ep2.28 でっかい事はいいことか?
―――前回のあらすじ
サブマシンガン死すべし、慈悲はない。ぐわー。
―――
サブマシンガンについての解説並びに試し撃ちが終わったので、マオは続けてピストルに持ち替えて解説を始めた。
「次はピストルっすね。正直ピストルはあくまでも副武装っすから、こいつをメインで使うことはないんで、あまり語ることはないっす。ピストルの主な役割は、砲兵や工作兵、戦車兵やら航空機のパイロット、それと指揮官みたいな、対人戦闘を目的としていない、小銃を携行しない兵科が、最低限の護身用に持ち歩くお守りみたいなもんすね。対人装備で固めた歩兵との戦闘を想定したら、ピストル一丁持ってても焼け石に水っすけどね。」
語ることは無いといいつつもそれなりに語りだすマオだった。
そして説明を聞いた魔王は、元居た世界での経験と照らして、ピストルの有用性に疑念を抱いたのだった。
「ふむ、無いよりマシ程度の護身武器というわけか。貴族やら王族の女が隠し持っている懐刀と似た感じだな。まぁそれは護身用というよりは、もっぱら自決用に使われていたが。戦いを楽しみたいだけの余としては、戦えない者を取って食いはしないから、勝手に死なれるといちいち蘇生する手間がかかっていい迷惑だったな。第一どうせ死ぬなら一矢でも報いようと立ち向かう方が、種族全体の利益を考えたらよほど建設的だと思うのだが、潔いと言うか諦めが早いと言うか、辱めを受けるくらいなら自ら命を絶つなどと、合理性のかけらもない貴人の矜持は、余には理解できぬ。」
一方的に蹂躙するのみで脅かされた経験のない最強生物の魔王にとって、追いつめられる弱者側の心情は知りようもない未知の領域だ。人質に取られるくらいなら自死を選ぶというのも、ある種の合理的な判断なのだが、圧倒的個の力で正面切って叩き潰す以外の戦いを知らなかった魔王の頭には、人質を取るなどという高度な交渉手段は存在しないのだ。
「まぁどうせ死ぬ気で行動するなら、ワンチャン助かる可能性もあるし、抵抗した方がいいっすよね。」
マオは魔王のファンタジック喩え話に下手に突っ込んだり興味を示すと、異世界エピソードが無限に展開されてしまうと学習していたので、あえて深くは突っ込まずに同調する形で相槌だけ打って話を戻した。
「さて、ピストルの護身用以外の用途だと、あとは歩兵が副武装として持ち歩く場合があるっすね。主武装の小銃では対応できない、狭小な屋内戦が発生したときに、やむを得ず持ち出す感じっすね。狭い屋内戦と言えばサブマシンガンの領分なんすけど、滅多にない場面のためにわざわざサブマシンガンを持ち歩くと嵩張るし、スペアマガジンやら含めると、重量は5㎏を超えてくるっすから、個人で携行するにはちょっとした負担っす。その点ピストルならホルスター一つで簡単に携行できるし、持ち替えも容易、重量もスペアマガジン含めても1.5㎏程度と負担が少ないんで、アクセサリー感覚で気軽に持ち歩けるっすね。そうは言っても、屋内戦であっても大概の場面はアサルトライフルで事足りるんで、本当にどうしようもない場面に備えた転ばぬ先の杖って感じっすね。」
ピストルの有用性を一応説きつつも、結局はアサルトライフル推しに落ち着くマオだった。
これに魔王も同調し、改めてアサルトライフルの有用性を再認識した。
「そうか、アサルトライフルの汎用性が高いがゆえに、他の武器種がおまけ感覚となるのだな。大は小を兼ねるとは、言いえて妙だな。」
「そういう事っすね。さっきの対戦の時、私は重量制限の関係でアサルトライフルだけで臨んだっすけど、対応力の高さを考えればあながち無謀ってわけでもないっすね。」
実際アサルトライフルは、至近距離での制圧射撃から中・遠距離における精密射撃に至るまで、ほとんど全局面にわたって高い成果が期待でき、歩兵用汎用装備としてあまりにも完成度が高いのだ。
解説もほどほどに、マオはピストルの試し撃ちに移った。まずは目線と直線上になる様に右手でまっすぐにピストルを構えて、左手で包み込むように支持する、両手持ちの形で射撃体勢を取り、それから魔王に声をかけたのだ。
「それじゃあ撃ってみるっすよ。私の後でルシファーも同じように撃ってみてください。」
「ああ、了解だ。」
マオの姿を観察した魔王は同様の射撃体勢を取りつつ、マオの射撃を待った。
そして、魔王の承諾を得たマオは発砲を開始した。
―――パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ
わずかな間断を挟んで素早く発射された五発の弾丸は、マオの狙い通りにターゲットの胴体ど真ん中を、多少のズレはあるものの概ね正確に撃ち抜いていた。
支給品ピストルは最も一般的で扱いやすい、9mmパラベラム弾を発射するオートマチックピストルだったので、銃自体の重量は軽く、反動も軽微であるので、小柄なマオのアバターでも、ひとまず問題なく安定射撃が可能だったのだ。
なお、標準的な外付けパーツなしのピストルは両手だけで保持する構造であり、アサルトライフルやサブマシンガンの様な、体に押し付けて支えるストックパーツがないので、リコイルをすべて腕力で受けることになるため、貧弱なマオのアバターでは一発撃つごとに銃身が大きく跳ね上がっていた。全弾正確に命中させたのは、リコイルに対応して照準をコントロールした、マオのテクニックによるところが大きい。
また、リコイルバグの検証という点に目を向けると、実射撃の物理的な挙動は、マオが予めこの程度であろうと想定していた範囲に収まっており、異常なリコイルは確認できなかった。いよいよもって支給品アサルトライフルの数値設定ミスが、件のリコイルバグの原因である線が濃くなったのだ。
「よし、では次は余が撃つ番だな。」
マオの射撃を見届けた魔王はそう宣言すると、マオに倣って五発の弾丸を発射した。
―――パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ
魔王の射撃は予想に反することなく、なんの問題もなくターゲットを撃ち抜いた。筋肉ゴリラの魔王アバターなので、リコイルの影響を腕力で完璧にねじ伏せており、ほとんど銃身がブレることも無く、特にテクニックを必要とせずに安定した射撃ができたのである。
想定通りの結果しか出なかったので、マオはピストルの検証はそうそうに切り上げてテーブルの上に置いた。そして今度はショットガンを手に取り、一丁を魔王に手渡してから自身の分を改めて手に取った。
「よし、ピストルも特に問題なさそうっすね。まぁ他に語るべきことも無いんで、続けてショットガンを試してみるっすかね。」
魔王もそれに倣い、持っていたピストルをテーブルに置くと、ショットガンを受け取りつつ応えた。
「うん?ああ、検証の話か。そう言われて振り返ってみると、マオの射撃ではかなりの反動があったようだが、ピストルはリコイルが元々強い武器なのか?」
すっかり武器種の解説が主になっていたので、一応追加検証も兼ねていたことを忘れかけていた魔王だったが、思い出したようにリコイルに関する質問をしたのだ。
これに答えるため、マオはいったんショットガンをテーブルに戻し、再びピストルを手にして解説を始めた。
「そうっすね。オートマチックピストルは携行性と取り回しの良さが高い一方で、威力・連射性・装弾数・射程距離・命中精度など、その他すべてを犠牲にしている感じの武器っすからね。小型であるがゆえに、両手だけで保持する安定性に欠ける構えしか取れないので、反動を軽減する効果は期待できないっす。」
マオはそう言うとピストルを再度構え、両手以外に接地面がないことを強調して見せた上で、今度はアサルトライフルを手に取って構えた。
「保持姿勢の話のついでなんで、比較としてアサルトライフルも見てみるっすよ。アサルトライフルを始めとした小銃は、それなりに大きく嵩張る反面で、その大きさは両腕でがっちり保持できる利点にもなるし、こうしてストックパーツを肩や胸に当てることで照準を安定させるわけっすけど、これは同時に両腕と肩あるいは胸の三点支持によって反動を分散する効果も期待出来るっす。小銃は威力が高く、反動もピストルより大きいっすけど、銃の保持姿勢の良さと三点支持による反動分散・軽減効果が高いから、リコイルの影響を抑えた精密射撃ができるわけっすね。」
そう言うとマオはアサルトライフルをテーブルに置いて、再びピストルを手に取った。
「ただ、今回使ったピストルに関して言えば、威力が低くて反動も小さいモデルなので、ルシファーくらいの、傭兵として標準レベルの腕力があれば、リコイルの影響はほとんどないっすね。私のアバターが貧弱なせいで、リコイルが強く見えるだけっす。」
語ることは無いといいつつも、結局質問に答える形で話が長くなるマオだった。
一連の解説を真剣な眼差しで聞いていた魔王は、話が途切れたところで納得して所感を述べた。
「なるほど、でかい銃は高性能・多機能となり、小さい銃は低威力で機能も限定的と、携行性の高さとその他の性能はトレードオフで反比例するのだな。」
魔王はざっくりとこれまでの話をまとめただけだが、要するに物理的にでかくて重い方が強いという普遍的な事実を述べただけである。また、それは銃のみならず、でかい魔王と小柄なマオのアバターの戦闘能力差にも適用できる論理なのだが、ただ事実を確認しているだけの魔王の言葉に、その様な他意は含まれていない。
ここでマオは魔王の出した結論に対して、反論というわけではないが、少しばかり訂正を加えた。
「同じ技術水準に基づいて作られた銃器に関しては概ねその通りっすね。ただ技術革新によって素材が高機能・軽量素材に代替されたり、構造を合理化・単純化してコンパクトに再構築したりと、科学技術の進歩に伴って小型・軽量化が進んでるっすから、一概にでかければ高性能とは言い切れないっすよ。一例をあげると、電子制御システムの導入で連射速度が向上して、それに伴って威力と反動が増加したり、ストックパーツに衝撃吸収するアブソーブ構造が追加されて軽減率が上がったりと、時代が進むにつれて、様々な機能が改良・追加されてるっすからね。」
「ふむ、そうなのか?では新しい銃が強いという事か?」
魔王はマオの話を単純化して言い換えたが、これにもまたマオは訂正を加えた。
「その考え方はまぁ間違いじゃないっす。ただ高度な技術は整備性の悪さや、壊れやすさにも繋がるんで、その辺も考慮したバランスが重要っすね。最新式の高コスト高性能の銃が、旧式の安価で雑な量産銃よりも戦果を出せない失敗作に終わることはままあるっす。要するに使用目的に合わせて、何に重点を置くか慎重に見定める必要があるっすね。私個人の意見としては、戦場では一瞬の隙が命取りになるっすから、カタログスペックでは多少劣っていても、信頼性が高くて、安定動作するのが何よりも優先されるっすね。」
「なるほど。高性能を謳っていても、安定性に欠ければ使い物にならんというわけか。高範囲高威力の大魔法を使えると謳いながら、詠唱時間が長いうえに魔力消費効率が劣悪で使い物にならん魔導士の様な感じだな。」
「えっと……うん、まぁたぶん大体そんな感じっすね。」
魔王のいまいちよくわからないファンタジック喩え話を、一瞬真面目に考えてしまったマオだったが、考えてもよくわからんので適当に受け流したのだった。




