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火精のグレン  作者: 仮宮 カリヤ
一章 始まりのグレン
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第8話 アイドルの契約

握手を数秒間続けると、マナはすぐに手を離した。


「それじゃ、私はまた潜るから」


そう言ってとことこと歩き出す。


「いや、駄目だから」


俺はすぐさまマナの手を掴んだ。

マナは顔から滲み出る苛立ちを隠せない。


「何あんた!? さっきから私の手ばっかり触って! キモい!」


「いや別にお前の手を触りたくて触ってるんじゃないんだけど!?」


俺は精一杯の反論を返す。


「俺はお前がまたデスアウトしに行く為にポーションを投げてやった訳じゃないからな?」


「あっそ、勝手に投げたのはあんたよ? しかも、あんな無礼なやり方して偉そうに出来るの? 逆に尊敬するわ」


「うっ………」


言葉に詰まった。確かに、あんなやり方をするのはいけなかっただろう。

俺はその場で大きなため息をついた。


「分かった。行かせてやる。ただし……」


マナが勘づいて、俺に嫌そうな顔を向ける。


「俺も連れていけ」

「嫌よ」


即答だった。


「どうせ、倒すのはあなたになっちゃんだから、私にはポイント入らないし」


……あぁ、なるほどな。

俺は、彼女の本心が見えてきていた。


きっと彼女は、怖いのだろう。裏切られることも、見捨てられることも。

だからその前に、棘のある言葉で相手を突き飛ばすのだ。

今までの経験が、彼女をそうさせたと思うと悲しくなる。


俺は思い立ってイグニに聞いてみた。


「イグニ、ポイントの譲渡って出来るか?」


「いや、だがGなら可能だ。後でポイントと交換も出来るしな」


「そうか、ありがとう」


俺は100万Gだけ出し、マナにそれを渡した。


「……いや、何このばか重いお金……」


「それでお前を買う」


「………へ?」


俺が何を言ったのか、マナには聞こえなかったようだった。いや、正しくは聞こえてはいたが、その意味が理解出来なかったのだ。


「いや、どういうこと?」


「今日一日、お前をその金で使わせて欲しい。頼めるか?」


「……あんた自分で何言ってるか分かってる? そのお金分の成果なんて、一日でとれるわけないじゃない」


へぇ、そうなんだ。


「まぁいい。俺は仲間が欲しいだけだからな。それでいいぞ」


マナは肩を落としてため息をついた。


「いいわよ、その話乗ったわ。このお金は私ので、今日一日は私はあんたの為に動くわ」


「あぁ、宜しく」


そうして俺たちは、森の奥へと歩き出した。

十分も歩くと、鼠型のモンスターが目の前に現れた。

しかもそれは、倒すと大量のGとポイントが貰える、巷でレアモンスターと呼ばれている類いだった。


「お、幸先いいんじゃないか?」


俺はメニューから街で買い占めていた護身用のナイフを一本出した。

一々殴っていても疲れるからな。魔法もMP使っちゃうし。そして簡単に仕留める方法がこれだった。


俺はモンスターにナイフを投げるが、モンスターはひらりとかわしてしまい、ついには敵前逃亡してしまった。


「えっ!? 何故に?」


「知らないの? どんなRPGでもレアモンスターは大体こんなものよ」


わざわざ現れてきた癖に!?

俺はこの瞬間を勿体無く思い、モンスターを追い掛ける。


「はぁ、仕方ないわねぇ」


マナは大きく息を吸い込んだ。

すると、突如として森一帯に美声が響き渡る。

俺が足を止めて後ろを振り返ると、その正体はマナのようだった。

これが、マナの能力なのか………?


俺はもう一度モンスターの方を振り返る。

そこでは、モンスターが草むらの中でぐっすりと寝てしまっていた。

急いでモンスターの所へ行き、止めのナイフを突き刺すと、モンスターは消滅した。

俺はマナに駆け寄った。


「なぁ、今のって………」


マナは自慢げに振る舞って言った。


「私のジョブは「アイドル」、歌で敵に状態異常のデバフをかける能力よ!」


「あぁ、そうか! それは頼りになるな! それよりも………」


俺はマナの肩を叩いた。


「良い顔出来んじゃん!」


その時のマナの顔は、とても煌めいて見えていた。

少なくとも、俺にはそう見えていた。

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