旨をシロさんとベス、そしてグスタフさんにメッセージを送り、集合を促す。できればその間、ユズハの相手を誰かしていてくれればいいんだが――
「――久しぶりじゃねぇか、旦那!」
『誰かと思ったらキョウか』
道端でばったりといったところか、特に行く当てもなさそうにレリアンの広場をうろついているらしいキョウに声をかけられる。
「パパ、この人知り合い?」
だから外でのパパ呼びは止めろと――
「何ぃ!? 旦那、もしかして本当に誰かの旦那になったってことか!?」
「ほーら、面倒なことになったぞ」
しかも相手は人の話をあまり聞かないキョウなのだから質が悪い。となれば下手なことを言わずにストレートに伝えた方が、変に捻じ曲がって解釈されることもないだろう。
『別に俺とユズハの血は繋がっていない』
「んん? ならどうして――」
『俺が拾って保護している。そういうことだ』
「……つまり戦争孤児か! 優しいな旦那!!」
いや、違っ……もういいや、否定するのも面倒くさい。
「あまり他の奴に言うな。それと、丁度いいからお前も教えてやれ」
「何をだ?」
そう言ってユズハをキョウの前に連れ出し、俺は今回の目的の一つをキョウに任せることにした。
『この子は剣士を目指している。どうせなら、俺やお前と同じ侍に仕立て上げてやった方が面白くないか?』
「むっ!? つまりこの俺が師匠ってことか!?」
「師匠……! かっこいいな!」
よし、この後はキョウに押し付けて稽古をつけさせてやろう。これで俺は少し気楽になれる。
「よし! 早速稽古をつけて――」
『つける為にいきなり戦いに駆り出すような真似はするなよ。ひとまずはギルドの施設内で素振りや基本的な動作について教えてやってくれ』
「基本のきからやれってことか!? それだと面倒なんだがなぁー!」
本当に分かっているのか?
『一応お前にも言っておくが、このレリアンから外に出るようなことはするなよ』
「分かってるってパパ! ……だってまだ、外の怖さを覚えてるから、さ」
『……そうだったな。悪い』
「うーん、本当なら外に出て実戦形式でやった方がいいんだが――」
俺はそこでキョウの腕を掴んでユズハ達から離れたところまで引きずると、我ながらいつもより怒気のこもった言葉でキョウをたしなめる。
「お前も自分で言っていただろ。彼女は戦争孤児だ。怖がらせるような真似は止めろ」
「わ、悪かったよ旦那……勘弁してくれ」
『ならいい。とにかく施設内で! くれぐれも! 安全に! 稽古をつけてやってくれ…………これでもお前のことを俺は買っているんだから、失望させるなよ』
「了解したぜ……」
そうして改めて本日の師匠であるキョウの元に、ユズハを預けることに。
「俺が剣の稽古場に連れて行ってやる。ついてこい!」
「はい!」
ひとまずユズハが楽しく(?)剣士への道を歩んでくれることを信じて、俺は二人の背中を見送る。
『一応同じ場所に向かうことになるが、まあ邪魔をしないように離れてついていくか』
「フフ……こうして見ると、まるで娘を送り出す夫婦のようですね」
いつから夫婦になったんだ俺達は。
『……まあ、娘を送り出すというか、心配という気持ちは確かにあるがな』
信頼して預けたとはいえ、あのキョウだからな……まだチェイスに預けた方が良かったか……? いや、あいつは特殊武器の鎖鎌を使っているから最初の入り口としてはイマイチか。
「……連絡がついたようだな」
会議に顔を出すのは俺が連絡を取れた三人に加えて、ギルド内の整備士組合の代表となったクロウ、そして古代文字について新たに発見があったということでアレクサンダー教授(なんでいつの間にか主要メンツっぽくなってるんだ?)が遅れて顔を出すと、シロさんからのメッセージに記されてある。
ひとまず先に到着しているのはシロさんと――
「――ん?」
先に到着しているということで、最後に俺が知らない名前のプレイヤーの名前がそこに連なっていることに気がつく。
「誰だ、こいつは……」
“イマミマイ”……前作でも聞いたことが無い名前だ。
「誰だこいつ……」
「もし主様にまとわりつく羽虫だとしたら、即刻抹殺する許可を」
殺意高過ぎだろ。さっきまでの雰囲気はどうした。
『兎にも角にも、会ってみるしかないか』




