第五節 砂漠の境界線 8話目
表向きの仕様としては不具合修正の為のプログラム。しかしその実際の運用は――
「――恐らく狙いは私だ」
『あんたが狙い?』
「ああ。正確には私を含む七つの大罪の一掃だろうがな」
「なっ!?」
だからあの時、ラストの姿を探していたのか。そしてラストもまた、思わず恐怖していたのか。
圧倒的な上位敵存在。それが神の使いであるオラクルの正体。
『しかし何故ピンポイントでお前達大罪を狙う?』
「恐らくはディレクターの私がプレイヤーをどこかに隠しているのだと、運営がにらんでいるのだろう。もちろん私としてもいつまでもここにいる訳ではない。定期的に居場所を転々としては、こうして罠を張って少しずつプレイヤーを隔離するのが、“私”を作った“私”に与えられた使命なのだから」
まがいなりにも、グリードはグリードなりに、元の世界へと戻そうとしている。それが間違った答えだったとしても、今のプレイヤーに与えられた不安よりもマシだと信じているのだろう。
そして彼女の言い分の通りであれば、ゲーム世界から客を逃す存在などまさに不具合そのもの。だからこそオラクルはわざわざ君臨し、そして他のプレイヤーにも呼びかけていたのだろう。
――七つの大罪を、発見せよと。
「…………」
「……主様……」
「さて、オラクルに関してはこれで十分か? 特にフレーバーテキストも何もなく、ディレクター裏話っぽく単刀直入に語ってやったが」
『ああ、十分だ。こいつに関しては、余計な情報は必要ない。ただラストやあんたの身に危険が及ぼうとしているのは分かった』
では踏み込んでもう一つ質問。
『そのオラクルってのはプレイヤーにも危害を加えるのか?』
「いや、それはない。あくまでプログラミング上はバグフィックスのみの挙動しかしない。更にいうと、あの男の考えからして、そのような運用はしないと思うが……」
『あの男?』
「システマを作った張本人、何よりこのゲームのプロデューサーだ。まあ、奴と私とでは何かと意見が違っていた部分もあったから、そういった面でもこうして私の残したものを大義名分のもと潰すつもりなのだろう」
自虐気味に笑いながら、グリードは一人頷く。
『もう一つ質問だ。オラクルにこちらから干渉することは?』
「何? 奴を潰すとでも言いたいのか? ……そんなことをすれば、お前もバグ扱いされて攻撃対象になるぞ。そしてオラクルがプレイヤーに対して敵対行動を取った場合のテストプレイなどしていない。下手すれば無理に脳波の切断がされて、二度と起き上がれなくなる可能性もある」
だがそこで引き下がれるほど、俺も往生際は良くない。
『だが事の顛末次第ではオラクルと事を構える覚悟をしておかなければならない。ラストはもちろん、制作者のあんたを殺させない為にも』
「なっ……ばばば、バカを言うな! 口説いているつもりか!?」
「なっ!? 何を勘違いしているのだこの愚物は!? 主様も、こんな奴をわざわざ救うことなど――」
『いや、こいつが死ねば、それこそ向こうに行ってしまったプレイヤーの命が危ない。それとAIであるとはいえ、制作者であるあんたが運営に殺されるのを黙ってみているつもりもない』
「っ……ラストもこの手の口説き文句にやられた口か……?」
「そんなことはない。私は主様の全てを愛している」
何はともあれ、ここでグリードを失うということは、さらなる貴重な情報も絶たれることと同義。そう考えれば、ギルドで保護するのも一つの手として考えられる。
『とにかく、あんたは俺達の保護下にいてもらう。ラストを探していた時も思ったが、向こうはプログラム上で問答無用に出現する訳でもなさそうだからな』
「まあな。いきなりのバグフィックスなど、流石にゲーム染みていて面白くないとあの男も考えていたからな。あくまで汚染と戦って浄化する、というのがオラクルのやり方だ」
そう考えると、どうにかしてオラクルを倒す手立ても考える必要がありそうだ。
「少なくともお前達にとっては喜ばしいことかもしれないが、オラクルに攻撃は通るには通る。だが奴はあくまでバグフィックスプログラム。不具合からの攻撃に対処する為に、その個体が一度受けた攻撃に対して強固な耐性がつく」
『……つまり?』
「つまり一撃で倒さなければ、二度と倒せなくなるということだ」
『成る程な……それなら大丈夫だ』
自分で言うのもあれだが、武士は一撃必殺の技の宝庫だからな。
とりあえず大きな伏線を張っておきます(・ω・`)。