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第一節 道のり 3話目 インフィニットブレード

「うるさい奴、殺す」

『実にシンプルだな、分かりやすいのは嫌いじゃない』


 先程の男とは明らかに格が違うのは肌で感じることができる。体感的にはレベル80くらいといったところか? 俺に鑑定スキルなんて無いから断言はできないが。


「まずは小手調べ……」


 俺は静かに腰元に手を添えると、集中力を高めて相手の出方をうかがう。当然ながら敵は敵、油断は禁物。

 しかしそれとは相反して心の中に湧き起こっているのは、今の“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”のギルドメンバーと思わしき人間の実力を測りたいという、興味本位な考え。


「どうやって殺そっかな」


 そう言い放つチェイスの手に収まっているのは、最初に男に刺さっていた時と同じ通常サイズの鎌。しかしそこから何かしらの技なり魔法なりでサイズが変わり、さっきのように攻撃判定の範囲が変わる。先程見たサイズがマックスだと仮定すればおおよその回避方法は組み立てられるが、問題はあれ以上のサイズにすることができた場合だ。


「いなすことくらいは簡単だが、問題は車両に被害が出ないようにしないといけないからな……」

「ゴチャゴチャ、うるさい!」


 チェイスの手から放たれた鎖鎌は真っ直ぐに俺の方へと飛んでくるが、そんな単純な攻撃で俺を倒すことなどできはしない。


『無駄だ』


 当初の予定通り、列車の外に弾き飛ばすことで初撃をいなすが、チェイスは自分の身体に引っかけるようにして鎖を絡めとって鎌を回収すると、もう一度といわんばかりに横薙ぎに鎖鎌を振るってくる。

 そして俺が注意していた鎖鎌のサイズの変化が始まる。


「サイス・サイズ――“死神の大鎌(デスサイズ)”!!」

「ハッ! やはりな――」


 予想できていたというべきか、俺は足払いをするかのように飛んでくる鎖鎌を跳躍して回避、そのまま一気に距離を詰める。


『――飛び道具は懐に入られた時に対処できるかどうかの方に重きを置くんだな』

「くっサイス・サイズ――」


 恐らくはサイズを小さくして素早く手元に引き戻しておきたかったのだろうが、もう遅い。


『残念だが、これで終わりだ』


 既に鎖鎌は引き戻されつつあるが、その前に鎖を断ち切ってしまえば彼女の手にはまともに戻ってこない。


「よっと」


 刀の切っ先を喉元に向け、空いた後ろ手に飛んできた鎌の取っ手をキャッチすれば、目の前に立っているのはただの鎖を身体に巻き付けただけの少女。


『……どうだ? “元”刀王からの助言、少しは役に立ちそうか?』

「刀王……えっ? ええっ?」


 ここでまたもう一悶着かあるいは悪あがきの一つはあるかと思いきや、戸惑いと混乱に目の前の少女は目を丸くしている。


「もしかして……ジョージさま?」

『様は別につける必要は無いが……しかしまあ、今の“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の質がたかが知れているということだけは理解できた』


 ため息交じりの厳しい言葉にしゅんとしている様子だが、事実として同じレベル帯の時とで比べたとしても見劣りすることは間違いない。俺だったら少なくともサブの装備としてナイフを所持するか、それこそ本来の鎖鎌と同様に反対側に分銅なりをつけて即席で対処をするなど考えることができる。


『平和ボケしているのか何か知らないが、鍛錬を怠るな。鍛えれば鍛える程スキルは伸び続ける』

「はい……」

『それに今回遠距離メインの弱点でもある接近戦だが、ある程度の対策は今からでも打つことはできる。例えば――』


 平社員だった俺に部下なんてものはいないが、後輩にアドバイスする時よりも丁寧な解説をしようとしたその時だった。

 突然として列車が金属をこすり合わせるような甲高い音を鳴らしたかと思えば、そのまま急ブレーキがかかってしまい、屋上にいた俺とチェイスはバランスを崩してしまう。


「わわっ」

「うおっ!?」


 そのまま俺がチェイスに向かって組み伏せるように倒れかかってしまい、気がつけば文字通りチェイスを押し倒してしまっている様な態勢となってしまう。


「…………」

「…………」


 つくづくタイラントコート付属のフードで自分の目線を隠しておいて良かったと思う時がある。今の俺の表情は、まともにチェイスには見せられない。明らかに年下の少女の発達途中の胸に顔を埋めてしまっているという、現実だと犯罪一直線の行為をしてしまっている自分の顔の想像などしたくもない。

 しばらくの無言の後、俺は何事も無かったかのように立ち上がり、刀を納めて鎌をチェイスへと渡す。できる限り無感情をつらぬいているつもりだが、果たしてこれが通用するかどうか。


『……まあ、なんだ、その……すまない』

「……いいよ」


 何が!?


「ジョージさま、触りたい? 触ってもいいよ?」


 えっ、ちょっと待って俺そんな風に見えてた? そんな風に見られてる?


『待て! 俺はそういうつもりじゃない! 俺は――』

「兄貴ぃ! 助けに来ました――ってお前!! 兄貴をどこにやった!!」


 本当ならば敵故に厳しく当たらなければならないが、今回はナイスタイミングと言わざるを得ない。


『……丁度いい。遠距離メインで接近戦を仕掛けられた場合の対処法についてのレッスンといこうか』

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