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第二節 変貌する国家 2話目

『確かまだ領地替えが終わっていないからレリューム領にいるって話だったか』

「レリューム領にはこれまで行ったことがありませんでしたよね?」

『そうだな。だとすれば馬車を借りていく他ないか』


 首都までは【転送(トランジ)】で一瞬、しかしそこから三日ほど北東に馬車を走らせなければレリューム領に到着できない。


『首都を経由しての移動……ひとまず【転送】で送ってくれ』

「承知しました、主様――」




 ――ラストの転移魔法での移動で首都に到着したのはよかったが、眼前に広がっていた光景は明らかな異様さを感じさせるものだった。


「なんだ、これは……」

「……っ!」


 噴水広場にかつて建てられていた、初代剣王を模した巨大な銅像。いつも見慣れた光景で気にかけていなかった筈のものが、存在していない。

 代わりにそこに建っていたのは、終戦記念日のパレードで三代目が天から呼び出していた異形オラクルの形をした銅像。


「一体どういうことだ!?」


 エニシはこの違和感に気が付かなかったのか!? いや、そもそも奴は新規組、こういった前作との関係性の深い部分に気が付くのは難しい。

 だとすればシロさんはどうだ? いや、あの人もレリアンを中心に活動しているから首都に顔出すことはない。そもそもオラクルが出てきて以来、首都に行き来する機会をギルド内では減らしていたことが、この事態に気づくのを遅らせている。


「……嫌な予感がする……」


 噴水広場には俺達と同様に【転送】でやってくる冒険者も多い。というよりも特に細かい指定もなく首都に転移をすれば必ずここに飛ばされることになっている。

 そんなありふれた光景であるはずなのに、俺に――正確には俺の引き連れている戦術魔物に妙な視線が集まり始める。


「もしかして、あれが噂の……?」

七つの大罪(セブンス・シン)か……気味が悪いな」

「っ、主様……」

『……ひとまず俺の上着を貸してやるから、フードを深くかぶっておけ』


 グリードのようにこれからも貸す機会を考慮していた俺は、自身に代わりに武士の標準装備に則って製作された極東地方の軽装鎧を身に着け、ラストとともに広場から離れることにした。


「……益々もって嫌な予感が増してきたな」



          ◆ ◆ ◆



『――レリューム領まで乗せてくれ』

「へい! そちらの方も一緒で?」

『ああ。問題ないだろう?』


 首都を中心に鉄道網が発達した今、あまり利用されていないように思える駅馬車や辻馬車だが、現実におけるバスのように鉄道を通し辛い地域に向かうのに適している。今回向かうレリューム領もその部類で、首都近くの領地だが発展しているかと問われると農民が多くいるところから文明的にはそこまでといった土地だ。

 本当ならば少しばかり金銭を節約するために駅馬車を考えたが、首都の異様さを感じ取った今では、個人で利用できる辻馬車の方が何かと都合がいいように思われた。


「では、念の為お連れ様の顔も見せていただけますかい?」


 ――この一言を聞くまでは。


『……それは何故だ』

「何故って……近頃は物騒な話が多くてですね、三代目剣王様も自らが信仰するオラクルの銅像を建てて祈ることで、この首都の安全を――」

「あんなものが神な訳ないだろうが!!」


 お喋りな御者の言葉に、俺は思わず怒りの声を挙げてしまった。

 暫くの沈黙が続き、そして御者の俺に対する目が疑いに変わろうとした瞬間、俺は咳払いをしてとっさのでっち上げの言葉を並べる。


『……すまない。我々が信仰している神なんだが、非常に不本意なんだが世間から邪教と言われていてね。オラクルとの扱いの違いに苛立ちから声を荒げてしまったんだ』

「そ、そうだったのかい。機嫌を損ねてすまねぇな。それで、そっちの方の顔を――」

『我々の教えには、妻の顔を他人に見られたらそいつを必ず殺さなければならないという厳しい規律がある。済まないが彼女の顔を明かすのは君の命の為にも止めてもらっていいだろうか。明かせない分、倍の報酬を先に支払おう』

「倍額……ま、まあ先払いならいいか」


 そうしてなんとかラストの存在をごまかしきり、無事に馬車を借りることができた。


「途中休憩挟んで4日ほどかかりますがよろしいですかい?」

『構わない。行ってくれ』

「へい!」


 御者と話すための窓を閉じ、外から見られないようにカーテンも閉めた俺は、フードを深くかぶって震える彼女の隣に座る。


「……俺がいるから安心しろ」

「……っ、はい……」


 そうしてラストは俺の右腕を抱き寄せ、ぎゅっと自らの胸に押し当てて、深呼吸を何度も繰り返していた――

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