表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/44

ep2.33 枯れた技術の水平思考と飛行魔法

―――前回のあらすじ

 現代戦に投入され始めたドローンと、その対策にショットガンがある程度有効であると告げたマオだったが、ドローンが偵察用途のスパイカメラに過ぎないと考えている魔王はその脅威をいまいち認識していなかった。そこでマオは続けて攻撃能力を有する軍用ドローンの解説に移行した。そして、攻撃ドローンは積載可能重量の少なさや、射撃時の反動制御などの問題から未だ発展途上であると軽く説明したのだった。

―――


 マオはドローンの武装化に関する話はいったん脇において、今度は既に現代戦で猛威を振るっている、自爆特攻型のドローンについて話始めた。

「さて、いろいろ話したっすけど、要約すると小火器を搭載する方向で開発されている攻撃ドローンは、現状ではまだ試験段階で、実戦投入できるレベルの物は少ないってことっすね。」

「うむ。」

 魔王は速やかに相槌を打ち、特に疑問点は無い様子だったので、マオはさらに続けた。

「一方で、既に実戦配備されて現代戦で欠かせない物となっているのが、自爆特攻型のドローン。通称神風ドローンっすね。」

 マオの言葉から不穏な気配を感じた魔王は、率直にお気持ちを述べた。

「毒ガスやらウイルスを用いた大量殺戮兵器に続いて、今度は自爆特攻と来たか。戦争兵器の話ならば当然ではあるが、どうにも穏やかではないな。神の名を関しているのも気に食わんが、神風ドローンとやらもまた殺傷力を突き詰めた兵器なのか?」

 魔王は娯楽目的に戦いを吹っ掛ける迷惑極まりない生態を持つが、元居た世界においては、敵対者は殺さずに逃がすか、配下として組み従えるかの二択を基本としており、極力殺生はしないタイプの怪物だった。それは、殺してしまったら再戦できないからと言う、至極単純かつ自分本位な理由から来る不殺主義であり、別に凶悪な化け物が優しさや博愛主義に目覚めたと言うわけではないのだが、ともあれ、魔王は敵対者を安易に殺すことに対しては否定的なのである。故に、いかに効率的に人を殺すかのみを追求した、温もりティが足りない現代兵器への印象はあまりよくなかったのだ。

 魔王の質問に対し、マオは深くは考えずに単純に質問された内容に答えた。

「神風ドローンの対人殺傷力はあまり高くは無いっすよ。直撃したら死ぬのは間違いないっすけど、ドローンだとどうしても積載可能な爆薬量が少ないっすから、広範囲の爆破はできないんで、特攻が決まったとしても基本的にはドローンと人間の1対1交換になるんすよ。ここで人間一人の価値をどう考えるかは倫理のお勉強になるっすけど、一旦人倫については考えない物として、金銭的な尺度のみで考えた場合だと、兵士一人倒すのにドローン1機使い捨てていたら、流石にコストに見合わないっす。そもそもドローンなんて、身構えていればそこそこ簡単に落とせるっすからね。対人兵器として運用するには微妙なコストパフォーマンスっすね。まぁ、コスト度外視で極端な戦術が使えるゲーム内だと、案外効果があるんすけどね。」

 その言葉を聞いた魔王はドローンに対する忌避感を若干薄めたのだった。

 ところで、マオは飛来するドローンを簡単に落とせると言っているが、通常は高速で飛来するドローンをとっさに捉えるのは難しく、ショットガンで撃ち落とすくらいしか対抗策がないのが実情だ。しかしマオはアサルトライフルの狙撃で平気でドローンを撃墜する腕前を持っているので、神風ドローンを脅威と見做していないのである。彼女が散弾を用いずとも簡単にドローンを捉えられるのは、多趣味である彼女の趣味の一つ、クレー射撃の経験が生きているためであり、小さなクレーに比べれば遥かに巨大と言えるドローンを狙い撃つ事など、彼女にとっては朝飯前だからだ。


 マオの特殊技能はさておき、魔王は聞いた話を整理していくうちに新たな疑問が浮かんだため、再びマオに問いかけた。

「ふむ、話を聞くに、神風ドローンとやらは名前負けで、大した脅威ではない様に感じるが、対人で使わないとなると、どのような場面で使用されているのだ?」

 これに対しマオは即座に答えた。

「神風ドローンを対人で使うとコストが見合わないっすけど、対物、対施設に対するピンポイント爆破と言う観点から言うと、コストパフォーマンスが非常に高いんすよ。軍事施設や固定式の兵器、乗り物なんかはどれも数千万円以上の高額な物品が多いっすからね。せいぜい数十万円のドローンの自爆特攻で破壊ないしは使用不能な損傷を与えられたら、とてつもないアドバンテージになるっす。ちなみに、自爆特攻は読んで字のごとく、体当たりして爆発するだけなんで、ドローンに火器を装備する際に必要な反動制御みたいな技術的な難しさは無いっす。既存のドローンに爆薬を載せるだけっていう、既存技術の組み合わせだけで安価に製造できるのが神風ドローンの強みで、いわゆる枯れた技術の水平思考って奴っすね。」

 マオがドヤ顔でそう言うと、魔王は聞きなれない言葉の意味を聞き返した。

「その枯れた技術の水平思考とは、なんなんだ?」

 魔王が日本の諺をいろいろ知っていることを鑑みて、この言葉も伝わるだろうと思って引用したマオだったが、思いがけず魔王が知らない言葉だったので、マオは補足説明を始めた。

「枯れた技術の水平思考って言うのは、開発コストを掛けてわざわざ新技術を作らなくても、既存の完成した技術の組み合わせで新しい価値を生み出すことができるって考え方っすね。例えばお湯を沸かすだけのシンプルな電気ケトルに、茶こし網を付けたら、茶葉を入れるだけで自動でお茶を淹れてくれる、自動お茶沸かし器の完成っす。まぁ、茶渋が着くとかカビが生えるとか、衛生面の問題が出そうっすけど、その辺は要改善って感じっすね。」

 話が一区切りついたところで、魔王が例によってファンタジック喩え話で所感を述べた。

「なるほど。重力操作で浮遊して、魔力放出で推進力を得る、複合型飛行魔法の様な話だな。風魔法のみを操って空を飛ぶ試みも可能ではあるが、こちらはともすれば落下のリスクを孕んでおり、繊細な魔力制御を要する高度な技術と言える。一方で、重力魔法と魔力放出の複合は、複雑な制御は必要なく、重力魔法を扱える素地と、それなりの魔力量さえあれば、誰でも容易に精細な飛行が可能となるのだ。まぁ風魔法型の方が消費魔力量は少ないし、加速度も最高速度も速いので、一概にどちらが優れているとは言えないがな。」

 これを受けてマオは、喩え話の主題とは関係ないが、単純に飛行魔法に興味を抱いたのだった。空を自由に飛びたいと言う願望は、日本人ならば誰もが一度は夢に見る、と言うか歌で聞く、普遍的な憧れの一つなのだ。はいたけこぷたー。

 マオは、魔王が自ら名乗った異世界の魔王であるとの言葉を本気にしておらず、当然魔法が使えるとも思っていないのだが、魔王に話を合わせる形で飛行魔法への羨望を口にした。

「へー、空を飛ぶ魔法があるんすか。楽しそうっすね。落ちるのは怖いんで、堅実そうな複合型の方が私好みっすね。」

「ほう、マオは飛行魔法に興味があるのか。それならば……」

 マオの冗談交じりの言葉を真に受けた魔王は、食事の際に行ったのと同様に両目に魔力を集中して解析の魔法スキャンを発動した。休眠状態にある潜在魔力は主に丹田と心臓、次いで両目と脳に貯蔵されているので、魔王はそれらを順繰りにじっくりと解析していった。

 魔王の魔力交じりの視線を微弱ながらも感じ取ったマオは、見られている箇所がわずかにむず痒く感じたが、もちろんそれが魔力のせいであるとは知らないため、異性の視線を意識してしまう乙女の様な感性がまだ自分にも有ったのかと、若干芯のズレた感想を抱いていたのだった。なお、当人にはまだ自覚が無いながらも、マオは魔王を特別な異性として意識し始めており、じっと見つめられて気持ちが高揚したのもまた事実だった。

 マオの心情の変化など露知らず、恋愛偏差値が幼稚園児以下の魔王は、魔力スキャンをつつがなく終えたので、彼女の飛行願望が実現可能かどうかについて説明を始めた。

「うむ。マオの魔力量は母譲りでそれなりの量が有るゆえ、基礎的な魔力操作技術を習熟し、重力魔法を覚えれば飛行魔法の習得は可能だろう。どれ、せっかくだから魔法適性も確かめてみるか。」

 そう言うと魔王は、さらに詳細な解析を行うために、今度はマオの頭に手をかざし、頭部に微量の魔力を流して彼女の脳構造を走査した。

 魔法適性は魔力制御を司る器官である脳が、どれだけの魔力量に耐えられるか、すなわち魔力耐性の高さを調べることで測ることができるのだ。ちなみに脳の魔力耐性は魔力操作の訓練によって後天的に伸ばせるが、生まれつき耐性が高い者は訓練による伸び率が良く、伸びしろも多い傾向があるため、元々高いに越したことはない。

 魔王が手をかざした部分に、触れられてもいないのにフワフワとするような心地よい温かさを感じたマオは、魔王が何をしているのか分からなかったが、ひとまず黙って待っていた。

 ほどなくして魔王は手を引っ込めて、再び口を開いた。

「マオの魔法適性だが、結論から言えば適性はかなり高い。この分ならば重力魔法の基礎くらいすぐに習得できるだろう。」

「あっ、そうなんすか?それなら魔法を覚えてみるのもいいっすねぇ。」

「うむ。それならば明日の早朝にでも魔法を教えてやろう。睡眠から目覚めてすぐの、脳が疲労していない状態の方が魔力操作の訓練に適しているからな。」

 マオはあくまでも魔王のロールプレイに話を合わせる形でそう答えたが、魔王の方は本気で魔法を教えるつもりになっているのだった。

「それじゃあ今日は早く寝ないといけないっすね。ショットガンの試し撃ちが終わったら、お風呂に入って寝る準備をするっす。」

「了解だ。」


 この後の予定が決まり話が一段落したところで、改めて魔王はマオに問いかけた。

「さて、先ほどの解析で分かったことだが、マオの脳には魔力操作を日常的に行っている痕跡が見受けられるのだ。何か心当たりはあるか?」

 これにマオは首を傾げて答えた。

「いや、まったく心当たりは無いっすねぇ……ああ、でも昔は中二病だったんで、魔法を使おうと色々試したことはあるっすね。何も起きなかったっすけど。あれは私が中学生の時だから、10年位前の話っすね。」

 魔王はその答えには納得いかない様子でさらに続けた。

「ふむ、そんなに昔の話ではなく、ごく直近で、それこそ昨日今日にも魔力操作を行っている痕跡があるのだがな。ちなみに今日は何をしていた?」

 これにマオは即座に答えた。

「えっと、今日はルシファーが部屋に来るまでは、ご飯とトイレ以外はほとんどずっとゲームをしてたっすね。昨日も一昨日もまぁ似たようなもんっすね。」

 改めて口で説明すると碌でもない生活をしているなぁと自覚したマオだったが、ひとまず気にしないことにして、魔王との会話に注意を向けた。

「なるほど。つまりはゲームの最中に、マオ自身も意識せずに何かしているのだな。であれば、あえて今追求せずとも、追々わかることだろう。」

 この場で考えていても答えは出ないため、マオの魔力に関する話はひとまず切り上げられたのだった。


 余談が終わったので、マオは話を本題に戻し、まとめに入った。

「さて、ちょっと脱線したっすけど、枯れた技術の水平思考についての話の続きっすね。この考え方には、技術と技術の組み合わせによる価値の創造だけではなくて、単純な技術転用による価値の再発見も含むっすね。例えば元々猟銃だったショットガンを、対人制圧用途に使う様になったのもこれに当たるっすね。本来とは違う用途への横展開って奴っす。もっと簡単なところでいけば、私が今足場にしている製品コンテナも、用途外使用という意味では同様っすね。要するに固定観念に囚われない、柔軟な発想力が重要って話っすね。」

「うむ。有用な考え方だな。」

 魔王はこれに素直に納得し、柔軟な発想力という新たな視点を手に入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ