第七節 暴走爆走突き抜けて 2話目
大筋の話は決まったところで、後はある程度の人員振り分けになるのだが――
『俺のところに一個小隊分の人員が欲しい。後は幹部から二人……チェイスとキョウ』
「っ!?」
「おっ!?」
『前回同様、二人を俺の小隊の補佐にしたい』
暇そうに鎖を噛んでいたチェイスと、先程ユンガーと言い争いにまで発展させていた血気盛んな侍のキョウ。この二人の面倒を見ることを俺は自ら提案した。
「別に構いませんが、何故その二人を?」
『以前にもこの二人で奇襲に成功しているからな。いざという時に動けるやつが手駒として欲しい』
「ジョージさまと、また戦えるなんて、うれしい」
「っしゃあ! また大将と暴れられるぜ!!」
「選ばれるのは良い事かもしれないが、ジョージ様の足だけは引っ張るなよ」
「何だとカイ!!」
二人を選んだもう一つの理由として、キョウを制御できそうなのがチェイスくらいで、後は一緒の配置だと今のように戦っている最中でもかち合いそうな気がするから、とは言えないな。
「では補給所の護衛の方はボクとユンガーで引き受けましょう」
「ハッ! このユンガー、先代の為に命を捧ぐ所存です」
「うーん、私は好きに戦いたいから、単独が良いわぁ」
シロさんとユンガーで補給線の確保、ベスと俺の部隊はいつも通り遊撃、そしてグスタフさんはというと――
「ではそれがしは中央突破の尖兵を務めよう!」
「そうですね。グスタフさんなら安心して任せられます」
『だったらそれに合わせて大隊を組んでもらおう。小手先抜きの真っ正面からの白兵戦が根幹の戦いになりそうだからな』
「うむ! やってやろうぞ!」
そうなってくると元々切り込み隊長をしていた血が騒ぐのか、キョウが落ち着かない様子でそわそわし始める。
「むぅうう……俺もそっちが良かったかなー……」
『行きたければ行っても良いぞ。止めはしないが、その代わりカイに来て貰う』
「それはいいですね! ジョージ様のところでは戦ったことがないので、良い勉強になりそうです!」
「っ、やめた! 大将のところで俺は戦うぞ!」
「チッ!」
……とにかく収まったようで良かった。
『それで、後は防衛陣の敷き方だが――』
「ちょっと待ってください師匠!」
大声で止めるようなことか? 二代目刀王よ。
『……何だティスタ。質問でもあるのか?』
俺としてはガレリアから大勢人出が減ることもあって、今後の領地内の防衛についても協議するべくこの場に呼んだのだが。
「私も師匠について行く!」
『ダメだ』
「えぇっ!?」
「ええ、ダメですね」
当然だ。この場にある程度の動ける輩がいる前提からこそ、テクニカもレリアン奪還に動き出せないのであって、人員のリソース全て外への攻勢に向けてしまえば、当然そこを敵もついてくる。
「刀王という圧力がなくなってしまえば、ガレリアなんて別の国がすぐに取りに来ますよ?」
「しかし……」
『それも修行だ。万が一防衛戦が始まったとなれば、シロさんがすぐに引き上げてそっちに向かう予定にもなっている』
「そうですね。【転送】元が潰されようものなら洒落になりませんからね」
少なくとも刀王がいることで敵もちょっかいをかけてくる程度で済んでいるのだから、それがいなくなったと知られた瞬間に雪崩を打ってくるのは目に見えている。
「それは、仕方ないですね……」
今動かせるNPCの中では一番レベルの高い彼女だからこそ、効果的な配置をしておきたい。その考えは俺とシロさんとでは共通していた。
「では、グスタフさんのところの分隊の選定も含めて、防衛陣の敷き方を詰めていきましょう――」
◆ ◆ ◆
「――これだけやれば、おおよそ大丈夫でしょう。後は現地で開発をしながら話し合いの場を設けても問題ありませんし」
「それがしも、今から急いで全体分の音響石の制作に取り組まなければ――」
「それについては心配ない。俺達技術者の方で通信機も開発しておく」
「おお、かたじけない!」
こうして円卓での話し合いも一応の区切りがついたところで、各々最後の準備に取りかかる為、その場を去って行く。
そんな中同じく準備の為に席を立っていたキョウとチェイスに俺は声を掛ける。
『ちょっといいか?』
「ん? どうした大将!」
『お前達、最初に幹部が一人足りないと言っていたな?』
「そうだよ」
あの場でわざわざ言うことはないものの、俺は正直気に入らなかった。
『何故ギルド全体で動こうという時に、そいつは顔を出さなかった』
「あれ? ジョージさま知らないの?」
「大将、最後の一人は第二王子のあの人だぜ?」
えっ?
『……あ、ああ! そういうことだったのか!』
「来なかったことを怒っているなら、テュエナに伝えるように言っておくけど?」
『いや! いい! 忘れろ!』
……マジかよ。王子が幹部の最後の席に着いているのかよ。
『……ああ、いや。やっぱり伝えるように言ってくれ』
「何を? 怒ってたこと?」
違うわ。
『今回のチェーザム侵攻についてだ。恐らくシロさんからも連絡が行くかもしれないが、念の為にな』
ここで俺とシロさんの考えが一致しているのであれば、今回は王子の神輿担ぎとして非常に役に立つ戦いになりそうだ。




