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第四節 背信 1話目

「……で、結局こうなるのかよ」


 なんでこいつは寝るとき毎回裸なんだよ。というか俺が先に起きていなかったらとんでもない誤解を受けるだろ。

 というか俺もなんでいつの間に脱がされているの? 滅茶苦茶怖くなってきたんだが!?


「ひとまず着替えないと――」

「おはようパパ! 久しぶりに帰ってきたので、朝ごはんの準備を頑張ってみまし、た……」


 ――ドアを開けて元気よく朝の挨拶をするウタの目には、とても刺激の強い光景が映っていただろう。上半身を起こした俺は一糸まとわぬ姿をしていて、その隣には同じく裸のままのラスト(ママ)が横になってすやすやと眠っている。

 他の二人よりも年長者であるウタは、どうやら大人な知識もそれなりに備わっていたようで――


「ごっ、ごめんなさい! 私は何も見ていないです!」

「えっ? ……いや、ちょっ――」

「ご、ご飯はできていますので!」


 ――そうして勢いよくドアを閉めて出ていった少女が、階段を急ぎ足で降りていく音まで聞こえてくる。


「……はぁあああ……ったく。後で誤解を解く――いや、どうやって解けばいいんだよ……」

「ふぁああ……おはようございます、主様。どうかしましたか?」


 今回の勘違いを巻き起こさせた主犯が、寝ぼけ眼をこすりながら起き上がってくる――って、色々とこぼれそうだからちゃんと布団で隠せ。


『寝るときに裸族になるのは止めろって前言ってなかったっけか?』

「らぞく? 私は魔族ではありますが――」

『そういうことじゃない。いや、なんて説明すればいいのか……とにかく服を着ろ。後俺は寝るときに服を着ていたはずなのに、朝起きたら服が無くなっていたんだが――』

「そ、それは分かりません……」


 しらを切りやがったぞこいつ。なんか寝ているときに賢者モードに入ったような開放感があったようななかったようなって感じだったが、この分だとこいつに何かされたに違いない。


『頼むから寝ている時に襲うのは止めてくれ』

「では、起きている時であれば構いませんね?」

『だからそういう訳じゃ――』


 一瞬の隙を取られてか、俺は両腕を押さえつけられるような形でラストに組み伏せられてしまう。


「っ、待て! これってまさかデジャヴ――」

「大丈夫ですよ、主様。扉には防護魔法をかけましたから、さっきみたいに開けられることはないですから」

「さっきって、お前まさか起きてた――」


 そこから先に口を塞がれてしまった俺は、色欲の名を冠する最強の魔性の女に、体を貪られることとなる――


「――久々の交わりですもの、そう簡単に逃しませんわ……」



          ◆ ◆ ◆



「飯だ飯! いっただっきまーす!」


 ユズハの元気のいい声がリビングに響く中、ウタはぎこちない様子で朝ごはんとして作ったトーストを手に取る。


「どうしたウタ? 朝早起きしすぎて眠いのか?」

「というより、何か心配事?」

「えっ? ううん! 何でもないよ! 食べましょ!」


 ユズハとアリサ、二人が心配そうにしている中でウタは空元気といった様子でふるまっているが、俺はその原因を知っている。

 そしてその原因に、俺はやつれた姿になるまで朝から絞られてしまっている。


「ウフフフフ……」

「なんだ、随分と上機嫌じゃないか。我が娘よ」

「あら、貴方には関係ないわ」


 口調もなんとなくではあるがいつもより柔らかくなっている。それもそのはずだろうな、朝から別腹として、己が種族特有の食い物となるものを貪り食ったんだからよ。


「……はぁ」

「対するお前の方は随分と疲れている様子だが」

『気にしないでくれ。というか、放っておいてくれ』


 本気で思うんだがラストを自分の娘だというのなら、もうちょっと色々と設定変えた方がいいと思うぞ。今もっと元気があったとしたら、何をどう考えて自分の娘をあんな風に仕立て上げたんだと小一時間問い詰めてやりたいくらいだ。


「一体何があったのか、まあどうでもいいが」


 だったら最初から詮索するな。


「さ、さーて、パパもママも食べ終わったら食器を片付けておいてね! 後は私が洗いものしておくから!」

「今日の当番はウタちゃんだもんね!」

「アリサも手伝っていいんだよー?」

「えぇー!?」


 そうしてウタとアリサが台所の方へと向かい、ユズハもおかわりのパンまで食べ終えると、自身の食器をもって台所へと向かう。


「おっと、私の分も片付けておいてくれないか?」

「えぇー!? グリードさんってばそうやっていっつも怠けてるよな!」

「年長者には従うものだぞ?」


 AIがものを言うな。


「しょうがないなぁ」

「その代わりに、お前達が見えないところで、私なりにこの家を“護っている”んだからおあいこだ」


 護っているだと?


『……誰か来ていたのか? それとも襲撃があったのか?』

「というより、それぞれの家の様子を伺っていたとでも言っておこうか」


 グリードの意味深長な言葉を耳にして、無視するわけにもいかない。


『一体誰だ』

「知らん。私も覚えがない。ただ、大仰なことはしていないが、一応そこらのNPCの民家と同等と誤認識させるようにカモフラージュしておいてやったが」


 例の神刃派閥が絡んでいるのか……? あるいはまったく別の勢力か?


『お前達七つの大罪(セブンス・シン)を探していた可能性は?』

「その可能性は低いかと」


 ここでラストが会話に割って入ってくる。冷静な口ぶりからして、オラクル関連ではないらしい。


『なんで分かる?』

「昨日の夜中も、主様が寝ている間に家の周りを探っている輩がいましたので、始末しておきました」

『情報は引き出していないのか?』

「いえ。ただ折角の楽しみを邪魔されてムカついたので、【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】で即座に消しさってしまいました……」

「ええ……」


 というかこれで夜中に俺が襲われたのが確定かよ。それと下手に手を出したせいでこの家が逆にマークされやしないか?


『……ひとまず、このことも含めて一度レリアンの方に顔を出した方がよさそうだな』

「えぇー!? 今日こそ稽古をつけてもらえると思ったのにー!」

『だったらユズハもこっちに来るか? 俺以外にも稽古をつけてもらえるかもしれないぞ』


 それにその方が楽できるかもしれないし。


「だったらついていくー!」

『よし、それなら荷物をもってこい。すぐに出立して、夜までには戻ってくるぞ』

「分かった!」


 すぐに準備に取り掛かろうとするユズハの背中を追いながら、グリードは大きくため息をつく。


「やれやれ、私はまた子守りか」

『すぐに帰ってくるさ。それにわざわざ夜中に行動しているってことは、昼間はそんなに派手に動いてこないはずだ』

「ふ、だといいがな――」

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