第八節 王対王 3話目 Unlimited Kick
――クソッ、やっぱり俺が出ておくべきだったか!
「今からでも遅くない! ジョージ殿! それがし達も加勢を――」
『そうしたいのはやまやまだが……残念だがそれは無理だ、グスタフさん』
そんなことをしてみろ、向こうの遠距離職も加勢に入って面倒なことになる。
「――なるほど、困りましたね……」
そして現場のシロさんからも余裕の表情が今度こそ完全に消え、かつて仲間同士の訓練として俺を相手取った時のような、戦いに対して真剣そのものの表情へと変わる。
「金剛脚、王特有のスキルか何かですかね……」
「どんな物理属性もきかねぇパッシブスキルだ。悪いことは言わねぇから脚を斬るのは諦めな」
「そうですか、ならばッ!」
――その時、俺も同じことを考えていた。さっきシロさんが受けたのは蹴った方の脚。流石に反対側の軸足にまではかかっている筈がない。
ひたすらに両剣を振り回して蹴りのラッシュをいなしながら、軸足を狙っての下段の切り払い。
だが――
「――っ!?」
「軸足にはかかってねぇって、誰が言ったんだオラァ!」
ヴェルサスは軸足を切り替えるようにして、反対側の脚でもっての回転蹴り。そこから手を地面について、ブレイクダンスの技にあるウィンドミルのように両足を回転させる。
「オラオラァ!! まだまだ行くぜぇ!!」
両剣VS両脚。傍目に見て、おいそれと戦いに交わることなどできはしない。
「まるで暴風のようだな……」
『荒れ地の主と呼ばれたあんたでも、あそこには突っ込みたくないか』
「そうだな……余りにも戦闘スピードが速すぎる」
この俺ですら、あの中に割って入るなら籠鶴瓶を抜く覚悟を持って入らなければならないだろう。それほどまでに苛烈で熾烈な戦いの渦が、たった二人で作り上げられている。
「ブレイドダンス・サークレット!!」
丸鋸のように鋭く回すブレイドダンス・アサルトと似て非なる技。攻撃の為ではなく、受け流す為に円を描く。
そして隙あらば――
「シッ!!」
「っ、っとぉ!」
鋭く槍のように突く。だがそう何度も同じ手が通じる相手ではない。
「こっちも戦い方を変えてやんよぉ!!」
同じように円を描くような回し蹴りメインから、突然として前に突き出すような蹴り、そしていわゆるヤクザキックと言われるような、相手の防御の上から無理やり押し通す力技を使い始めた。
「オラ、どしたどしたぁ!!」
戦い方が変わったことで、再びシロさんには戦術の変更が必要となり、そしてそれを追いかけるように様々な蹴り技を繰り出していくヴェルサスの姿は、まさに脚王と言って差し支えない力を示している。
「あのシロ殿が完全に後手に回っているとは……やはり、同じ王の力を持っている、あるいは持っていた者でないと難しいか……!」
『シロさんは文句なしに強い。しかし剣の王はただ一人、そしてあの人は取って代わる気もない』
しかし称号が無くても、前作プレイヤーであればあの人がそれぞれの王に連なる実力を持っていることを誰もが知っている。王の冠がなくとも、誰もその力に疑いを持ったりはしない。
“無冠の王”――それが裏で呼ばれているシロさんの異名だった。
『――勝ちますよ、あの人なら』
恐らく、真っ向から。
「へっ、大分手が尽きてきたんじゃねぇかぁ!?」
「そうですね。確かにこれ以上、“この”装備では決着をつけることはできないでしょうね」
シロさんは距離をとると、敵の目の前でありながらステータスボードを開く。
「随分と悠長じゃねぇか!」
「ええ。こいつは呼び出すだけでいいので」
「そんな代物、俺が取り出す余裕をやるとでも思ってんのか――ッ!?」
――そう、余裕で取り出して見せた。というより、飛び出してきたといった表現が正しく思える。
「ちぃ、なんだよこれ!?」
「あぁ!? あの人いつの間に新武器手に入れたんだ!?」
蹴王と俺、ほぼ同時に驚愕の声を挙げる。それもそのはずで、あんな魔法武器など誰も見たことがない。
――シロさんが手に持っているのは剣の鞘だけ。肝心の剣はひとりでに宙に浮き、ヴェルサスの足撃を空中で受け止めている。
「――この武器の名前は報復者。レアリティレベル130の、今作で新たに追加された武器になります」




