ep2.29 ショットガンと火竜の鉤爪
―――前回のあらすじ
マオによる、割とふわっとした知識で雑に語られる銃器の解説を受けた魔王は、各武器種の役割から始まり、銃器の大きさと性能の関係やら、科学技術の発展に伴う銃器の性能向上の話、さらには最新技術の導入が必ずしも戦果には繋がらないといった失敗作の歴史などを習って、武器選定の際に考慮すべき事項が多岐にわたると知ったのだった。そして、最終的には各製品を実際に試してみないことには、実用性はわからないという結論に至ったのだった。
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マオはリコイルバグの追加検証対象として、ゲーム内での使用頻度が高い、三種類の武器種を選定したが、そのうちサブマシンガンとピストルの二種については検証が終わり、両者ともバグは確認されないと分かったところだ。そしていよいよ最後の武器種である、ショットガンの検証を始めることにしたのだった。
マオは持っていたピストルをテーブルに置き、予め用意していたポンプアクション式ショットガンを手に取って解説を始めた。
「さて、使用頻度の高い武器種の最後の一つってことで、残ったのがこのシャッガン、もといショットガンっすね。こいつは一度の射撃で多数の小さな弾丸を同時に発射して、広範囲に打撃を与える武器っす。基本的に一発ずつ発射する他の銃とは違う射撃方式なわけっすけど、その違いは弾薬によるものっす。ちなみにショットガンの弾薬はショットシェルと言うっすね。」
そう言うとマオはショットガン下部にあるハンドグリップをガションと引いて、装填済みの弾薬を取り出して魔王に手渡した。
魔王は受け取った弾薬をじっくり観察し、ライフル弾やピストル弾とはまるで違う形状であると確認してからマオに質問した。
「ふむ、ライフル弾とピストル弾はサイズこそ違えど似たような形状をしていたが、ショットシェルはまるで違う形をしているのだな。して、これはどういったモノなのだ?」
マオは返却された弾薬を受け取りつつ応えた。
「ショットシェルの先端にはペレットと呼ばれる小さな弾丸がたくさん詰まっていて、後部の装薬を爆発させて一度に発射する仕組みっす。ペレットの数は用途によって変わるっすけど、これはバックショットと呼ばれる対人用のショットシェルなんで、ペレットの数は10個前後っすね。他には小型の獣や鳥を撃つ狩猟用のバードショット、イノシシや熊の様な大型の獣用のスラグ弾があるっす。バードショットは数十から数百個の小さなペレットが入っていて、一発ごとの威力はまさしく豆鉄砲っすけど、超高範囲をカバーできる特徴があるっすね。逆にスラグ弾は高威力な大きな弾丸を1個だけ発射する弾薬っす。」
「なるほど、狙う標的のサイズによって弾を使い分けるわけか。素早く小さい相手には広範囲低威力のバードショットを、でかくて硬い相手には高威力のスラグ弾と、弾薬の切り替えが必要ではあるが、対応力が高い武器なのだな。……それで、バックショットは中間的な役割の様だが、これは必要なのか?」
マオの解説を聞いてショットシェルの種類と役割を理解した魔王だったが、ともすれば中途半端とも思えるバックショットの存在意義に疑問を呈したのだ。
これに対してマオは即座に答えた。
「バックショットは話だけ聞くと、どっちつかずの中途半端に感じるかもしれないっすけど、対人用途に調整された絶妙な性能なんすよ。まずバードショットは威力が低すぎるんで、戦闘服をまとい、防弾ベストやヘルメットをフル装備した歩兵に対しては、十分な効果が見込めないっす。さらにシールドでも装備してたらほぼ無効化されるっすね。次にスラグ弾っすけど、こっちは低威力のバードショットとは違って、大型の猛獣すら殺せる威力なんで、防具の上からでも余裕で人を殺傷できてしまう程の破壊力があるっす。ただ対人で使うには過剰な威力だし、反動が大きいので連射には向かない、しかも散弾ではないので正確に急所を狙う必要があるなど、対人戦闘ではデメリットが目立つっす。そこで出てくるのが中間的な性能のバックショットっす。フル装備の歩兵相手でも必要十分な殺傷力を持っていて、反動もスラグ弾よりは小さいので連射しやすく、散弾なのでラフな狙いでも命中するといった具合に、非常に合理的なんすよ。スラグ弾みたいな単発弾では無理っすけど、散弾なら敵兵が密集しているところに打ち込んで、複数人を同時に行動不能にするなんて事も可能っすからね。」
「なるほど。対人殺傷能力に特化した調整がなされているのだな。」
魔王がバックショットの強みを簡潔に言い換えると、マオは頷いて応えつつさらに続けた。
「そういう事っすね。アサルトライフルが固定式の機関銃と威力が低いサブマシンガンの中間的性能で、機動力と殺傷力を両立した歩兵用に最適化された武器であるのと同じで、対人戦闘用に最適化された性能を持っているのがバックショットってことっすね。」
ショットシェルの解説を終えたマオは、弾薬をショットガンに装填し直して、さらに話を続けた。
「さて、概要を説明したところで、次はショットガンの戦場における役割について話していくっす。私は中距離からの精密射撃で急所を狙い撃つ様な堅実な戦術が好きなんで、ショットガン片手にラフに突っ込んで暴れるパワー系戦術は嫌いなんすけど、近接戦闘においてショットガンが強力なのは間違いないっす。近距離における瞬間火力と攻撃範囲は、個人で携行可能な銃器としては最強クラスっすからね。ただ、円錐状に放射されるペレットは距離が離れるほど拡散してしまい、複数のペレットが集中して当たらなくなるし、小さなペレット弾は空気抵抗で威力が減衰しやすい上、発射速度がそもそも遅いのも相まって、十分な威力が確保できるのはせいぜい20mから30m程度と、本当に近距離でしか機能しないのが弱点っすね。」
「ほう、30mか。そうなると有効射程100m程度と言っていたサブマシンガンよりも、さらに射程が短いのだな。」
マオは魔王の相槌に頷きつつ、今度は具体例を挙げてショットガンの活用法を話し始めた。
「そうなるっすね。例えば拠点に立て籠もるテロリストに奇襲をかける、特殊部隊の作戦なんかだと、屋内での近接戦闘が主体になるんでショットガンが有効って感じっすね。ただ、ある程度空間が開けた屋外での戦闘を想定した場合は、ショットガンの射程圏内に接近する前に処理されてしまうのがオチっす。先に説明した通り、歩兵の標準装備であるアサルトライフルの射程距離が300m以上っすから、逃げながら戦う戦術である引き撃ちをされたら、ショットガン側はほとんど何もできないっす。というわけで、ショットガンは傭兵が主武装として運用するのには向かない性能なので、近接用の副武装として扱うか、拠点襲撃、あるいは防衛の様な特定状況下において限定的に輝く武器って感じっすね。」
マオがいったん話を締めくくったので、魔王は手に持っていたショットガンを観察しつつ、ここまで聞いての所感を述べた。
「そう聞くと、あまり有用な武器ではないように感じるな。それなりに大きいから携行性も悪い。ショットシェルは大きい上、見たところ装填するのも一発ずつ手動で手間がかかり、マガジンの様にまとまっていないからバラで持ち運ぶ必要があるようだし、どうにも取り回しが悪いように見える。正直に言うならば、武器としての完成度が少々低いのではないか?」
解説では特に触れなかったショットガンの取り回しの悪さに言及する魔王の問いは、マオからすれば、ショットガンとはそう言うものとの先入観から、特に気にした事もない内容だったので、言われてみればそうだなと見直す機会になったのだった。
「ショットガンの完成度が低いと感じるのは、おそらく軍用火器として専用設計されてないからっすね。先に説明した通り、ショットガンが有効な場面は少ないっすから、そもそも軍隊では配備していない国も多いっす。世界最大の軍隊を持つアメリカでさえも、狩猟用や民間用で使われるのと同じモデルが配備されているくらいっすからね。」
マオは魔王の疑問への回答として、まずはショットガンがどの様に軍事利用されているか実態を述べ、あまり重要視されていなかったために、発展を遅らせる結果を招いたのだろうという推測を話したのだ。
これを受けて魔王は、お馴染みになりつつあるファンタジック喩え話で言い換えた。
「なるほど。活用機会が限られている武器であるが故に、軍事レベルの要求が為されておらず、民生品がそのまま転用されていると言う事か。さしづめ火竜の鉤爪と言ったところだな。」
「なんすかそれ?」
あまりにもピンとこない意味不明な喩えだったので、マオは思わず聞き返してしまった。
すると魔王は流れるように喩え話の解説を始めた。
「火竜とは翼を持ち火を吐くドラゴン族の一種だが、奴らはドラゴンブレスで高空から敵を焼き尽くすのを基本戦術としているので、巨体から繰り出す鉤爪は強力ではあるものの、肉薄された時に繰り出す苦し紛れの牽制攻撃程度でしか利用しておらず、その技術は拙いのだ。故に使用機会が少ないために技術が醸成されていないショットガンは、火竜の鉤爪の様だと思ったのだ。」
「はー、なるほどっすねぇ。」
訳のわからない話かと思いきや、聞いてみれば案外状況に則した巧妙な喩え話だったので素直に感心したマオだった。
ここまでは、あまり重用されていないショットガンの現状について解説したマオだったが、高度化する現代戦において、ショットガンは今後活躍する機会が増えるだろうと予想していたので、次は個人的見解を交えてその辺の事情を話すことにしたのだった。
「現在、ショットガンが軍用火器としては微妙な立場にあるのは事実なんすけど、実はとある技術の発展によって、ショットガンの有用性が大きく見直されそう、と言うか本来の用途での役割が再発見されそうな気配があるんすよね。」
「ほう?そうなのか?」
マオは魔王の問いに頷くとさらに続けた。
「その技術っていうのが、昨今話題のドローンの軍事利用なんすけど、えっと、このショップではドローンは扱ってないっすかね?」
話の途中だが、ドローンがどういったモノか魔王は当然知らないであろうし、言葉だけで説明するのは難しいと感じたマオは、後ろで控えていた店員に声をかけたのだ。
なお、初心者向けの低価格商品を扱っているショップなので、比較的高級品であるドローンは扱っていないのではないかと考えたマオは、あまり期待せずに、有ったらいいなくらいの気持ちで問い合わせたのだった。
これに店員が答えた。
「はい。軍事用戦闘ドローンや、大型の偵察ドローンは置いてないですけど、民生品の撮影用ドローンならありますよ。リモコンの電波強度や飛行速度的に、戦場で使えるレベルの品物ではありませんが、ドローン未経験者が飛行操作を覚える訓練用途での需要を見込んだ商品ですね。」
そう言うと店員は商品カタログを持ち出し、ドローンの特集ページを開いてマオに見せながら商品紹介を始めた。
「訓練用として最低限の機能を搭載したロークラスモデルなら50ドル前後とお安くなっていますが、売れ筋となっているのは、自動追尾機能付きで撮影対象を設定すると勝手に着いてきて動画撮影してくれる機能を搭載した製品ですね。こちらは民生品としてはハイクラスのモデルで、値段はメーカー次第でピンキリですが、安い物でも300ドル強、高い物では5000ドル近くになりますね。マーセナリーに標準搭載されている撮影機能では視点切り替えは俯瞰とTPS、FPSの3モードしか有りませんが、ドローン撮影を併用する事でより臨場感のある映像が撮れるとかで、特に動画投稿者に人気みたいですよ。」
「へー、今はそんなことできるんすねぇ。都市パートの仕様はアプデ内容含めて最低限把握してるつもりっすけど、ドローンカメラで撮影機能が拡張できるとは知らなかったっす。」
マオはゲームのサービス開始時からそれこそ毎日プレイしているため、ゲーム内の大概の機能は知っていると自負していたので、知らない機能の存在に驚いたのだ。
ここで少し補足すると、ドローンがゲームに実装された際には、各ショップでの販売が開始された事自体は運営から告知されていたが、ドローンと連動したカメラ機能の拡張については、NPCとの会話で聞き出さなければ判明しない、ちょっとした隠し要素となっていたのだ。ゆえに、対戦モードばかりプレイして、都市パートはミッションで必要になった際に遊ぶ程度だったマオが、この機能を知らなかったのも無理からぬことである。なお、この追加機能を知ったところで、都市パートでの遊び方の幅がちょっと広がる程度で、対戦モードでなにか有利になるわけではないので、対戦ガチ勢の彼女にとっては割とどうでもいい機能だと言える。
マオの事情はさておき、彼女がハイクラスのドローンに興味を抱いたことに勘づいた店員は、さらに商売っ気を出してオススメ商品の紹介を始めた。
「各ショップからの売り上げ統計によると、特にこちらの660ドルの製品が人気のモデルみたいですね。臨場感のあるダイナミック撮影機能が付いていて、簡単な手振りでフォーカス対象を選べたり、顔認識と音声認識で話している人にカメラを向けたりといった具合で、半自動でカメラマンの様な撮影演出をしてくれるらしいですよ。」
「それはいいっすね。私の場合、動画投稿すると言っても、ほとんど運営向けの検証動画だったんで、未編集で生データを投稿しちゃうだけだったんすよね。でも、ルシファーとプレイしていて、このゲームって新規には敷居が高いんじゃないかと気づいてしまったんで、新人プレイヤー向けの解説動画も出そうかと考えてたところなんすよね。それで、プレイヤーに向けた動画なら興味を引く演出やら編集もしなきゃいけないと思ってたんすよ。でもぶっちゃけゲームする時間削ってまで、編集作業に時間掛けたくなかったんで、どの程度の実用性があるのかわからないっすけど、それっぽく撮影してくれるならうれしいっすねぇ。」
マオは魔王にドローンの実機を見せて、どんな物なのか説明したかっただけであり、購入するつもりなどまるで無かったのだが、商売モードに入った店員の売り文句に乗せられて、まんまと店員オススメの商品に興味を抱いたのだった。
店員はこの機を逃さずにさらに購買意欲を高めようと、ダメ押しの営業を始めた。
「興味がお有りでしたら、実機をお持ちしますから、少し試運転してみますか?」
「いいっすね。軍用ドローンとはちょっと違うっすけど、ルシファーにドローンがどういうものか説明するには、民生品でも十分っすからね。お願いするっす。」
「はい、承りました。それでは少々お待ちください。」
そう言うと店員は再びバックヤードに続く通路へと早足で消えていった。
マオがすっかりドローンの撮影機能に興味を奪われてしまったため、ショットガンと軍用ドローン技術が将来的にどのように関わってくるのかという話は、脇に追いやられて忘れ去られてしまったかに思われたが、一応覚えていたマオなのだった。




