開演-パンザマストプロローグ-
pixivにあげてるものをそのまま持って来ました()
楽しんで見ていただけたら幸いです(*´ω`*)
...神様。
私は一人ぼっちです。母はいつも仕事で忙しく、父は既にいません。私には友達もいません。何処にも私を救ってくれる人はいないのです。
贅沢なんて言いません。痣の消えない毎日が変わらなくったって構いません。ただ、私の話を聞いてくれる人が欲しい。救ってくれる人が欲しい。少しの間だけでもいいから、どうか、どうか...
助けて、誰か...
◇◆◇
やかましいベルの音で目が覚めた。昨夜、何かをこのベッドの上でしていた気がするが、よく思い出せない。
目覚まし時計を止め、時間を確認する。大丈夫、いつも通りだ。
気だるい上半身を起こし、向かいの鏡に写った寝癖のはねまくった私、平井優羽香の顔に軽く頭を下げた。
私の日常は、誰もいない家から始まる。
父はすでに亡くなっていて、母はいつもは仕事で家にいない。普段別に困ることはないが、多分そのせいで孤独に慣れたのだろう。
普通に朝食を食べ、準備を済ませ、学校へ行く。この登校時間が一番憂鬱なのだが。
学校ではいつも一人で本を読んだり、屋上で風景画を描いたりして、退屈をしのいでいる。
だが、たまに一人でいられない時がある。
「おはよ!今日も元気~?」
今朝、学校で準備を終えて本を読んでいた時に、艶やかで綺麗な黒髪が眼前で揺れた。
青山水井菜。このクラスではお嬢様的な立場の人間だ。整った顔立ちに、まん丸でくりっとした目を持った人。
正直に言うと、私はこの人が好きじゃない。理由は説明しなくともわかる。
「あ、青山さん…おはようございます」
「あは、良かったぁ、日本語通じてぇ」
小馬鹿にしたような笑みで挨拶を交わしてくる。少しすると、周りから二人ほど彼女の友達が現れた。
「おはよう、みぃちゃん!」「おっはよー」
まあ、普通の挨拶だが、私に向けられたものではない。
「あ、ども~化け物さ~ん」「また学校来たの?人じゃないクセに」
これが私に向けられた挨拶。青山さんとは大違いだ。
もうだいたい察してると思うが、私はいじめを受けている。理由なんて簡単なもので、根暗で愛想よくないし、とりあえずいじめやすいから、みたいな感じ。
ただし、さっき青山さんの友達が言っていた『化け物』の理由だけははっきりしている。
私の髪色だ。紫っぽい青色。普通あり得ない色をしている上、毒々しいというか、気味の悪い色。嫌われ遠ざけられるのも当然だ。染めている訳でもないから、仕方ないとしか言い様がないんだけども。
「あ、そうだ。アンタ、放課後遊ぼうね!忘れないでよ~」
私は俯いて頷く。こう言われると、ほとんどの人が喜ぶかもしれないが、私と青山さんの場合、『今日の憂さ晴らしするから殴られに来い』という意味になる。
また新しいアザが増えるのか。目立つところにはつけないでほしいな。
ふと、さっきまで読んでいた小説の一文が目に入った。主人公が親友に語りかける場面。
“大丈夫だ。神様は人が皆、幸せになれるように運命を設定してくださっている。きっとお前もいつか”...
「......嘘つき」
『嘘つきはどっちさ』と、誰かに笑われた気がした。
なんだかひどく虚しくなって、思わず本を閉じた。
◇◆◇
夕焼けってどうしてこんなに主張が強いんだろう。
無駄に赤々として、自分はここにいるぞって言ってるように見えて、つくづく私とは正反対だって思い知らされているようで、気分が良くない。
太陽と反対ならお前は月か、と言われると、それも違う。
だって月は月で、存在を主張するためにわざわざ太陽の光を跳ね返しているんだもの。それなら星だってそうだ。
自分を例えるもの。言ってしまえば、ただの影だ。そこにあっても何も不思議ではないが、なんとも思わない。それなら私を表すのに相応しい。
と、自虐的なことを考えつつ、家への歩を進める。
あとは、洗濯物をしまって、ご飯を作って、お風呂に入って、宿題...は今日出なかったな。なら、早く寝られそうだ。
腕と腹の辺りにできた新しい痣を、触らないように気をつけて、今日を締めくくるべく、とりあえず歩いた。
これが私の日常だ。たったこれだけ。何一つ面白くない、一人の中学生の日常。今日も変わり映えしない日々を過ごしている。
............。
わかっている。私は、これが日常だと思っているけど、このままでいいとは少しも考えていない。
できるなら変えたい。少しでいいから、この苦痛を和らげる何かが欲しい。
そうだ。そう思ったから昨夜、神様に望んだんじゃないか。
いるのかわからない神様に助けてほしいって願ったんだ。
私は化け物だ。変化を望むのに、自分では何もしようとしない、最低な人のなり損ないだ。
それでも辛いんだ。苦しいんだ。
一人ぼっちには慣れたが、クラスメイトが友達とおしゃべりしてて、孤独感を感じているんだ。
公園で戯れる小学生くらいの子供を羨ましいと思っているんだ。
気がつくと、公園のスピーカーからパンザマストが鳴り響いていた。
「夕焼けこやけ」に合わせて歌詞を口ずさんだ。
胸の辺りの空欄が、一層強い風を通した。
私の日常は、ここで幕を閉じることになった。
死んだのかって?いやいや、まさか。
それどころか、死ねない程にとんでもないことに巻き込まれてしまったのだから。
私の非日常は翌日の朝、幕開けとなった。




