第四節 肉を食み血を啜る獣 2話目 Worthless as the Regal Above Violence
「な、なんだなんだぁ!? 一体どうなってやがる!? ソードリンクスは一部メンバーが消えて弱体化したって情報じゃなかったのか!?」
確かにソードリンクスは弱体化したが、代わりに別のメンツが表に出てきているとか考えられないのだろうか。
――などと考えながら俺は無心に燃えさかる街中を走り、適当な一個小隊を見つけては切り刻んで撃破していっていた。
「今のベヨシュタットで有力なのはソードリンクスだろ!? それ以外にギルドなんて――」
『そうか。もう“殲滅し引き裂く剱”の名前はおろか……“無礼奴”という名前すら忘れ去られたか』
「ぶっ、無礼奴!? ぐはぁっ!?」
知っていそうな反応が見受けられたが、そんなものはどうでもいい。気まぐれに打ち込んだ言葉だが、知っていた方が都合が悪い。
「火事場泥棒の名前なんざ、覚える価値もないだろうがな」
そうして俺は刃についた血を振り払い、抜刀法を再び行う為に刀を静かに鞘に収める。
「主様! あちらに大勢の敵が!」
ラストに言われるがままその方向を向くと、複数の部隊が集まって大通りを練り歩いているのが建物と建物の間の細道から見ることができる。
『分かった。始末しよう』
縮地の速さならば、壁を走ることもできる。素早く建物の壁を駆け上がった俺はそのまま反対側へと飛び出し、飛び降りながら腰元の刀の柄に手を置く。
「抜刀法・終式――」
――天雷!
「っ!? なん――」
空から落ちる雷のごとく、上から居合い斬りを浴びせて分隊を真っ二つに引き裂いていく。
「……これで残り半分か?」
「なっ、なんだお前は!?」
とっさに飛び出していった俺の後を追うようにしてラストも降りようとしていたが、当然ながら俺が今立っているのは敵集団のど真ん中。
「主様! すぐにサポートを!」
「必要ないぞラスト」
「ラスト……だと!? まさか――」
「抜刀法・参式――絶空乱舞刃!!」
ラストのように上から見れば、それは綺麗な円形状の斬撃を見ることができただろう。辺り一面の敵を一太刀で斬り伏せた俺は、周囲の様子を見回した後にラストに降りてくるように指示を出す。
「主様! 百年前から思っているのですが、ああいった飛び出しをされますと――」
『それは悪かった。つい、な』
普段の“殲滅し引き裂く剱”では色々と体裁を取り繕わなければならないが、“無礼奴”ならばそんな心配は必要ないからな。
「……ん?」
「ち、ちくしょう……」
どうやらさっきの一連の攻撃で幸か不幸かクリティカルを引くことなく生き延びた奴がいるらしい。
『なんだ、生きていたのか』
「まっ、参った……見逃してくれ……」
ざっと見回したところ生き残るだけのことはあるのか、他の面々と違って装備も少し変わっている。
『その腰の銃、中々良いものじゃないか? それをよこせば助けてやる』
「こ、これか……!? これは、駄目だ!」
そうやって必死こいて両手で隠そうとする辺り、レアというのは間違いないようだ。
だが渡す気がないなら、最初からやることは同じ。
『そうか、なら死ね』
「ままっ、待って――」
喉笛を一刺し。いずれの武器にもいえることだが、部位によって与えるダメージは異なる。その中でも喉笛は、俺にとっては即死の威力たり得る部位になる。
「――かはっ……!」
突き立てた刃を引き抜いて、俺は力なく広げられた手から拳銃を抜き取る。
『マルタに引き渡しておけば、それなりの値段で売れるか……?』
「ああ、残酷ながらもワイルドな主様も素敵……」
ラストが変な惚れ直し方をしているが、それを無視しつつ武器をしまい込むと、俺は再び辺りを見回す。
『……あっちにはトロールの群れが放たれているようだな』
「ええ。いかがいたしましょうか」
恐らくこの分隊が放ったのであろう、進行方向とは逆の方向に群れるトロールを見た俺は柄に手を添えて見える限りの全てを一閃に帰す技を構える。
「抜刀法・終式――滅剱」
――一瞬、タイムラグが起こったかのように時間が止められる。これは技が見える効果範囲であれば誰しもが感じることができるものであり、神滅式とは違って本当に時が止まっている訳ではなく、エフェクトのようなものである。
だがこれは知る人は知っている、その後に対処できなければ問答無用に抹消される一撃必殺技。
「…………」
静かに納刀するとともに、俺が薙いだ一閃の上下が、徐々に徐々にズレていく。
「……終わりだ」
カチン、という柄と鍔がぶつかる音が響くと同時に、ズレは完全なものとなって全てが切断されていく。
『……駄目だラスト。今のでTPが尽きた』
「では一時撤収を」
『ああ。頼んだ』
【転送】の魔法でもってその場を去る頃には、トロールの群れは上下バラバラとなり、建物も同じように、崩れ去っていった。
ということで防衛戦の第一ウェーブのようなものはジョージ達の影の活躍により凌がれることになりますが、まだまだ防衛戦は続きます。