第三節 立場の逆転 2話目
「――では当分のギルドの目的として、各地に散らばるダンジョンに潜って古代文字の回収に専念……これでいいですか?」
「えぇー? 戦争しないのぉ?」
早速血で血を洗うような争いを求める辺り、ベスの本質は全く変わっていないようだ。
『いつから俺達は戦争屋になったんだ? いいから今できることをやるんだ』
「そもそも、どうして今古代文字を集めているのぉ?」
『それは――』
「新しく出てきた敵勢力の調査、とでも言った方が正しいでしょうか?」
どう説明したものか、と思ったところでシロさんが助け船を出してくれた。確かにこう言っておけば問題ないだろう。
『……そういうことだ』
「あらぁ、だったら早速串刺しにしてあげないと――」
「それができるかどうかも含めての調査だろう。幽霊を相手に木の棒を振り回しても何もならない」
そういうことですグスタフさん。補足ありがとうございます。
「なぁんだ。しょうがないわねぇ」
話が纏まったところで今度は調査先をアレキサンダー教授に選定して貰うことになった俺達は、円卓に広げられた地図を元にしてそれぞれの割り振りをあてがい始める。
「今回の調査についてはNPC単独では理解が難しいでしょうね」
『つまりリーダーとして俺達プレイヤーと、その下にこいつらを連れ回す感じか』
「そうなります」
俺とシロさんが裏で会話をしている間、グスタフさんとベスは地図の上で自分がどこを調査するか希望を出し始めている。
「私できるだけ国境線近くが良いわぁ。万が一ってこともあるし」
「それがしは内地の方を調べさせて貰おう。まだこの辺りの地理がどれだけ変わっているのか、把握しきれていないからな」
二人は目的地の希望を既に決めているようだし、後は俺とシロさんで残ったところを調査するとしよう。
『俺が一番最後のあまりでいいですよ。今のところ、レアな武器の出土情報も聞いたこと無いですし』
「でしたら遠慮なく……では、ボクも内地寄りの場所を一ヶ所行かせていただきましょうか」
そうなると残った場所は――
『――よりによって一番の外れクジかよ……』
ベルゴール市街地直下、俺の知る限りだと確かここはあの七つの大罪の内の一体が眠っていた筈の場所。
『まあここも可能性があるといえばあるが……』
「良かったじゃないですか。ベルゴール市街ならまだ彼女も連れて歩き回っても問題ないでしょうし」
確かにまだあのオラクルとやらが言っていた全ての罪が何を指すのか、殆どの者は理解が及んでいない。だが動かすことにリスクは無いのだろうか……。
『現状でも買い物で外に出したりしているから……まあ、同じ領地内なら大丈夫なのか……?』
そうして俺とシロさんだけのひそひそ話が終わったところで、ギルドの次の目的がシロさんによって確認される。
「今回ジョージさんとベスさんが持ってきて下さったような古代文字を探して、各々ダンジョンや遺跡の調査を開始して下さい。期間としては一週間を目安にして、頑張っていきましょう」
「了解したわ」
「任された」
今もまたどこかで紛争は起こっているだろうが、今回は俺達は加担しない。代わりに他の面子に、武勲をあげて貰うとしようか。
「それでは皆さん、一週間後にこの円卓でまた会いましょう――」
◆ ◆ ◆
『――という訳で、俺とラストは一週間家を空けることになる……ウタ』
「はいっ」
三人娘の中でも一番しっかり者に、俺は全てを任せることにした。
『留守中の家は頼んだぞ』
「分かりました!」
「ちょっと待てよパパ。あたしやアリサじゃ信用ならないっての?」
そういう訳じゃないが……この前夕飯を任せてみたら真っ黒な何かが出てきたところとか、そういう部分が心配なだけだ。
『今回はウタがリーダーだ。お前達もいずれ順番で回すつもりだ』
「うーん……そういうなら分かった」
ひとまず納得しては貰えたようだが、ユズハはまだ両腕を組んで不満を見せている様子。
『……よし、分かった。帰ってきたらユズハ、お前に剣の稽古をつけてやる』
「っ! それって――」
『剣士になる為の基礎を鍛えてやるということだ』
その瞬間、ユズハは不満から一気にうって変わって期待に目を輝かせ始める。
「よっしゃ! パパと同じ剣士になれるんだ!」
『んー、どっちかといえば留守中に家を守れるになるように最低限のつもりだが……まあいいか』
それで機嫌が良くなるならそれでいい。
「さて、と……『ラスト』」
「はい! 主様!」
こっちはこっちで俺と二人で遠出ができることの期待に胸を躍らせているようだが、行き先は薄暗い遺跡だぞ。
『ダンジョンに潜ることになる。向こうで食料調達を済ませ次第、すぐに終わらせるぞ』
「はい、主様! その後は……」
『帰る。それだけだ』
「……いけず」
そんなにしょっちゅうやられてたらこっちの身が持たないわ。
『今回は皆がお前の為に動いてくれているんだ。わがままはあまりできないぞ』
「うっ……! 分かりました――」




