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第三節 足がかり 3話目

『……さて、どうしたものか』


 汚職にまみれていそうなクズとはいえ、子爵を切って捨ててしまった。昔ならば“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”という剣王お抱えギルドの後ろ盾や、そもそも俺自身に刀王という称号があったのだが、今の俺には何も無い。

 しかし周囲の市民は子爵が死んだことへの哀しみというより、ようやく呪縛から解放されたような、安堵にも似た空気を醸し出している。


「やっと終わったんだ……あの子爵の支配が終わったんだ!」

「ばかっ! ここの領地を治める子爵が死んだとなったら一体どうなるのか――」

「どうなるもこうなるもあるか! 少なくともあの男の支配から逃れられたんだ!」


 誰かの叫び声とともに、市民は手放しで喜んだ。大方あの子爵の傍若無人な振る舞いに、多くの町民が苦しめられていたのだろう。しかし彼らもまたいずれ、戦わなくてはならない。


「……主様」

『これでいいんだ、ラスト。彼らもいずれ気がつくさ』


 俺はあくまで最初の障害物を排除しただけ。次に来るのが誰かは知らないが、今度は町民としての意思を持たなければ、また同じことになってしまう。


『本格的に国が変わることになるのか、あるいは過去の五つの国と同じように、滅んでいくのか』


 俺が今からやろうとしていること自体、ある種ベヨシュタットを敵に回すことになるだろう。しかしこの国もまた、先の時代に取り残された遺物なのだろう、変わらなければ滅ぶだけ。


「…………」


 首都に向かう。そこで全ての答えを出す。かつて刀王としてその身をささげた者として、ベヨシュタットの敵を殲滅し引き裂く剱の一振りとして。


『……行くぞラスト。手短に終わらせる為に――』

「さっすが、やっぱりこうなったか」


 その場に背を向け立ち去ろうとしたところで、俺の目の前に再びあの男が立ち塞がる。


『……ボリス、だったか』


 相変わらずこちらに手を出す様子は一切無いが、かといって今の沙汰に首を突っ込まなかったことも不自然さを感じる。


「そうそう。覚えて貰って光栄ですよ、刀王様。いえ、“元”刀王、ジョージ様」

『……何故知っている?』


 俺は動揺した。確かに先程、“元”刀王と名乗り出た。しかし俺自身の名前まではまだ名乗っていない。


「何故って……まあ、簡単に言えば今貴方の信条と同じものを持っている人物が、この国の中枢にまだ残っているから、とでも言っておきましょうか」


 口調自体は変わらないが、態度は先程とはうって変わってこちらに対するリスペクトを感じさせる。だが俺にはまだ納得いかない部分が多くある。


『……だから俺にけしかけたのか』

「偶然ですよ、偶然。あの男は確かに屑で殺処分するに値する存在だったが、貴方がここに来なかったら、俺が始末つけてたところだったんですから」


 ボリスはそういうが、本当にそうなのかは甚だ疑問だ。第一まず――ん?


『……そういうことか』


 人を試すような真似をするなんて、舐めたことをしやがって……。


「どうしたんです?」

「主様……?」

『いや、お前()にはあまり関係の無いことだと言っておこう。それよりも、そこまで言うならその同じ考えの人間とやらに会わせて貰えないのか』


 【転送トランジ】でもなんでもいい。即座に送って貰えれば話は早い筈。しかしボリスは言葉を濁らせ、目を泳がせる。


「可能なことには可能ですが……あの方にも立場というものがありまして、そう表立って行動できないのが現実ってところですかね」


 言い分としては真っ当なものだ。それでも何故、俺をピンポイントでご指名なのか。


「とにかく、今すぐ首都ベヨシュタットへとお向かいください。そこでまた我々の同士がお待ちしております」


 そう言ってボリスが差し出したのは、何かの切符のような紙切れ。


『なんだこれは?』

「鉄道の乗車券です。お二人分ありますので、今すぐ乗られてください」

『待て。ベヨシュタットに鉄道なんてものは無かったはずだ』

「百年も経って、更にマシンバラも一時的に取り込んでいたベヨシュタットですよ? 何らおかしくありません。さあ、この券を手に取って、向かわれてくださ――」

「っ、主様危険です! この男のことは信じられません!」


 ボリスから差し出された切符を遮るように、ラストは腕を伸ばして間に割って立ちはだかる。当然ながら彼女の言うことももっともであるし、これが罠では無いと百パーセント言い切れない。

 相手はベヨシュタット所属の人間、対するこちらは子爵を殺した反逆者。単純に考えれば話ができすぎている。だが俺はそれでも、この話を無視するわけにはいかない。


『大丈夫だ、ラスト。これよりも凄まじい修羅場を俺達はいくつもくぐり抜けてきただろ? それに何より、俺にはお前がついてくれている』

「……っ! ……こほん、ならば仕方ありません。私は主の命のまま、ついて行きましょう」


 ラストの説得を終えた俺は、ボリスの手から切符を抜き取ると、その場に背を向けて駅のある方面へと一歩を踏み出す。


「向こうに着いたら、エニシという男を捜してください! ボリスに捕まったといえば、意味は通じますから!」

『……了解した』


 ボリスから伝言を受け取り、後は首都ベヨシュタットへと向かうだけ。

 ――目的が見えるまで随分と長いオープニングだったが、ようやく今回の目標が見えてきた。


世界への反逆(リベリオンワールド)か、面白いことになってきたな』

「主様、このラスト、最後までずっと、側にいます」

『ああ。頼りにしているぞ』



          ◆ ◆ ◆



「――ふぃー、いやー流石は“初代”刀王に【七つの大罪セブンス・シン】、何時殺されてもおかしくは無かったぜ」

「その割にボリスっちさぁ、結構グイグイいけてたね。てっきり第二王子の話までするかと思ったよ」

「いやいやそこまでする必要は無かったかな。それとアリサ、お前“バレてた”ぞ」

「えーマジ!? 隠密上げてたから絶対バレてないと思ってたけど?」

「だってお前()って、そういうことだろ? こりゃあの人に怒られそうだ」

「誰だっけ? えっと確か、シャープえふえふえふ……」

「あの人のことはシロさんって呼んでおけば良いんだよ。さて、と。伝説のお二方がご参列していただけるんだ、最大限の準備をしなければ」

 ――“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”として。

 まさにようやくといったところですが、ここまで序盤を無事投稿することができました。読者の皆々様にはただただ多大なる感謝を。ここから先はより多くの固有名詞をもったキャラクターの登場や、作中内一ヶ月経過時点での大勢のプレイヤーが流入したり、更には小競り合いから大規模戦と書いていきたいと思いますのでお付き合いいただければと思います。

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