ep2.16 対戦内容の振り返り反省会 その2
―――前回のあらすじ
魔王とマオは対戦内容のリプレイ映像をチェックしつつ反省会を行っていた。まずは魔王視点でのリプレイ映像を振り返り、その中でマオは、魔王に危機感が足りないと指摘した上で、勝敗を分けた要因が何かを問いかけた。
それに対する魔王の回答は、どちらが先に相手を発見したかが勝敗を分けた鍵であり、それは多分に運に左右される要素であるとの主張だった。
マオは機先を制した側が有利という点には同意した一方で、運次第との論説には異を唱えた。そして先に述べた、魔王には危機感が足りない、との指摘についての解説と合わせて、マオが先に魔王を発見した理由を確認するために、今度はマオ視点でのリプレイ映像を振り返ることにしたのだった。
―――
マオ視点でのリプレイが始まると、まず最初に目を引いたのが戦闘開始前のカウントダウン中にせわしなく動き回る様子だった。
「ほうほう、カウントダウンの最中に周辺地形のチェックや、それに合わせた武器選択を行うとのことだったが、こういうことか。」
魔王は先だってマオから受けたアドバイスを反芻しつつ、リプレイ映像のマオの動向を注意深く観察したのだ。
これにマオが解説を加えた。
「そうっすね。ただ、現状私のアバターは装備可能重量の関係で、アサルトライフルしか携行してないっすから、ほかに選択肢はないっすけどね。でもその代わりに新しいアバターの物理的な挙動のチェックをしていたんすよ。」
「ふむ、どういうことだ?」
魔王は引き続きリプレイ映像を注意深く観察したまま聞き返した。
「武器を新調した際には重心の変化や持ちやすさの違いで、照準速度やらなんやら、わずかに変化が起きるんで、その確認っすね。まぁ今回に関しては武器変更以前に、アバター自体を新調したので、その性能チェックをしていたんすよ。そこで判明した問題点の一つがこれっす。」
そう言うとマオはリプレイ映像を少し巻き戻して、ライフルを構えた際に3秒しか保持状態を保てずに、徐々に照準が下がっていくシーンを再生した。
「この照準が下に落ちていくところっすけど、実はこの時、私は一切カメラの操作はしてないんすけど、貧弱な腕力がライフルの重さに負けて、勝手に下がって行ってしまってるんすよ。」
「ほう、これが戦闘開始前に何か呟いていた理由だったか。」
魔王は記憶力がいいので、細かい事も割と正確に覚えていた。
「そうなんすよ。まぁこの時点ではなぜ照準が落ちるのかまだ特定できてなかったんすけど……」
そう言うとマオは少し映像を進めてから話を続けた。
「この辺は戦闘開始の直後っすけど、ここでもまだアバターの挙動チェックをしてるっすね。武器を構えて照準を合わせる事をエイムって言うっすけど、このエイム速度の正確さと速さが銃撃戦の明暗を分けるんで、感覚を掴んでおくのは大事なんすよ。それでエイムの動作確認をしていたら、左右にライフルを振った際に妙な慣性が働いて、照準が停止して安定するまでに時間がかかると分かったんすよ。」
魔王は解説を聞きながら映像を注意深く観察し、マオの言っている通りの挙動が発生している事を確認した。
「ふむ、先の照準が下がる件もそうだが、余のアバターではこの様な動きはなかったな。エイムはマウス操作に合わせて精緻に動作していたし、停止に際してもピタッと止まっていたな。」
マオはこれに頷きさらに続けた。
「それが普通と言うか、標準的な体型のアバターを使った際の正常な動作っすね。それで私のアバターが妙な挙動をしている原因は単純で、腕力不足のせいでライフルの重さに体が振り回されているって理由っすね。私を模したアバターは小柄で細身な上に、男性に比して筋力量が少ない女性アバターを使ってるっすから、腕力不足と考えると、起きている現象とに対してつじつまが合うんすよ。」
「なるほど。重量物を振り回す際には大きな慣性が働き、制御が困難になるが、マオのアバターにとっては、ライフル程度の重さでも重量物となってしまうわけか。」
魔王は現実における経験的な事実との比較から、マオの仮説に賛同したのだ。
その反応を受けてマオは、妙に嬉しそうに解説を続けた。
「その通りっす。このゲームは超リアルな物理エンジンが売りの一つっすから、現実的な物理現象が正確にシミュレートされるんで、現実の現象に当てはめて考えれば、何が起きてるのか原因が分かりやすいんすよね。このリアル志向が、圧倒的に納得感のあるゲーム体験を与えてくれるんすけど、まぁその話は今は置いておくっす。」
推しの好きポイントを早口で語りまくる、オタクの性がうっかり顔を出てしまったマオだったが、今は魔王への解説が本題なので、推し事は中断したのだった。
「まぁ原因さえ分かれば対策も可能っす。慣性の強さはエイム速度に比例するんで、使っていくうちに慣れで制御できるし、照準が下がって行く問題もライフルの重さを腕以外で受ける安定射撃姿勢を取る事で解決できるっすからね。」
そう言うとマオはさらにリプレイを進めて、しゃがみ撃ちの動作を取る事で射撃姿勢を長時間保持できているシーンを映し出した。
「ほう、流石だな。すでに問題に対する対策も考案していたのか。」
「まぁそれ程でもあるっすよ。このゲームも随分長くプレイしてるっすからね。原因さえ分かれば、対策もすぐに思い浮かぶんすよ。」
魔王の称賛の言葉を受けたマオは誇らしげにそう答えた。
長時間プレイしてゲームの仕様に対して卓越した理解力を示すことは、一般には決して誇れるものではないが、廃人ゲーマーを自称する重度のゲームオタクにとっては、積み重ねた努力の結晶であることに変わりはない。それが実生活において何の役に立つのかはさておき、何かを極めると言うことは、自己肯定感を高めて自信を得る礎となりうるのだ。
マオのアバターが雑魚過ぎるという話がひと段落したところで、たくさん喋って喉が渇いたマオはエナドリで喉を潤していた。
ここで魔王は、わずかな休憩タイムを利用して、これまでの話を頭の中で整理していたが、素朴な疑問に気が付いて質問した。
「ところで、余に危機感が無いという話はどうなったのだ?」
これにエナドリを飲み干して、缶をぺこぺこへこませていたマオが答えた。
「ああ、そっちが本題だったっすね。リプレイを最初から順繰りに見ていくと、私のアバターの問題点が先に出て来たんで、こっちから解説したんすけど、次は危機感の話をするっすよ。」
そう言うとマオは小休止の前に一時停止していたリプレイを再生した。
リプレイ映像はマオ視点で魔王を索敵しているシーンへと移っていた。実際にはエイム動作のチェックと並行して索敵も行っていたので、その流れは流動的かつ同時進行であったが、複合的なタスクの説明は話がややこしくなるので、エイム動作の確認が終わったところから、すなわち索敵だけに集中しているシンプルなシーンからマオは解説を始めた。
「このシーンでは、私がルシファーを索敵して歩き回っているわけっすけど、私とルシファーの索敵方法で何が違うか分かるっすか?」
マオはさっそく魔王に質問した。
「ふむ……余の索敵との比較か……」
魔王はしばしリプレイ映像を観察してから答えた。
「簡単なところでは、マオは歩いて移動しており、余の様に走っていないことが挙げられるな。走った方が早く接敵できると思うが……なるほど、これが危機感が足りないという事か。」
魔王は二人のプレイ内容を比較して、その差異と先の対戦の結果を踏まえて、マオの質問に対する答えを導き出したのだった。
「何かわかったっすか?」
何やら納得している魔王に、マオはその真意を求めて問いかけた。
「うむ。余は軽率に走り回ったためにマオに足音を察知され、結果的に先に発見されるに至ったというわけだな。それに対してマオは物音を立てずに歩きや匍匐前進を併用して移動している上に、障害物の陰から陰へと慎重に周囲を確認しながら行動しているのが見て取れるが、これは隠密に徹して先に見つかるリスクを抑えているという事か。なるほど、これならば余が先に見つかったのは必然であり、運に左右された結果では無いと理解できるな。」
急にすべてを悟った様に語り出した魔王の弁論は、マオが言いたかったことのほぼすべてが含まれていたので、マオはいまいち話す事が無くなってしまったのだった。
「その通りっすよ。いやぁ、色々解説しつつ課題と対策について話そうと思ってたんすけど、全部自己解決されちゃったっすね。」
マオはばつが悪そうに笑い、頬をぽりぽりと掻く仕草を見せつつそう言ったが、魔王はこれに否やを唱えた。
「いや、余が対応策を見出せたのは、ほかならぬマオのおかげだ。マオはまず余の行動の問題点を指摘し、その上でマオの行動との比較を示すという、順を追った思考誘導を行っていた。ゆえに余は自然と結論を導き出せたのだ。一人で考えていたならば、こうも早く結論は得られなかったであろうとも。」
魔王が迫真の表情で褒めそやすので、大して何もしていない思いがあったマオは反って気恥ずかしくなったが、その言葉に裏が無い事は真剣な目を見ればわかったので、素直に称賛を受け入れることにしたのだった。
「まぁ私は曲がりなりにもトップランカーをやってるっすからね。より細かい技術的な部分は、アバターの体格の違いなんかで変わってくるんで、一緒に遊ぶ中で追々説明するっすよ。」
「ああ!よろしく頼む。」
マオの気恥ずかしさを隠すためのベテランプレイヤームーブに、そうとは知らず素直に返答する魔王なのだった。
こうして、すっかり対戦に関する話が終わった雰囲気を出している二人だったが、マオの方はまだ最後に特大の課題が残っている事を忘れてはいなかった。その課題とは、決着の際にマオのアバターがライフルを3点バースト射撃した折、リコイルですっ転んでしまった事である。ともあれ、少々長くなってしまったので、課題の対策は次回に持ち越しとする。




