表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/44

ep2.23 寂れたガンショップ

 魔王とマオの二人は初期ログイン地点である傭兵組合の本部庁舎を後にすると、大通りから外れた人通りの少ない路地裏へと踏み込み、低価格帯の銃器を揃えた初心者向けのガンショップの前までやってきていた。


 現在『マーセナリーインターナショナル』においては、新規傭兵応援キャンペーンとして様々な新人プレイヤー向けのミッションが用意されており、マオ達が装備している支給装備の様に、ゲーム開始直後でもそれなりの装備が一式配備される、新人大優遇の環境となっている。ただ、新人がそれなりの装備を無料でゲットしてしまった結果、初心者向けのガンショップは需要が激減しており、すっかり閑古鳥が鳴いているのだった。お(かみ)の政策のしわ寄せが、末端の小売店に集中しているのである。


 ガンショップの経営問題はさておき、マオは悪目立ちする幼女姿のアバターを使っている関係上、人気の少ない場所を求めていたので、あえて誰も利用しない様な不人気ガンショップへとやって来たのだった。また、とある理由から支給された武器とは別に、店売りの武器も手に入れようと算段を立てていたので、マオにとっては一石二鳥の目的地なのだった。

 そしてその理由とは、先刻の魔王との対戦において、ミッションクリア報酬の支給品部器であるアサルトライフルの三点バースト射撃を行った際に、マオのアバターがリコイルに負けてすっ転んでしまった事に関係している。マオはその現象に関して、物理法則の実態に則していない、平易に言い換えればリアリティが無い、現実的ではない大きな反動が発生していたのではないかと、違和感を覚えていたのだ。いくらマオのアバターが貧弱とは言え、小銃のバースト射撃程度でひっくり返ってしまうのは、流石に大袈裟である。

 なぜマオがそのように感じたのかと言うと、ハワイで親父に習ったわけではないが、彼女は以前、海外の射撃場でアサルトライフルの実銃を試し撃ちした経験があり、反動の威力をある程度把握していたからである。ちなみに、それはまだマオが引きこもる前の話で、マーセナリーシリーズの前作に嵌まっていた時期の事だが、ゲームを通して実銃にも興味を持った彼女は、父秀吉に頼み込んでわざわざ海外の射撃場へと連れて行ってもらい試射したのだ。

 話が逸れたが、マオは未だ確証が得られていない支給品武器の反動でか過ぎ問題を、ともすれば設定ミスかバグではないかと疑っていたので、実態究明のために、検証比較目的で店売り武器を必要としていたのだ。それが支給品限定で発生する事象なのか、店売り武器でも同様の現象が起きるのか、推定バグである事象の範囲を確かめてから運営に報告しようと考えたためである。

 なお、一プレイヤーがわざわざそこまで検証する必要は当然ないのだが、長年同シリーズを愛好しているマオは、より正確な情報をゲーム運営に伝えなければならぬという、妙な義侠心を持っているのだ。


 そんなマオの思惑など知る由もない魔王は、ガンショップに立ち寄った理由をマオに聞いた。

「この店は、と言うか先ほど入った路地裏一帯がそうだったが、この辺りは随分とひなびているな。人通りを避けて移動したのはわかるが、なぜここに来たのだ?」

 はっきり言えば人気が無さ過ぎて、まるでゴーストタウンの様な廃れた路地裏であったが、魔王は少々気を遣った物言いをしたのだった。

 これにマオが答えた。

「ここは初心者向けのガンショップっす。さっきの対戦で起きたバグっぽい挙動の検証のために、アサルトライフルを買いに来たんすよ。」

「ふむ、バグとは何だ?」

 ゲーム用語をほとんど知らない魔王は、バグの内容以前の初歩的なところで躓き聞き返した。

「バグって言うのは虫の事っすけど、ゲームに於いては製作者が意図していない挙動、つまりは虫の様な無軌道な動作をしてしまう不具合に対して使われるゲーム用語っすね。」

 魔王はその答えに感心し納得しつつ、さらに質問を続けた。

「ほう、予期せぬ挙動を虫に喩えるとは、言いえて妙と言う奴だな。面白い発想だ。それで、先刻の対戦で起きたバグとやらは何なのだ?」

「それはっすね……アサルトライフルの反動で私のアバターが転んだ事っすね。現実的なリコイルだと、いくらこのアバターが貧弱でも、転ぶほど大きな反動は無いはずなんすよ。せいぜいフルオート射撃だと照準が定まらなくて、使い物にならない程度っすね。逆説的に、バースト射撃なら問題ないはずなんすよ。」

 マオは先述の通り現実での射撃経験があるため、そこからリコイルの大まかな挙動を予測していたので、予測を大きく外れたゲーム内での挙動を訝しんだのである。

 すっかり検証モードになってやる気を出しているマオだったが、魔王としてはまず射撃方式の名称が分からなかったので、そこから質問が飛んだ。

「うむ、物理的な挙動がおかしい事はなんとなくわかったが、そもそもリコイルだのフルオートだのバーストだのと言うのはなんだ?」

「そっか、ルシファーはゲーム初心者だったっすね。えっと、リコイルって言うのは射撃した時に、銃身が跳ね上がる様な反動の事っすね。銃は火薬を爆発させてその勢いで弾丸を発射する仕組みっすから、当然爆発の反動が銃器側にもあるんすよ。」

「なるほど。」

 魔王はこれに頷いて応え、リコイルについては理解した様子なので、マオはさらに続けた。

「それで、フルオート射撃はトリガーを引きっぱなしにすると、自動で連射する機能っすね。今装備しているアサルトライフルなら装弾数は30発っすから、トリガーを引きっぱなしにすれば30発連射できるっす。あっと、ちなみにトリガーって言うのはこの引き金のことっす。」

 マオは銃器の用語を説明する中で別の専門用語も出てきたので、追加の説明も加えたのだった。まったくの門外漢への説明がいかに大変であるかと、少しだけ学びを得たマオだった。

「了解だ。それでバーストと言うのはなんだ?」

「バースト射撃は3発とか5発だけ細かく射撃して止める射撃法、あるいはライフル自体に備わっている機構っすね。フルオートで弾切れまで撃ち切る場面ってあまりないっすから、対人戦闘でもっぱら使うのはバースト射撃っすね。フルオートだとリコイルの影響で照準がブレて、狙いが定めにくいっすけど、バースト射撃なら正確な射撃が可能になるんすよ。あとは三点バーストなら10回で30発のマガジンが空になるし、五点バーストなら6回の射撃で空になるって具合に、残弾数の把握がしやすいのも、バースト射撃の利点っすね。フルオートで残弾数を把握するのはちょっと難しいっすからね。私はできるっすけど。」

 射撃法の解説のついでに、多少の自慢を挟むマオだった。

「なるほど、完全に把握した。して、リコイルの影響が少ないはずのバースト射撃で、過大な反動を受けた先ほどの対戦の挙動に違和感を覚えたと、そう言うことだな?」

「その通りっす。やっぱりルシファーは話が早いっすねぇ。」

 マオのかいつまんだわずかな説明からでも、持ち前の認知能力の高さと膨大な戦闘経験から類推して、すべてを把握してしまう魔王なのだった。なお、割と抜けている魔王なので、その類推した内容が必ずしも正しいわけではないが、今回はばっちり嵌まった形だ。


「事情は分かった。それならば、さっそく検証用の武器を買おうではないか。」

「そうっすね。」

 店頭でしばらくだべっていた二人は、話がまとまるとようやく足を動かし、ショップ店員が肘をついて居眠りしている販売カウンターへと向かった。

「こんばんはー。」

 マオは夢うつつで舟を漕いでいた店員に声を掛けた。

 すると店員は驚いて目を覚まし、寝ぼけ眼をこすって来客への応対を始めた。

「へぁっ!……あっと、スイマセン、お客さんでしたか。って、あれ?誰もいない?んー……?」

 マオはカウンターから辛うじて顔が出るくらいの背丈なので、寝起きの店員は声を掛けてきた相手が何処にいるのか一瞬分からず、きょろきょろと視線を泳がせた。そこで声の聞こえた方向がやけに低い位置だったことを思い起こし、目線を落としてようやくマオの姿を発見したのだった。

 ちなみに魔王もすぐ後ろに控えていたが、身長2mオーバーの巨体は、カウンターの椅子に座って視野が狭まっていた店員の視界からは大いにはみ出しており、人間と認識されていないのだった。

 店員はマオと目が合うと、改めてお辞儀をして応対を始めた。

「ああ、どうも。いらっしゃいませ。本日はどの様なご用命でしょうか、小さなお嬢さん?」

 店員はマオの容姿が特殊であることを認識した上で、かなり自然な受け答えをしているが、例の如く傭兵都市の住人は高性能AIを搭載したNPCである。今さらだがNPCとはノンプレイヤーキャラクター、すなわち人が操作していないキャラクターの事である。

「なんだかお疲れっすね。それはさておき、商品を見せて貰ってもいいっすか?」

 マオは店員の態度に合わせた適当な労いの言葉を交えつつ、目的を述べた。

 以前にも述べた通り、NPCの好感度を高めておくと、色々といいイベントが起きるので、住人に優しく気さくな傭兵を演じるロールプレイは、ベテランプレイヤーならば息をする様に当たり前に行っている効率プレイの一環だ。

 そんなマオの反応を受けた店員は、思惑通りに好感度アップした様子で、若干表情が明るくなって応対を続けた。

「お気遣い痛み入ります。えっと……あったあった、」

 店員は商品一覧のカタログをカウンター下から取り出して、埃をパンパンと払いのけてからマオに手渡した。お客が来なくなって久しいので、埃が積もっていたわけだが、長時間放置された物に埃が積もるという、無駄に凝ったプログラムが組まれているのだ。

「こちらが当店で扱う商品のラインナップとなります。試し撃ちもできるので、気になる商品が有れば、こちらの試射スペースを利用してください。」

 店員はそう言うとカウンターから出てきて、カウンター脇の通用口へと向かい、店舗スペースの奥に隔離された、簡易な試射スペースへと二人を案内した。

「了解っす。案内ありがとうございます。ところで、今使っている銃と商品を比較したいんで、持ち込みのライフルも撃ちたいんすけど、それは大丈夫っすか?」

 マオの質問を受けた店員は試射スペースの間仕切りされた5つのテーブルのうち、一番手前の台に向かうと、テーブル下に設置されたマガジンラックから装填済みのマガジンを一つ抜き取りながら説明を続けた。

「持ち込み武器ですと試射用の弾薬はご利用いただけませんので、お客様の方で別途ご用意いただく必要がございますが、試射スペースの利用自体は持ち込み武器であっても問題ありませんよ。」

「了解っす。それで、検証用に動画も撮りたいんすけど、構わないっすか?」

 マオは運営に報告するための動画撮影をする予定だったので、撮影許可を求めたのだ。

「はい。問題ありませんよ。他にお客様が居る時に騒がしくされると困りますが、見ての通り開店休業状態ですから、その点もご心配いりません。」

「それなら安心っすね。」

 開店休業状態は別の意味で心配になると思ったマオだったが、NPCショップが経営難で潰れるという話も聞かないので、恐らく問題ないのだろうと思うことにして、それ以上の追及は控えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ