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ep2.17 魔王、望月家の晩餐に参加する

―――前回までのあらすじ

 魔王とマオは初対戦の振り返り反省会をしていた。

 二人それぞれの視点からリプレイ映像を確認した結果、魔王の危機感の足りない大胆過ぎる行軍姿勢が敗因であるとの認識が共有され、脳筋魔王は戦場における隠密行動の重要性を認知したのだった。

―――


―――コンコンコン

 反省会がひと段落して小休止に入ったところに、扉を叩く音が飛び込んできた。

「開いてるっすよー。」

 マオが応答すると静かにドアが開かれ、そこにはメイドのフブキが立っていた。

「お楽しみのところ失礼します。」

 フブキはそう言うと深く一礼し、姿勢を正してから言葉を続けた。

「お嬢様、お食事の用意が整いましたので、お呼びにあがりました。」

 マオは壁掛け時計に目を向けつつこれに応えた。

「おっと、もうそんな時間っすね。すぐに行くっす。そう言えば、私は何も言ってなかった気がするっすけど、ルシファーの分も用意されてるっすかね?」

 マオは今さらながら魔王が部屋に居る理由やらなんやらを、父秀吉以外には特に話していなかったと気付き、魔王が屋敷内でどのような扱いになっているのか気になったのだった。

 これにフブキが答える。

「ルシファー様は先代様の御友人として当家をお訪ねになられたという事で、御屋形様からは最賓客待遇でお迎えする様に申し付かっております。また当面の間はこちらに逗留なされるとのことでしたので、もちろんお食事のご用意もさせていただいております。」

 マオの心の内を察したフブキは、聞かれていないことまで色々と付け加えて報告した。

「おお、そうなんすね。ありがとうっす。それと流石お父さんっすね。私が何も言わないと思って、代わりに話しておいてくれたんすね。」

 マオは抜かりなく疑問点を潰してくるフブキにお礼を言いつつ、さらに質問した。

「ところで今日は誰が居るっすかね?」

 望月家の住民は、当主であるマオの父秀吉を筆頭に、マオの母、マオの兄夫婦とその娘が一人、さらにマオとマオの姉で、二世帯・三世代の合計七人で暮らしている。現在マオは引きこもってニート生活を送っているが、他の家族は仕事なり学校に通っていてそれなりに忙しくしており、全員そろって夕食を取る事は少ないので、本日出席しているメンバーをマオは聞いたのだ。

 これにフブキが答える。

「本日は御屋形様、奥様、若様、若奥様、それと御令姉様もおいでです。皆様、既に食堂にお集まりで、お嬢様とルシファー様をお待ちになっておられます。」

 兄夫婦の娘は学校のサークル活動で合宿に参加しているため不在だが、マオにとっては既知の情報であるためフブキは省略して報告したのだった。

「おお、珍しくお姉ちゃんも居るんすね。それなら急いだほうがいいっすね。食堂に行くっすよルシファー。」

「了解した。」

 マオに促された魔王は席を立ち、速足で食堂へと向かうマオの後ろをのしのしと歩いてついて行く。倍近い身長差の二人は歩幅が違い過ぎるため、速足のマオはのんびり歩く魔王よりも少し遅いくらいの歩行速度なのだ。また、マオに続く魔王のさらに後ろを、フブキが影のごとく滑る様な足さばきで付いて歩いていたが、あまりにも気配がないので五感が鋭敏な魔王でさえも知覚できない隠密っぷりだった。ニンジャ。


 ところで、姉の存在を聞いたマオがなぜ急に慌ただしくなったのかと言うと、実姉は時間に厳しく待たされるのを嫌うタイプなので、姉の逆鱗に触れない様にするためである。マオの父母と兄夫婦は揃ってマオに甘いため、滅多なことで怒られることはないが、姉だけは怒る時は怒るので、その逆鱗ポイントを正確に把握しているマオは回避行動に余念がないのだ。



―――処変わって、望月家食堂

 マオと魔王、そしてフブキの三人は長い廊下を抜けて食堂へとやってきた。

 食堂の大扉は開放されており、室内では先客達が既に長大なダイニングテーブルの席に各々腰を掛けて待っているのが見えていた。

 そこで若干鋭くなっている姉の眼光を見逃さなかったマオは、そそくさと室内に入りつつ先手を打って声を掛けた。

「お待たせして申し訳ないっす。それとお帰りなさい。」

 開口一番に謝罪したことにより姉からの眼光が若干緩んだので、マオはほっと胸をなでおろして自分の席へと向かった。


「えっと、ルシファーは私の隣でいいっすね。」

 マオはテーブルに配置されたカトラリーの配置を見て、いつもの自分の席の隣にもう1セット分が用意されているのを確認してから、魔王を手招きして呼び寄せた。

「うむ、了解だ。」

「どうもルシファーさん。」

 マオに呼ばれるままに魔王は食堂へと足を踏み入れたが、そこに当主である秀吉が席を立って歩み寄り、巨大な魔王を見上げながら右手を差し出した。歓待の意を込めて握手を求めたのだ。

 魔王がこれに素直に応じ、小さな秀吉に合わせて膝を折る形で手を差し出すと、秀吉は満面の笑みでその手を取り、がっしりと握手を交わした。そして、握手を終えるとさらに続けた。

「先刻ぶりですが、その後お寛ぎ頂けましたか?何やら真央の遊び相手になっていただいたそうで、ご負担になっていなければよいのですが。」

 秀吉は、マオの専属メイドであるフブキから、二人が何をしていたか詳細に報告を受けていたので、魔王が楽しげに過ごしていたことも知っていたが、賓客をもてなす当主の建前として、娘の応対に落ち度はないか遜って聞いたのである。ちなみにフブキは天井裏の隠し通路に忍び込んだり、部下を使って散歩中の二人の様子もこっそりと監視していたのだ。ニンジャ。

 それはさておき、偉ぶらずに歓待の意を示す秀吉に対して、魔王はおもねる事無く堂々と答えるのだった。

「うむ。急に押し掛ける形であったが、マオにも屋敷の者達にも過分に世話になっている。それとゲームに関しては、余が興味を持って教えを請うたのだ。あれはなかなかに奥深い。」

「そうでしたか。お楽しみいただいているのなら何よりです。」

 秀吉がやはり満面の笑みで相槌を打つと、魔王はさらに続けた。

「ああ、ゲームでは誰もが一流の戦士となれるところがよいな。元居た世界では余に立ち向かってくる者など、とうの昔に絶えて久しかったが、ゲームの中では戦う相手に事欠くことはない。あれはなかなかどうして、よくできた戦いの形態だな。」

 ゲームをやたらと褒めそやす魔王と、その様子を見て嬉しそうにしているマオを交互に見比べてから、秀吉は答えた。

「なるほど、そう言うことでしたら引き続き真央の事をよろしくお願いします。」

「うむ、こちらこそよろしく頼む。」

 魔王は単純にゲームを楽しんでいたので、嘘偽りなく本心から称賛していたのだが、娘に合わせて相手をしてくれているという先入観を持っていた秀吉は、反って余計な気を遣わせてしまったかと反省し、それ以上の追求は控えたのだった。

 なお、秀吉は単に娘の遊び相手をお願いしたつもりだったが、魔王の方は魔王軍参謀として迎え入れた賢者のマオを、責任をもって預かるという意味で受け取っていた。

 言葉の上では一見会話が成立している二人だが、やはりどこかすれ違っている魔王と秀吉なのだった。


「さて、長々と立ち話もなんですのでお掛けください。どうぞこちらへ。」

 秀吉がマオの隣へと魔王を先導し、当主自ら椅子を引いて着席を促すと、魔王は素直にこれに従った。


 魔王を座らせた秀吉が自分の席へと戻り、全員揃ったところでようやく晩餐会が幕を開けるのだった。

 次回、望月ファミリーの紹介やらなんやら。(予定)

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