第三節 立場の逆転 7話目
「……クソったれが」
レベルも1上がったところでステータスの割り振りを終える。本来ならば敵を倒して少しは気分も晴れるかと思ったが、事態を飲み込むごとにより一層気持ちが落ち込んでいく。
「主様……」
『……すまない、ラスト。ちょっと色々なことが起こりすぎて頭が追い付かなかっただけだ』
気を取り直して倒した相手の荷物に何かないかと漁っていると、興味深いものを手に入れることができた。
『……中々面白いものを持っているようだな』
どうやらソードリンクス側も独自にオラクルについて調査を進めているようで、このギンガミという男がそれまで集めていた古代文字の写しが書かれた手帳を手に入れることができた。
『殺してでも奪い取る……そういうつもりはなかったが、少なくともただの憂さ晴らし以上の価値があったか』
「虫ケラが供物を持ってきたということですね! 主様!」
それとはちょっと違うと思うが……。
『それにしても……久しぶりだったが暴力的な強さだな』
妖刀・篭釣瓶――レアリティレベル120という現時点の手持ちでは最強の朱色の妖刀。極まった使い手の手に渡れば、どんなに堅い代物であろうとバターを切るかのように切り刻めるというが――
『刀王の称号が無い今、傷跡をつけることはできても一発で武装破壊までには至らない、か』
正直元刀王ということもあるし、しかも今の刀王より圧倒的に強いんだからその辺考慮してもいいんじゃないかと思うんだが。
『殺界が強化版の大殺界になるのは相変わらずなのはいいとして――』
問題の精神汚染だが……今のところは副作用無し、か。
『……ラスト』
「はい!」
『出口を探してさっさと出て行くぞ。こいつのドロップ品もある程度回収したからな』
スロウスはいなかったものの、目的だった古代文字を予定以上に回収できた俺達は、一旦またギルドのあるレリアンの街へと戻ることとなった。
『しかし予定より早く片付いたのはありがたい。少しばかり土産物を漁ることもできるだろう』
「でしたら主様!」
『だがウタ達も待っている。そう長くは滞在できないぞ』
「そんなぁ……」
ラストはしゅんとしているが、やろうとしていることはいつものアレだから知らんぷりするしかない。
「確かこっちに……あった!」
地下水道の出口。入り口と同じではしごを今度は昇っていけば、天井に出口となる扉が姿を現わす。
「よし、これで――」
――扉を開けて俺が半身を乗り出したところで、俺は後ろから上がってこようとするラストに対してハンドサインでストップをかけた。
「……ソードリンクスか」
「そうだ。うちのギンガミが世話になったみたいだな」
「PVEにステータスを裂いたタンク型で本気で勝てると思っていたのか?」
「少しは時間を稼げるかと期待したが、中途半端なメッセージを送ってきた時点で諦めは付いていたよ」
俺はまだ向こう側にまだラストを隠したまま、一人外へと出て扉を閉じる。
ざっと見回して十人ちょっと。やれなくもないが、さっきのタンク職よりはレベルが高そうなメンツがちらほらと。
『それで? どうするつもりだ?』
「どうもうこうもない。俺達の目的はお前じゃない、前作でいつもお前の周りをついてまわっていたあの“大罪”だ」
『……なるほどな』
キーボードにはそう打ち込んだが、本当ならばやはりな、というべきだっただろう。予想通り、こいつらの目的はラストと見て間違いない。
『残念ながら、あいつはこの場にはいない』
「しらを切る必要は無い。あいつを連れてダンジョンに侵入しているという連絡が来ている」
『そうか。だったら下に潜って探してくればいい。もっとも、内側からしか開かない出口の扉は今俺が閉じてしまったから、入り口から、隅々まで捜索だろうが』
「舐めやがって……! おい! 探してこい! 出口はこっちで見張っておく!」
何を焦っているのか知らないが、今の状況でやり合うのが面倒なだけで、別に倒せない訳じゃない。
半分が入り口からの捜索に向かったところで、残っているのは五人。しかもこの出口も都合が良いことに街の裏路地にひっそりと隠されている。
「言っておくが、ここに残っているのは全員ギンガミよりもレベルが上だ。しかもPVP特化、お前の攻撃はそう簡単に――」
『だ、そうだ。ラスト』
よっぽどフラストレーションでも溜まっていたのだろうか、出口の扉を文字通りぶち破ってラストが姿を現わす。
「蛆虫風情が……我が主様にたかろうとは……!!」
「ッ!? しまった!!」
『冷静に考えればすぐ後ろに隠れていることくらい頭が回るだろ。何を焦っている』
確かにこちら側から扉は開けられない。だがラストはまだ内側にいる。ならばこうして内側から登場しても別におかしいところは何も無い。
『幸運にもここは裏路地だ。バレずに始末するには丁度いいだろう――』




