第七節 暴走爆走突き抜けて 4話目
「――大人しくそっちの手の内教えてくれれば解放でも何でもしてやるってのに、まったく口を割る気配がないとは、なんとも見上げた根性ネ」
「っ……」
砂漠で簡易拠点として設立されたテントの一つにて。ひもで縛り付けられても、幾重もの殴打が重なろうと、チェイスは決して口を開かなかった。
自分が喋ってしまうことで全てが台無しになる――自分の命よりもギルドのことを想っているからこそ、チェイスはどれだけ痛めつけられようと我慢し続けていた。
「つーかベヨシュタット側もどういう考え持ってんだ? こんなガキを斥候として送りつけてくるなんてよ」
「そういう自分もワタシから見れば十分ガキだヨ。まっ、ゲーム内のアバターを変えているからちょっと分かりづらいだろうけド」
大勢に囲まれている中から、二人の拳法家が口を開く。
片や真っ白なセーラー服を身につけたカタコトの少女。片や中国映画で見るような拳法家が身につけるような赤い服に袖を通した背の小さな青年。どちらもナックベア所属のプレイヤーであり、そして名うての拳法家でもあった。
「もうこうなったら殺すしかなくね? つーか殺してー」
「最近の若い子は血気盛んネ。まあワタシも若い頃を考えると人のこと言えないけド」
――前線を完全に崩壊まで追いやったナックベアの勢いは凄まじいものだった。夕方になる前には勝負を決していたナックベアはそのままザッハム方面へと夜も進軍を続け、更に領地を広げていく予定すら立っていた。
しかしその様子をじっとうかがっていたチェイスら偵察部隊に気がついた軍勢は、こうして数で一気に取り囲んで情報を絞り出すことを選択したのである。
「…………」
「もう殺そうぜ!? 鳴かぬなら殺してしまえホトトギスってことで!!」
「その勢いで彼女以外をぶっ殺しておいて、よく言うヨ」
「…………助け、て――」
◆ ◆ ◆
『――いるな。あの中に』
「ちょっ、流石に突っ込めとは言わないよな!?」
『突っ込んだところで無駄死にだ』
丁度砂丘に隠れるようにして、俺とクロウは敵の屯所の様子を伺っていた。
偵察部隊は恐らくこのテントの中のどれか一つで尋問を受けている。明かりとしてはかがり火と巨大なたき火くらいか。
『先に気がついておいて良かったな。遠くからヘッドランプ照らして突っ込んでいたら笑えない展開が待っていた』
「それに関しては確かにそうなんだよな……ってかこれで救援は無理だろ。何人生きているかは知らないが、何度も言うがこのバイクは二人乗りだ。つまり――」
『その時は俺が降りればいいという話もしたはずだ。それに、やりようは無い訳じゃない』
敵も偵察部隊を送り込まれていたということは、他の軍勢がいるという可能性も当然視野に入れているはず。
『まず偵察部隊は殺されることはない。敵の規模が分からない状況で、少しでも情報を引き出すべく生かしておくのが定石』
考えもなく皆殺しにしたところで、いざ敵軍勢を見つけた時に大規模軍勢だったら、今度は自分達が滅ぼされるのが目に見えているからな。
「だからまだ生きていると?」
『ああ。その証拠として、前線が崩壊しているにも関わらず警備が強固だ』
対集団を意識した警戒だが、個人で忍び込む分にはできなくもないように思える。
「潜入するってことか?」
『やるだけやってみる。派手な争いが始まったのが見えたらお前だけでも撤収しろ』
「それですぐに救援を寄越せってか。中々我が侭な作戦だ」
『いや、救援はいらない。潰せるならリーダー格を潰して俺も離脱する』
「本当に無茶苦茶だな……」
とにかくやってみないことには話は進まない。
『……行ってくる』
そうして俺はフードをより深く被り、夜の闇に紛れるようにしてテントの方へと近づいていった。




