第七節 暴走爆走突き抜けて 3話目
「資材が足りない、またレリアンから送って貰えるか?」
「了解した! それがしが補給に行ってこよう!」
ザッハムの拠点開発から二週間。定期的に前線の様子もうかがっているが、かなりの消耗が目立っている。もってあと一回か二回の衝突を重ねれば味方の軍は壊滅、敵国側はチェーザムからある程度の補給が済み次第、こちらへと進軍してくるとの予想だ。
『現時点で予定の何パーセントくらいだ?』
「七割といったところか。そこまで大規模ではないにしろ、納得のいくものにはしておきたい」
『レリアン程のものは期待していない。一時的に防いで、隙を見て切り返しができる時間を稼げれば十分だ』
「へっ、簡単に言ってくれるな」
荒れ果てていた砂漠の町が、巨大な城壁を備えた要塞へと生まれ変わろうとしている。優先順位もあってまずは外壁を優先して造り上げたのはいいが、内部まではまだ手が回っていない。
『そろそろ偵察が帰ってくる筈だが……』
今回の偵察部隊にはチェイスも向かわせている。キョウはそのまま戦いに参加しかねないことも踏まえて、現地で兵の訓練を任せている。
「……遅い」
出来上がったばかりの城壁の上からだだっ広い砂漠を見渡し、俺は一人呟く。
偵察に行ってきた者を毎回出迎えてはすぐに状況を聞き出すのが俺のここ最近のルーチンになっているのだが、今回は異様なまでに時間がかかりすぎている。
「日が暮れる……チッ、面倒だ」
城壁を急いで降りると、俺は近くの兵に声を掛ける。
『馬小屋はどこに建てた?』
「どうしたんです?」
『偵察が帰ってこない。ちょっと様子を見てくる』
「待ってください。貴方が行く必要はないかと」
俺の話が耳に入っていたのか、シロさんが俺の方に歩いてきて声を掛けてくる。
『どうしてだ?』
「偵察が帰ってこない……そうなると、下手すると今夜辺りに攻め込んでくる可能性もあり得ますかね」
『……捕まったとでも言いたいのか?』
「捕まったで済めば良いのですけど」
「……もしかして、消されたのか!?」
俺とシロさんの会話を聞いていた一人の兵士が大声を放ってしまったことで、辺りにも動揺が広がっていく。
「消されたって、まさか偵察が!?」
「今日の偵察は確か幹部もいるんじゃなかったか!?」
「っ!? 何だと!?」
そしてその動揺は、兵の訓練をしていたキョウの耳にまで届けられる。
「大将! どういうことだ!」
『落ち着けキョウ。まだ決まった訳じゃない』
その為に俺が今から向かえに行くのだから、まずはそれらも踏まえて今からの行動を考えていかなければならない。
『ひとまず俺が迎えに行く。俺なら多少の隠密行動も可能だ』
「それをするにしても、何人か連れて行った方がよろしいかと」
「それならいっそ、高機動の乗り物に乗って一気に接近離脱をはかった方が良くないか?」
技術者のクロウがそういって提案してきたのは、馬よりも高機動な乗り物を使った電撃作戦。
「こっちで余った資材を使って、遊びで一台だけ作ることができた」
クロウの後を追っていくと、そこには現実世界におけるバイクのような乗り物が一台留められている。
「グランドウォーカー。まっ、バイクみたいなものだが、タイヤの幅が異常に広いだろ?」
『ああ』
「これならどんな悪路だろうと止まることなく進むことができる。砂漠程度なら速度も落とさずに運用できるだろう」
『何人乗りだ?』
「一応想定しているのは二人乗りまでだ」
『分かった』
そこで俺はクロウの肩に手を置くと、こう言った。
『俺とお前で偵察の迎えに行く』
「そうだな、俺がいた方がいざという時の修理も――って嘘だろ!?」
『本気だ』
バイクを作ったということは、少なくともクロウは運転ができるはず。俺はそもそも現実でもバイク免許は持ってないし、原付ですら一度か二度くらいしか運転したことがない。
「でも俺は全然耐久力無いから下手な流れ弾で死ぬ――」
『近接職相手なら俺が何とかする。帰りは最悪お前一人でも帰ればいい。その時偵察部隊は俺が引き受ける』
そうこうしているうちにも日は傾き、夕暮れが砂漠を赤く染め上げている。
『……頼む』
「……はぁー、まーじでテクニカ並に俺を酷使するじゃねぇか」
『でも満更でもないだろう? 皆お前を頼っているんだ』
「……そうだな。仕方ねぇ」
こうして急遽俺とクロウとで偵察部隊の様子見に向かうことが決定する。
「いざという時の通信機だ。これでザッハムと連絡が取れる」
「近くまで来れたなら、我々も出張ってきますので、何とか帰ってきてください」
『分かった。それじゃあ行くぞ』
最後のメンテナンスを済ませたクロウが、グランドウォーカーにまたがり、エンジンを掛ける。
「うほっ! いい音じゃないの!」
「うーむ、それがしもそういうものに乗ってみたいものだ!」
『これの運用が良さそうだったら、量産するのも有りかもしれないな』
そんなことを言いつつ、クロウの後ろの席に腰を下ろし、そして二人乗りの際に掴むレバーへと手を掛ける。
『現実とは違って後ろにも手すりみたいなものがあるんだな』
「男同士抱きつくとか気持ち悪いだろ? 俺の改造だ」
『フッ、そうだな』
確かに気持ち悪い。
そうしてクロウは爆音を鳴らしながらエンジンを本格的に作動させ、ヘッドランプを点灯させる。
「それじゃ、行ってくる!」
『ああ、急ごう』
こうして俺とクロウは、本来の偵察部隊が帰ってくるルートをなぞるように、前線の方へと向かっていった。




