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第三節 真相を知りたくば…… 2話目

「そもそもミーとしてはオラクルプログラムなんて代物、埃被った化石と同じくらい放置したプログラムだったんだヨ」


 どこから取り出したのか、ジュースの入ったコップにストローを突き刺しながら、システマはこれから長話をするかのように目の前の空間に居座り始める。


「なんかいつの間にか開発者プロデューサーやユーが丹精込めて創った七つの大罪(セブンス・シン)にヘイトを向けて抹消しに行っているようだけど、そんなことの為に創った代物じゃないよネー」

「確認だが、あれはそもそもAIではない現実世界の私(ディレクター)と、貴様を創ったプロデューサーの間で作成された自立するバグフィックスプログラムだったよな?」

「そうそう、懐かしい話だよネー」


 さらりと目の前で開発裏話を聞かされているけど、これ聞いてていいのか? 案の定ラストは分からない会話に参加できず、置いてきぼりをくらっている様子だし……。


「ミーも正式サービスの日にベヨシュタットであんなことかまされてムキーッてきちゃったけどサ、逆に逆手にとっちゃえって思っちゃってネ!」

『ちょっといいか? それってつまりあそこでオラクルが出てきたり、現状としてオラクルが首都圏内で神扱いされていること自体が間違っているってことか?』


 このまま話を聞いていても、恐らくグリードとシステマの間でしか話の理解が進まないだろう。

 下手に首を突っ込んで消されるリスクも考えたが、そもそもそのつもりなら最初から喋るために現れていないだろうし、俺は危険を承知で話に割り込んだ。


『もしそうだとしたら、システマの権限で全部巻き戻し(ロールバック)すればいいんじゃないか?』

「んー、あれだけ大規模のプレイヤーに見られて、しかも説得力のある登場のされ方をしておいて、ハイじゃあ今のナシでっていうのも、ミーとしては取りたくない手段なんだよネー」

「一度リリースされたものをそう簡単に取り消しというのは、開発としての信用を無くしかねないしな」

「そうそう! 流石はディレクターのAI! 分かっているじゃないのサ!」


 こいつら変なところで開発者のプライドを出しているな……ということは、今回のアップデートで武器を追加したということは、システマなりの対抗策を打ち出したってことか。


「既にある程度バグフィックスプログラム兼神の御使いとして猛威を振るっちゃっているしサ。それにせっかく現れた強敵をナーフするのって、正攻法で攻略しようとしている今のプレイヤーを馬鹿にしているようにも感じるからネ。あれが最大限の支援って感じかナ?」


 運営システマとしてのとしての最大限の救済措置を出したのだろうが、ここで一つ疑問が残る。


『だがもし支援者がまだオラクルをいじれるとしたら、それに対抗するべくバフを入れるんじゃないか?』

「その辺は心配無用!」


 システマは俺に笑顔を向けてそう言ったが、その目は一切笑っていないのが分かる。


「次に勝手に重要プログラムやシステム面をいじったりしたら、開発組全員の“連帯責任(ペナルティ)”とするって“忠告”入れておいたからサ!」


 その連帯責任の内容は、推して知るべしということなのだろう。これ以上の好き勝手は無いとみてよさそうだ。


『……そうか。なら安心してオラクルの攻略もできるってことだな』

「そうだネ! ユーみたいなちゃんとしたプレイヤーにぶっ飛ばしてほしいってもんだヨ!」

「ぶっ飛ばさせるのはいいが、ちゃんとバックアップは取っておけよ。一応元々はバグフィックスプログラムなのだから、データまでぶっ飛ばすのは勿体ないからな」


 ハハハハッ、と笑う二人。そのノリに置いてきぼりな俺。そして――


「――私も、この場で聞きたいことがある」

「んー? ……おやおや、ミーの姿は通常無視されるよう世界ゲームの設定をしている筈なのに質問かい? というか、そもそもユーだけはいつもミーの事を明確に認識しているし、ある種の神(ゲームマスター)として恐れている節があるよネ?」

「そりゃそうだ。ラストは私が“特別”に創った存在だからな」

「っ……私が聞きたいのは、何私だけが二人を認識できて、恐れの感情を持たされ、こうして問いかけるのができるのかということだ!!」

『……確かに、それは俺も前々から気になっていた』


 ラスト以外のこの世界の住人(AI)は、システマを近くで認識しても、まるで最初から存在していなかったかのようにふるまう。プレイヤーがゲームの専門用語で語りかけたとしても、NPCはそれを理解できず、知らない言葉を語る者として扱われてしまう。

 しかし彼女は――ラストだけはその言葉を分からないながらも、こうして話に交わり、言葉の意味を会得しようとしている。


「うーん……これもミーにとっては、ある意味不具合(バグ)扱いしたいところなんだけどサ……」

「ラストを創ったのは私であり、そして私は彼女の母親としてインプットされた存在(AI)だ。仮にシステマが相手だろうと、今更書き換えさせたりはしないぞ」

「――って感じだからネー。そういう意味でオラクルと同じでお目こぼしで放置しているって感じかナ」

『だとすれば、この質問はグリードが答える必要があるだろう』


 そうして俺とラストは真剣な表情でグリードの方を見つめ、答えを語るのをじっと待っていた。しかしグリードはその様子をみてニヤニヤとしているばかりで、まともに答えようともしない。


「……はぁ、羨ましいねぇ。ここまで人に愛されている娘を見ると、エンヴィーという訳ではないが嫉妬してしまうよ」

「話をはぐらかすな! 答えろ!」

「やーだねっ! どうしても答えてほしいなら、そうだな……お前の主に提示した例のパラドックスクエスト」

『あれか。ラストの過去についてのクエストだったか?』

「それの真相を明かした上でのクリア、つまりトゥルーエンドに一発で到達できれば教えてやろう。そもそも私の提示した“パラドックスクエスト”は、一回しか挑戦できないがな」


 ……ん? それって相当難易度高くないか?


『……滅茶苦茶なことふっかけてくるじゃないか』

「それくらいに秘密にしたいってことさ」

「ちょっ、そのクエスト名、ミーのパクリじゃん!」

「ゲーム内に導入したのは私が先だ。むしろそっちがログを見てパクっただろ?」


 開発二人のことはさておき、ラストだけが持つ感情、恐れ、想いに秘められたものが何なのかを知るためには、グリードによって提示された最高難易度のクエストを、“トゥルーエンド”という条件付きでクリアしなければならないということになる。


「……主様」

『ああ、分かってる。だが今は無理だ』

「どうしてですか!」

『全ての真相を明かす一発勝負……辿り着くには今の俺のレベルでは足りないって話だ』


 焦って即座に受注、失敗だけは避けたいし、向こうも半分はそれを狙っているだろう。

 だが俺はラストの為にも、失敗をすることだけはしたくない。


「でしたら、どうすれば――」

『簡単だ。もっと強くなればいい』


 それこそラストにサポートに回って貰ったりしなくても、逆にラストを守れるほどの力を、俺が手に入れればいい。

 その為にも俺は、もっともっと戦い続ける必要がある。オラクルが相手だろうと、誰が相手だろうと叩き斬れるくらいに強くなってやる。


「……聞くべきところとしてはこんなものか」

「ん?」

「どしたノー?」

『開発裏話はもう十分だということだ。俺はもう寝る』


 あくびをしながら軽く伸びをし、ソファから立ち上がって自室へと戻る。


「そっかー。じゃ、まだまだアプデも続けるから楽しんでネ、ジョージ!」


 背中に投げつけられたシステマの言葉に軽く手を振って答えながら、俺はその場を後にしようとした。


「待ってください、主様!」

「ん? 『一緒に寝るか? ラスト』」

「そうですね! ……えっ!? 主様今なんと!?」


 普段なら絶対にかけるはずのない言葉を前に、ラストは自身の耳を疑っている。


『聞いてないならいいさ。こんなの恥ずかしくて二度も誘うかよ……おやすみ、ラスト』

「待ってください主様! 私も床を共にしますわ!」


 そうしてその場からラストが慌ただしく消えていく中、グリードとシステマは口角を小さく上げ、独り言のようにぽつりとつぶやく。


「……あの男であれば、もしかしたらがあり得るかもしれないな――」

「うーん、どうだろうネ。ミーとしても、前作をクリアしたあの男には期待しているけどネ――」




 ――“娘の真実(トゥルーエンド)”に辿り着くことを。

 ――“共同開発者の反逆計画(リベリオンワールド)”を打ち壊してくれることを。

 ということで大きな伏線を遥か先に向けて張らせてもらいました(´・ω・`)。これからも面白い展開を用意しておりますので、ご堪能いただければ幸いです。そしてもしよろしければ評価等いただければ作者のやる気の元となりますので投げて頂ければ幸いです。

 P.S.活動報告の方に宣伝も兼ねてこの後現在書き貯めている先の展開についてちょっとだけ公開しようかと思っています。よろしければ覗いて行っていただければ幸いです。

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