第八節 王対王 1話目
「うぉおおおー!! 押して押して押しまくれ!! この戦況は前線のそれがし達が握っているんだぞ!!」
「うぉおおおおおおおお!!!!!」
グスタフの一声を皮切りに、前線での重圧な雄叫び――いや、咆哮に近い声が、戦地に響き渡る。そしてそれは前線だけではなく、ベヨシュタット側全員にとっての鼓舞となる。
前線は完全に押せ押せ状態で、乗りに乗った集団が敵を押し返しつつある。
「流石はグスタフさん……あの人の声は音響石いらずだ」
「うぉおおお!! やってやるぅうぁあああああ!!」
そして俺の部隊の中にも一人、呼応するように叫ぶ幹部もいる。もちろん、いい意味でだが。
「キョウ、うるさい」
「いいじゃねぇか!! 俺はあの人の気概が好きなだけだ!!」
そうだな。俺も、気合が入るってもんだ!
『殲滅し引き裂く剱、いざ参る!!』
「くっ……なんだ!?」
「そ、側面から奇襲だ!!」
砂丘の裏に隠れながら移動をし、キョウの叫びを皮切りに奇襲開始。それまで見えなかった敵兵の全貌が、俺の眼前に現れる。
「それにしても、なんて規模だ……」
百、千――否、万を超える大隊。そして味方もまた、貴族の支援によって集められた冒険者、兵士、あるいは別のギルドから雇われたプレイヤー、合わせて七千を超える人間がここで戦っている。今は姿を見せていないが、オラクルが出てくるのも時間の問題だ。
「おおおああああぁ!! 俺が全員ぶった切ってやらぁ!!」
切り込み隊長――キョウが猿叫に近い叫び声をあげながら、闘士達を次々と斬り捨て、俺たちが突き崩す道を作り上げていく。
『全員キョウに続け!! 俺達も手柄を立てるぞ!!』
「おおおおおお!!」
横からの奇襲により敵内部で乱戦、それによって前線はさらに押し込みやすくなる。
『闘士と戦うときは鉄皮甲は頭に入れておけ! 剣が弾かれたとしても怯むな!』
五体を武器にして戦うのが、拳王率いるナックベアの軍の主力の戦い方。しかし今作ではそんな軍勢の中にも剣士がいて、魔導士もいて、銃士もいる。だが基本的に同じ前線にいるのは近接組だ。
「うぉぉ! やぁ!!」
「邪魔だ、どけ!」
抜刀法・参式――霧捌ッ!!
「のごぁあ!」
乱戦なら参式一択。次々に敵を巻き込み、斬り刻み、戦場に穴を開けていく。それに負けじと、キョウも、チェイスも、皆それぞれが敵と戦っている。
「今のところ魔法の気配もない。狙撃もない。向こうは本気で数で押し切るつもりだったのか?」
だったら一人十殺の意気込みで行けばいいか。
「俺は一人百殺でも千殺でもやるつもりだが――っ!!」
飛んできた銃弾を弾き、俺は即座に弾丸が飛んできた方向を見やる。
「狙撃部隊……もうそこまで押し入っていたか」
それまで優勢だった前線も停滞、硬直まで追い込まれる。それまで一丸となっていた味方部隊も、敵と乱戦に持ち込むことで早々に狙いをつけにくくしている。
遠距離職が手を出し始めたということは、敵の後衛に近づいているということ。そうなったら俺達も行動を変更しなければならないが――
「――あれは!?」
味方の内の一人が、狙撃手を探して双眼鏡を覗いていると、驚愕の光景を目にしたようだ。
「槍を持った女が単独で狙撃部隊に襲撃をかけているぞ! どんどん倒していってる!」
「こっちの魔導士部隊も、後衛に攻撃を開始したようだぞ!」
『……どうやら、ベス達がいい所を持っていったようだな』
「かぁー! 今回は槍の大将が大手柄か!」
このままチェーザムまで雪崩れこめば、領地を獲れる。
「行くぞぉ皆の衆!! チェーザムまで攻め込めぇええ!!」
「おおおおおお!!!!!」
再びの雄叫びを挙げ、ベヨシュタットの進軍は続いていった――