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第五節 砂漠の境界線 7話目

「――そんな、馬鹿な!?」

『だが実際に降臨するのを俺は見たぞ』


 オラクルという没プログラムが実行されていることを未だに信じようとしない制作者グリードに対して、俺はことの顛末を事細かに説明した。

 すると一転して話を信用するようになったのか、驚愕からやがて表情は神妙な面持ちとなり、こちらの話に本格的に耳を傾けてくれている様子。


「……成る程な。確かにそのグラフィックモデルを私は作ったことを覚えているし、没データとしながらもゲームに組み込んでいた。だがたった百年――じゃないか、外の世界だと十年か。その程度で見つかる程に浅いところに隠してはいないはずだが」


 そもそもプログラム一つ探すのに十年かかるってこのゲームどうなってるんだよ。


『とにかく、信用しては貰えたみたいだな』


 そう思って話を更に推し進めようとすると――


「主様ぁ!!」


 ――折角の真剣な空気を、一発で崩してしまうこの突撃ぶり。というより、ラストが聞いたところで俺達の会話は理解できないし、そもそも首をかしげるばかりでしかないと思うのだが。


「おまっ、シロさん達を見張るよう言っただろ!?」

「ああ、あの二人ならLP全快で起こしてあるし、それなりの物品の入った宝箱を近くに置いてきているから、そっちに気をとられていると思うぞ」

「私は主様第一なので、その様子を見てこっちに飛んできました!」


 しかし本当にお前がいても意味がないと思うんだが。そう考えていた俺とは対照的に、グリードは、まるで自分の子どもを見て何か思うところがあるかのような、物憂げな視線を送っている。


「……ラストよ。そいつがそんなに大切か?」

「……そういえば私を産んだと言ったか、グリード。貴様のような奴など、私の記憶には一切存在しないというのに、よくもそんな母親面ができるな。全くもって虫唾が走る」


 抱きついておきながらボスモードな口調で話されるとチグハグすぎて俺もどっちに会わせるべきか分からなくなる。


「そうか……まあ、そうだろうな。そうあるようにと、私が設定したのだからな」

「設定だと? 何を言っている」

「ああ、お前にも言い方が悪かったな。そういう風に“創り上げた”といった方が正しいのか」

「っ、黙れ!! 私は幼いころから孤独で、“独り”で生きてきた! 孤高の七つの大罪(セブンス・シン)として生きてきた私の何が分かる!!」


 取り付く島も無いその雰囲気に、俺も何も言い出すことができなかった。聞く限りでも嚙み合わない親子の会話に、部外者の俺は混ざることができない。


「ふっ……それで? お前の隣にいるそいつこそが、“三百年前に約束した相手”だとでも言いたいのか?」

「っ!? 何故それを!?」

「くくく……親には何もかもお見通しってやつだ」


 三百年前に約束した相手……? どういう意味だ?


『一体何を話している?』

「くくく……知りたいか? ラストは三百年前、とある人間と約束を交わしていたんだよ。そいつと共に、世界を旅するのだと」

「っ……」

『……それは本当か、ラスト?』

「……はい」


 ……ログインする時に寝取られとかそういうのがあったら嫌だなぁとか思っていたらとんでもない、既に三百年前に誰かと約束をしていたというのである。


「…………」

「……あっ、で、でも主様! その人のことは小さい時のことなので、顔もよく覚えていなくて――」

「覚えていない? そうか、では過去に戻って確認みるというのも一興」


 パチン、と指を鳴らすと同時に、俺のステータスボードに一件の通知が入る。


七つの大罪(セブンス・シン)の出生に近づく高難易度クエスト。クエスト種は……即興だが、“パラドックスクエスト”とでも名付けるか。お前にクリアできるものならしてみせるがいい」


 シロさんとベスには物品的な報酬が与えられ、そして俺にはラストがいるという条件を満たしたからなのか、別途特別なクエストが受注可能になった。


「…………」

「主様……」

『……まあいい。後で受けるとしよう。それよりも今は、オラクルについて詳しく説明をして貰おうじゃないか』


 ラストが来たことで話が横に逸れてしまったが(そっちも当然気にはなっているのだが)、今はオラクルについて、今のラストに近づいている危険についてが重要だ。

 そしてグリードの方もラストの時とは違ってオラクルについては話すかどうか悩んでいる様子で、しばらく黙りこくっていたものの、遂に決心がついたのか閉じていた口を静かに開いた。


「――オラクルは、余分な危険因子を破壊する上位プログラム。つまり普通のプレイヤーでは手が出せないような上位存在。もっと分かりやすくいうと――」


 ――運営が手を下せないという建前を残す為に、不穏因子バグを発見次第、自動で手を下してくれるような神の使いのようなプログラムだ。

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