ep2.20 晩餐会の閉幕とフブキのニンジャ真実
―――前回のあらすじ
マオの母リリーは年齢不詳の美女モデルとして数十年来姿を変えずに活動しているが、魔王の解析魔法によって彼女が実は人外の存在であると看破された。そしてその正体は吸血鬼と淫魔の近縁種・エストリエだと本人から説明されたのだった。奥様は魔女ならぬ悪魔だったのである。ちなみに妹のマオは人間だが、姉の伊呂波はエストリエだとさらっと明かされた。
それはまさに「今明かされる衝撃の真実」だったのだが、当事者である望月三兄妹は、それがまさか嘘の様な本当の話だとは思いもしなかったので、コスプレ魔王の気合いの入ったロールプレイと、それに付き合うノリノリの母の与太話として雑に処理され、まったく信じられていないのだった。
―――
実のところリリーは、マオを交えた魔王との三者面談を通して、魔王の人となりを確認し、家族に危険を及ぼす存在ではないか、密かに探りを入れていたのだが、その結果、魔王は自称善良な悪魔であるリリーと同様に、話せばわかるタイプの理知的な化け物であると判断したのだった。
目的を果たしたリリーが夫の秀吉に目配せして合図すると、秀吉は席を立って歩み寄り、会話の輪に入ってきた。晩餐会の締めに入るためである。
「どうもルシファーさん、料理はお口に合いましたかな?」
まずは当たり障りない切り口から話し始めた秀吉に、魔王は大きく頷きながら素直に答えた。
「うむ、どの料理も美味であった。」
これを受けて秀吉は満面の笑みで応えた。
「それならばよかったです。……さて、ルシファーさんは旅の疲れもあるでしょうし、あまりお引き留めしても難ですから、そろそろお開きとしましょうか。」
そして挨拶もそこそこに、晩餐会の締めへと移行したのだった。
秀吉は妻のリリーを伴って自分の席へと戻ると、状況を察した魔王もまた右へ倣えで自分の席へと着席した。
秀吉は一同を見渡し全員揃って着席し、食事も済んでいる事を確認すると、晩餐の始まりの時と同様に合掌して、「ごちそうさまでした」と号令をかけた。当主の号令を受けた望月一家は、慣れた様子で揃って合掌して感謝を述べ、食後の儀式はつつがなく実行された。
そして魔王はと言うと、食前の儀式では手順を知らなかったためタイミングを外してしまっていたが、その際にすっかり手順を学習していたので、食後の儀式には遅れることなく参加し、他の面々と同時に「ごちそうさまでした」の呪文を唱える事に成功したのだった。
それは言うほどすごくもない、ちょっと賢い鳥くらいの学習能力ではあるが、人外魔境の最強生物が人間の行動に理解と配慮を示し、歩調を合わせる努力を擁していること自体に、それなりに大きな価値があるのだ。
晩餐会が終了すると、マオはさっそうと席を立って我先に自室へと戻ろうとしていた。
「それじゃあ部屋に戻るっすよ。」
「了解だ。」
マオに促された魔王は立ち上がり、速足で食堂を後にする彼女の後を追った。
また、魔王のさらに背後には、いつの間にか再び姿を現していたニンジャメイド・フブキが続いていた。
実はフブキは魔王達が食事している間ずっと、食堂の前で気配を消して、壁に同化して待っていたのである。そして食堂内での会話内容もすべて把握していた。それは、普通のメイドであれば業務内容を逸脱した越権行為に当たるが、望月家の御庭番、すなわち護衛を兼ねたニンジャメイドである彼女にとっては、マオの身の回りで起きた事柄を把握し、危険を遠ざけるための情報収集は、通常業務の一部なのである。
ところで、極秘裏に行われている身辺警護と言う名の監視体制など知る由もないマオは、フブキの事を異様に気が利く間のいいお姉さんくらいにしか思っていないのだった。知らない方が幸せなこともあるのだ。
再び長い廊下を時速3㎞くらいの鈍足で駆け抜けた三人は、マオの部屋へと戻ってきたのだった。




