第七節 暴走爆走突き抜けて 6話目
「――ここまでくれば安全だな」
『ああ、そうだな』
夜明けとともにザッハムの目と鼻の先まで逃げ切ることに成功した俺達は、残りもスピードを落とすことなく拠点地まで走りきる。
「……っ! おーい! みんな! 二人が帰ってきたぞー!」
見張りの一人が俺たちの姿を見つけたようで、拠点内に合図を送っている。
「よっと! 重傷者一名のお届けだ!」
『僧侶を集めてくれ! できる限り負傷を早く治すんだ!』
担架で救護所へと運ばれていくチェイスを見送った後、俺とクロウはその足でシロさん達の元へと向かい、向こう側の現状について情報を共有することにした。
「……そういえば今回のうちの総大将は誰になるんだ?」
『恐らくシロさんだろうよ。後衛だし一番強いし、まず倒されることはない』
「だよなー」
クロウと他愛のない話をしながら、軍議が行われている屯所の扉を開ける。
「お待ちしていましたよ二人とも。こちらです」
ぶっちゃけこっちは夜通し戦ってきて、報告だけで済ませるつもりで覗いたんだが、どうやらシロさん基準だとまだいけるだろ? といった様子で開かれた地図が置かれたテーブルへと案内されてしまう。
「ちょうど敵のレベル帯などの情報が欲しかったところなんですよ」
『なんですよ、じゃなくてこっちは眠いんだから簡潔な報告だけにしたいんだが』
「確かに、夜通しバイクの運転はきちぃぜ」
「まだまだ、お二人ともお若いんですから一徹程度いけるでしょう?」
ただのサラリーマンだったアラサーに徹夜を求めるな。地獄だった記憶しかないわ。
「話を戻しまして、敵のレベルはどの程度ほどでしたか? 戦った感触で構いませんので」
『それなんだが……ごめんシロさん、籠鶴瓶抜いちまったからレベルの違いもクソもわからないわ』
「……えぇー」
分かっていますとも。籠鶴瓶は前作だと刀における最高レアリティレベルである120で、その力も破格のものだ。そんなもので戦ったところで、木綿豆腐と絹ごし豆腐のどっちが固かった? くらいの差でしか理解できないことぐらいも知っている。
「困りましたね……」
『ひとまず敵の使ってきたスキルならいくつか分かっている。拠点の中でも主格だった奴は鉄皮甲を使っていた。それともう一人は、気配遮断スキル。はっきり言うとこっちの方は俺の殺気を探知する特殊探知スキルには引っかからないくらい高度なものだった』
「ふむ……鉄皮甲はともかく、気配の遮断はまずいですね……忍者でも混ざっていたのでしょうか……」
『遮断する方は俺が倒したが、こいつのせいで籠鶴瓶を抜いた部分もあるとだけ言っておく』
「なるほど、分かりました。でしたら何らかの対策は用意しておくべきでしょうね」
俺の探知スキルに引っかからないなら、ラストの探知スキルならどうだろうか――と思ったが、今回安全の為のお留守番の手筈だったか。となると、対抗策はそれなりに限られてくると思うが……。
「技術者の方で生体探知とか作って貰えないでしょうか?」
「それこそ二徹三徹コースだ。無茶苦茶言うなよ」
『しかし向こうの前線も崩したんだし、もう少し時間に余裕ができそうだと思うが』
「ええ、ボクもそう思っての頼み事だったんですが」
「仕方ねぇな……」
今まで無茶な納期を振られてきた俺が、他人に無茶な納期を振る側になってしまったか……すまんクロウ、後で何かしら謝礼を用意しておく。
『こっちの報告はこんなものだ。とりあえずこの後俺とクロウは休憩させてもらう』
「そうですか。ではボクはもう少し作戦を切り詰めておこうと思います」
そうして屯所を後にした俺は、近くの休憩所に足を運び、仮眠をとることに。
「少し寝るか……」
他にも多くの兵士が休憩をはさむ中、俺は座って壁に寄りかかりながら、舟をこぐように眠りについた――




