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第一節 変貌する国家 4話目

 おやつの時間に初投稿です(´・ω・`)

 その後はつつがなくレリューム領まで馬車は動き続け、更には御者の“頑張り”もあってか、途中休憩を取られることもなく三日で現地に到着することができた。


「こ、ここから先がレリューム領になります、へへ……」

『そうか。では馬車をもう少し走らせれば、ここを治めている伯爵の元につくことができるという訳だな』

「そ、そうなります」


 なるほど……じゃあ後は歩いて行っても問題なさそうだな。


『じゃあお前にもう用はないな』

「そ、そうですか! ご利用ありがとうござい――」


 抜刀法・壱式――刎斬はねきり


「……用はないから死ねってことだ」


 無様に地面に転がる御者の首を見て、思わず鼻で笑ってしまう。こんな姿を見たら、シロさんやベスに無礼奴ブレイドとしての精神を常に持ち続けているのかと野次を飛ばされそうだが、誰も見ていないならどうでもいい。

 元々俺達に手を出そうとしていたのもあるし、下手に生き永らえて無駄に尾ひれのついた噂話とかをばら撒かれても困るしな。


『さて……ラスト』

「お呼びでしょうか、“旦那様”」

『旦那様って……ああ、俺がさっき妻だと言ったからか』

「ふふふ……このラストを妻と呼んで下さるなんて」

『まあ、何というか……咄嗟のことだからな』


 改めて言われると照れ臭くなってしまいとっさにフードで顔を隠そうとしたが、肝心のコートはラストに貸してしまっている為、顔を逸らすことでしか照れを隠すことができない。

 俺はそのままラストから色々と言い寄られるかもしれないと思ったが、意外にも彼女は妻という言葉を噛み締めるように使うだけで、いつものようにここぞとばかりに擦り寄ってくることもなく、素直に身の安全を喜んでいた。


「それでも、嬉しかったです……愛する旦那様に護って頂いたなんて、妻としてこれ以上の喜びはありません」

『……とにかく、不安を取り除けたのならいい』


 この馬車の旅の予定にはなかったが外で盗賊相手に大立ち回りで戦って守ったという事実は、少なくともラストにとっては守って貰っているという安心感を得る材料になったようだった。

 ……まあそういった意味では感謝してやろう、名も無き雑魚盗賊よ。だがそれはそれとして、業者を生かしておくつもりもなかったが。


『それはそうと、ここでの証拠は全て消す。【死刻塵顛陣タイム・オブ・デス】で馬車と業者の死体を朽ち果てさせておけ』

「……承知しました、()()


 気持ちを切り替えて、お互いに真面目に事後処理について話し合う。ここからは歩きとなるが、油断はできない。俺自身も相手が格下ならともかく、同格近い敵が出てきた場合だと防具の差で負ける可能性がある。

 かといってラストの姿をここで晒すとしてもリスクを負うことになる。ここは伯爵の領地、つまり剣王側の人間の領地。刀王が治めているガレリアや、戦術魔物という名分で投入できる戦地とは訳が違う。


『ギルドを通した依頼とはいえ、ここは伯爵領。いざというときは俺が前に出るから、お前にはサポートを頼む』

「勿論です、主様」


 打ち合わせも済んだところで、馬車が何度も行き来することでできた野道を、俺とラストは歩いて行くこととなった。



          ◆ ◆ ◆



「――でかいな」


 当然ながらここらの領地を治めている領主なのだから、屋敷も大きくて当然。装飾された門からは中の様子を伺うことができるが、誰かが出迎えているといった様子もなく、メイドや使用人の姿も見えない。


「誰に声をかければいいんだよ……」

「主様」

「ん?」

「そういえば主様は、貴族にはあまりいいイメージが無いようですが――」

『当然だろ。貴族院とは過去にどれだけやりあってきたか、お前も覚えているだろ?』

「もちろんですわ!」


 国民の代表である国民議会の案を通すために暗躍したり、リーニャ達のようなエルフ族を含む亜人の迫害を無くすためだったりと、貴族院の輩とは何かと衝突してきた。あまりにも目に余る連中に至っては、この手で消したこともあった。

 そんな百年前のことをいまだに奴らが覚えているかは知らないが、こっちとしては衝突があったことを忘れてはいけないし、それを頭に入れた上で行動をしなければならない。


『それにしても、どうやって中に入ればいいのか……』

「門を開けてはいればよろしいのでは?」

『鍵ならこじ開けて、とか言うなよ』

「むぅ……」


 そのつもりだったのかよ。


「……もしかしてこれが呼び鈴か?」


 門の取っ手に、鈴のようなものが結び付けられている。普通はそんなものをつけるようなものでもないと推測できるが、この状況だとこれを試しに鳴らしてみるのもありかもしれない。

 手で軽く鈴に触れて揺らすと、思った以上に澄んだ鈴の音色が辺りに凛と響き渡る。そうしてしばらくすると、屋敷の扉が開いて中から一人の使用人らしき男がこちらへと向かってくる。


「こちらはベストラード伯爵の屋敷となりますが、ご用件は何でしょうか?」

『“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”所属のジョージという。この度はそちらのベストラード公にチェーザム奪取の件で呼ばれてきた次第だ』

「は、はぁ……少々お待ちを」


 そんな顔をしかめられても、中世の貴族相手の礼儀作法とか知らねぇよ……エニシやシロさんじゃあるまいし。

 不審な輩と疑うような視線を向ける使用人が屋敷の中へと姿を消してからしばらくすると、再び屋敷の扉が使用人の手によって開かれる。そうして扉の奥から現れたのは、モノクルをかけた上品な紳士だった。


「これはこれは、西の遠いところから遠路はるばる、ご足労をかけましたな」

『貴方がベストラード伯爵か』

「いかにも。ささ、屋敷へと――ん?」

「っ……!」


 当然ながら、ここでもフードを深くかぶったラストの姿は疑われる――というか、トレードマークのタイラントコートを身に着けていない俺の方が見た目的にはある意味疑われるべきだと思うんだが、もしかしてこの人も俺の事あまり知らない感じか?


「失礼だが、この方は――」

『俺の連れだ。怪しい者じゃない』

「怪しい者じゃないと言われても、これから中で対話をするにあたって顔を露わにしないのはどうかと――」

『そうか。だったら帰らせてもらう』


 下手にラストの姿を晒すくらいなら、話は無かったことにさせてもらう。

 相手のその後の言葉を聞く様子も見せずに伯爵に背を向け、ラストを連れて帰ろうとすると、屋敷の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「大丈夫ですよ、ジョージさん! 彼は“味方”ですよ!」

『っ……その声はシロさんか』


 振り返ると、確かにそこにシロさんがいる。仲間がいることを知った俺は、ひとまず変えるのをやめて再び対話の姿勢を取って伯爵の方を見やる。伯爵はというと、同じギルドとして呼び止めてくれたことに感謝の言葉を述べている。


「おお、シロ殿。助かった、一体どうしようかと困っていたところだったのだ」

「申し訳ありませんが、彼が引き連れているのは今のご時世色々と訳アリな存在でして。詳しくは中に入ってからお話をしましょうか――」

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