第五節 砂漠の境界線 1話目
『……しかしなんだこの暑さは……ステータスボードの気温計も50℃を優に超えているぞ』
灼熱の太陽が、どこまでも続く砂地を照りつけている。ショートカットしようにもラストの【転送】では登録されておらず、自力で踏破するしかない。仕方なくこうした気候での移動に適したラクダに乗って、事前に購入した周辺地図を頼りに地道に進むというマッピング作業をこなしているが、こうしてふとしたときに不満が漏れてしまう。
「仕方ありませんよ。ここは乾燥帯、現実でいうところのサハラ砂漠のようなものですから」
「それしても、脱ぎたいくらいよぉ……」
「脱いだら日焼けを通り越してやけどと脱水症状の状態異常が起こって死にますよ?」
俺は元々タイラントコートで大抵の状態異常は防げているものの、シロもベスも、防具の上から耐熱装備の布をかぶって日差しを防いでいる。
「主様……暑くないですか?」
ラストはというと、自分自身に魔法をかけてうまく凌いでいる様子。
『俺は何ともないが、それより二人に耐熱付与の魔法をかけてやってくれないか?』
「いえ、それは構いません。道具で防げる分にはそれで凌いでおいた方がいいでしょう。とっさのときにTPが不足して魔法が使えない、なんてことの方が問題になりますし」
「それより、今回はこのメンバーで行くのよねぇ? どうしてグスタフは連れてこなかったのかしらぁ?」
「ああ、あの方なら念の為レリアンの守備についていただいています。いざこっちに来ようとした際、ちょっと怪しい紛争が起こっていたじゃないですか」
『これなら俺も残りたかったよ……』
今回のメンバーは俺とラスト、ベス、そしてシロさんの四人だけ。予定としては、まず目的地までのマッピングを済ませて現地で大規模な【転送】が可能になるように現地を開拓、そして魔方陣を展開。ある程度の行き来ができるくらいにはインフラを確立して、そこから本格的に領地取りに参加するのが当面の目標となる。
「それにしても、いつになったら着くのよぉ? 水も少なくなってきたし、私干からびちゃいそうだわぁ……」
「フン、ごちゃごちゃ言う前にそのまま枯れて死ねばいいのに」
「何か言ったかしらぁ?」
「さあ? 空耳ではないかしら?」
ただでさえリアルな暑さでイライラしているときに、喧嘩をしないでほしい。こっちまで苛立ってくる。
『こんなところで喧嘩をふっかけるな、ラスト』
「申し訳ありません、主様……」
『ベスも、もう少しで到着する予定だから心配するな』
「分かってるわよぉ……」
移動を開始して早三日、途中出てくる砂漠のモンスターを軽くいなしては、終わりのない砂漠地帯を歩き続けている。いい加減ゲームステータス的な意味ではなく中の人間としてのストレスが溜まっていっているのは実感できる。
『そもそもこういうところにこそ鉄道を通すべきじゃないのかよ……』
「我々が行くところは砂漠地帯で唯一発展している町ですが、ベヨシュタット全体で見れば小さな町でしかないということじゃないでしょうか?」
『だからナックベアからしても攻め込みやすいってことか?』
「そうとは限りません。我々が今体感しているとおり、広い砂漠地帯が広がっていますからね」
ナックベアからすれば、その唯一の町まではマッピングできているのだろうが、そこから先はできていないも当然、つまり俺達が今味わっている困難をそのまま味わうことになる。
「ですから向こうの予定としてはその唯一の町を発展させて、長期的計画としてこっちに攻め込む拠点にしようという考えでしょう」
『実際俺達もかなり長期的な考えで推し進めないといけないだろうし、向こうにとっても同じことか』
「そうですね。しかし奪還することから考えなくてもいいとなれば、難しく考える必要も無いでしょう」
そうして他愛のない話をしていると――
『――あれか?』
「ええ。今度は蜃気楼ではないでしょう」
「もぉ五回目なんだからいい加減本物であって欲しいわぁ」
遠くに見える土でできた町。今までの蜃気楼とは違って、それはちゃんと近づくにつれて大きくなっていく。
「ようやく到着しました。ここがラグール砂漠唯一の町――」
――ザッハムです。




