ep2.22 ゲーム再開、魔王の元居た世界の昔話も少々
―――前回までのあらすじ
晩餐会でマオの家族との顔合わせを済ませて信用を得た魔王だったが、晩餐会が終わるや否やさっさと退散したマオに先導され、ついでにニンジャメイドのフブキも伴って、三人そろってマオの部屋へと戻ってきたのだった。
―――
自室に帰ってきたマオはさっそく魔王のパソコンデスクへと向かうと、魔王用の特注ゲーミングチェアを引き出して、背もたれをポンポン叩きながら魔王を呼んだ。
「それじゃあルシファー、お腹も膨れたところで反省会の続きをするっすよ。」
「うむ、了解だ。」
魔王はこれに応じ、促されるままに引き出された椅子へと着席した。
ところで、音もなく二人の後をついて歩いていたフブキは、知らないうちに再びどこかへと消えていた。魔王とマオ、二人の就寝前の湯浴み等の準備を指示するために、一旦彼女の部下である別のメイドの元へと向かったのである。
着席した魔王がモニターに目を向けると、つけっぱなしで食事へと向かい放置されたモニターは、スリープモードに移行して真っ暗になっていたのだった。
「画面が消えているな。これはどうしたらいいのだ?」
魔王が聞くと、マオは背伸びをしてモニターを覗き込みながら説明を開始した。
「これはパソコンのスリープモードっすね。一定時間無操作状態でパソコンを放置すると、電力節約とかモニターの焼き付き防止なんかのために、パソコンが自動的に休眠モードになるんすよ。」
そう言うとマオは、魔王が握っているマウスに手を重ねて、左クリックをカチッと押してからさらに続けた。
「こうやってマウスやキーボードで何かしらボタンを押したら、元の作業していた状態に復帰するっす。」
マウス操作からわずかなタイムラグを挟んで、マオが解説し終わるかどうかのタイミングでモニターは復帰し、ゲームのプレイ画面が再び表示されたのだった。
そして、解説を聞いた魔王は、大きく頷きながら感心して言った。
「なるほど。装置を動かすための消費エネルギーを節約しているわけか。人間らしい発想だな。」
マオはその言葉の意図が掴めなかったため、首を傾げて真意を聞いた。
「人間らしいって、どういう事っすか?」
これに魔王が答える。
「うむ。まず魔人族や精霊種と言った魔法を得意とする種族は、魔法を行使する際の魔力消費量が自然回復量と拮抗あるいは下回るため、ほぼ無尽蔵に魔法を行使する事ができるのだ。それら魔法強者の種族達と比して、人間をはじめとした魔法弱者の種族達は魔力運用能力が極めて低いため、魔力不足に悩むことが多いのだ。そこで、無い物ねだりしても仕方がないという事で、人間の魔法使い達は少ない魔力の効率的な運用で能力の不利をカバーしようと、魔力消費の無駄を省き最適化した高効率魔法の研究をしていたので、それを思い出したのだ。」
「そう言う事っすか。と言うか魔人とか精霊は無限に魔法が使えるんすね。それだけ聞くと、なんか人間には勝ち目が無いっすね。」
魔王の説明を聞いたマオは納得して頷きつつも、魔王が語る世界観の設定の粗をつくというわけではないが、単純に気になったことについて所感を述べたのだ。
これに魔王がさらに答えた。
「そうだな。実際のところ人間族は、かつて世界の覇権を争って戦っていた魔人族とドラゴン族、そして勝った側に助力すると言って傍観を決め込む精霊種などの、主要陣営と比べれば明らかに力不足の弱小種族であり、いつでも滅ぼせるという理由から放置されていただけだからな。それは他の亜人種も同様だが、人間族は特に数が多かったので、散発的に攻めてくる下級魔人やら若いドラゴン種程度ならば、数のごり押しでどうにか退けられる戦力を持っていたので、他種族よりは幾分マシだったと言えるな。他の弱小種族は既に主要陣営に攻め込まれて壊滅状態にされるか、あるいは従属して支配下に置かれるか、二つに一つだったからな。」
「なるほどっすねー。まぁ余談はさておき、ゲームを再開するっす。」
魔王の口から淀みなく紡がれる世界観は整合性が取れており、しっかり設定が作り込まれているんだなと感心したマオだったが、深く追求すると無限に話が続きそうだと察したので、話が膨らまないうちに適当に切り上げようと心の中で決めたのだった。
「了解だ。」
魔王がそう言ってモニターに向き直ると、ゲーム画面には以下の様なシステムメッセージが表示されていた。
『ネットワークが切断されたました。ログイン画面に戻り、ゲームを続行しますか? OK or QUIT』
パソコンがスリープになったことで、ネットワークが切断されオンライン状態が一時解除されたため、魔王のアカウントはオンラインサーバーから強制ログアウトされていたのである。
魔王はメッセージを読んだが、よく意味が分からなかったので呟いた。
「ふむ、なんだこれは?」
これにマオが答えた。
「ああ、スリープで接続が切れたんすね。そのメッセージが出たら、OKを押せばログイン画面に戻ってゲームは続行、QUITを押せばゲームは終了してアプリがシャットダウンされるっすよ。今回はゲームを続けるんでOKっすね。」
「了解だ。」
魔王はマオの指示に従ってOKにカーソルを合わせてクリックし、ログイン画面から再びゲームサーバーへとログインしたのだった。
また、マオも自分の席にいったん向かい、パソコンを操作して魔王と同様にログイン操作を行ってから、再び魔王の席へと戻ってきた。
間もなくしてゲームウィンドウが開き、魔王とマオのアバターは再び傭兵組合の受付ロビーへと転送されてきたのだった。
「よし、ゲームが再開されたが、開始地点は先ほどまで居た演習場ではなく、傭兵組合の受付なのだな。」
魔王が状況を確認してから尋ねるとマオは答えた。
「そうっすね。対戦のリプレイ動画は対戦ログから見直せるんで、わざわざ演習場に行かなくてもいいっすけど、ログイン地点は結構混みあってくる時間帯なんで、まずはもうちょっと落ち着ける場所に移動するっすかね。」
「うむ。マオに任せよう。」
魔王の了承を得ると、マオは自分の席へと戻り、アバターを操作して受付ロビーの正面扉を開いて、建物の外へと出て行った。それに魔王も追従し、二人は傭兵都市の大通りを歩き始めたのだった。
現在の時刻はおよそ午後8時で、仕事や学校帰りの日本人プレイヤー達が食事や夜の支度を終えて、ゲームへのログインが特に増加し、ログイン地点が混み合う時間帯である。そうなると、マオの幼女アバターはますます注目を集めてしまうのは明白で、既にかなりのプレイヤーがログイン直後に足を止めて、若干の渋滞状態を引き起こしていたのだった。魔王と楽しく遊びたいだけで、悪目立ちするのは本意ではなかったマオは、他のプレイヤーの邪魔にならない様に速やかに移動することにしたのである。




