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火精のグレン  作者: 仮宮 カリヤ
一章 始まりのグレン
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第2話 伝説の精霊

「グルアアァ……」


俺が止めの一発をその恐竜型の敵モブに入れると、鳴き声をあげて倒れてしまった。

するとそれは突然、光の粒子となって消滅した。


「ふぅ、結構倒したな! ステ振りしとかないと」


このゲームには、レベルシステムというものが存在しないらしい。

だから敵を倒せばすぐにステータスにポイントが入るし、自分の強さが周りにバレることもない。


そこら辺もこのゲームの現実的な部分なんだろうか。

俺はステ振りを終えると、また次の敵を探しに行くことにした。


「じゃあ行くか!」


そうして一歩俺は踏み出した。

すると、何か石のようなものを踏みつけてしまう。一瞬にして、俺の周り一帯には蟻地獄が現れた。


「……へ?」


俺は目の前で起こった突然のことにすぐに反応出来ず、蟻地獄の中に吸い込まれてしまった。

中は空洞で、地面に着地するまでかなりの高さのようだ。

俺はジェットコースターの下り坂のような恐怖感が頭を過り、目を瞑ってしまう。

そのせいか、上手く着地が出来ず、地面に尻餅をついてしまう。


「痛ってぇな……」


俺は自分のHPを確認する。

そこまで削れていないようで安心した。


「て言うか、ここどこだ? なんか暗いし、天井もめっちゃ高いな」


「なんだ? お前、この程度でダメージ食らってんのか? ポイント少ねぇのな」


突然、頭上からどすぐろい声が聞こえ、反射的に上を見上げる。

鋭い眼光が俺と眼が合った。よく見ると、それは俺よりも数十倍大きな蜥蜴のようで、肉食動物のように歯が発達しているが、その犬歯の大きさは俺と同じくらい。口は蜥蜴だからか、大きく裂けている。眼光は血色に光り、俺の目を離そうとしない。三本の足の指は爪が長く、当たっただけで体が裂けてしまいそうだ。そして堅そうで刺々しい赤い鱗がこの蜥蜴の身体をしっかりと守っている。あと翼でもあれば夢のドラゴンを拝めたと思ったんだけどな。


何こいつ、敵モブの癖に喋っちゃってるんですけど。


「うっわ、絶対強ぇじゃん。ここ初期の街だろ? 公式のミスかなんかか?」


「まぁそんなところだ。お前は俺の一発で、即デスアウトだ…………痛てっ!」


大蜥蜴は台詞の途中、尻尾の方を向いて痛んだ。

俺がその方向を見ると、大蜥蜴の尻尾は肉が引き裂かれ、今にも取れてしまいそうだ。大怪我をしているようで、見ているこっちが痛々しい。


「お前、怪我してんのか?」


「はぁ、お前には関係ねぇだろが!」


俺は大蜥蜴の威嚇には惜しみもせず、アイテムメニューから俺が狩ったモンスターのドロップアイテムの液体が入った瓶を投げる。

そのまま瓶は大蜥蜴の尻尾の上で割れた。


「はぁっ!? お前不意打ちか!?」


大蜥蜴はその大きな顔を俺に近づける。

うっわ、何こいつマジ怖ぇ……。

俺はその大蜥蜴の勘違いを弁解する。


「いやいや、違ぇって! ほら、尻尾見てみろよ!」


「あぁ?」


大蜥蜴は尻尾の方へ目を向ける。と、その尻尾の傷は癒えきっていた。


「どうだ? これで大丈夫だろ?」


俺はニヤニヤしながら大蜥蜴を見るが、大蜥蜴は納得していないようだった。


「お前! 何の風の吹き回しだ!?」


また大蜥蜴が脅すように俺に顔を近づけるので、俺ももう一度弁解する。


「お前は怪我してる奴に喧嘩挑めるのか? んな訳ねぇだろ! そんなことするんだったら、俺は自分の人生を悔いて腹切って死ぬ! だから俺は、最高のお前と勝負して、最高の勝負をする! そして勝つ!」


そう言い放つと、理解する意味もないとでも思ったのか、それとも俺の相手に対する敬意を認めてくれたのか、大蜥蜴は鼻で笑った。


「お前は変な奴だな」


「あぁ、よく言われる」


「……いいぜ、そんなに俺とやりてぇんだったら、俺もマジでやってやるよ!」


「あぁ、絶対勝つ!」




《《《《《




俺は大蜥蜴の攻撃やら、元々の体力やらで疲れ果て、HPも少なくなってしまっており、地面に仰向けになっていたが、大蜥蜴はびくともしてはいなかった。

もう何もすることが出来ない。精々自分の吐息や心臓の激しい拍動を感じることだけだった。


「うっわ、マジかよ。お前強ぇな」


「……いや、お前はよくやった方だ。その装備とステータスポイントで、俺に30ダメージも与えられたのは本当にお前の実力だ。称えてもいいだろうな」


俺は思い立ち、力を絞って倒れていた上半身を起き上がらせ、大蜥蜴の方を向いた。


「俺の負けだ。なんでもいいから、お前の望みを聞かせてくれ。出来ることなら叶えてやるよ」


「はぁ? お前本当に変わってるのな。そもそも俺に望みなんて………」


すると、大蜥蜴は考え込み出した。

暫くした後、大蜥蜴は結論を出した。


「一回だけでいい、人間の街を見てみたい」


「………分かった。ちょっと待ってろよ? なんかないか探してみるから」


俺はメニューを開いて、一から無尽蔵に確認して行った。

だが、難しい話だと思う。敵モブが人間の街に入れば、そのモブはデスアウトするからだ。

まぁ、それでも探すがな。…………あ、

「あった!」


報告に驚いて目を見開いている大蜥蜴に、メニュー画面を覆して見せた。


「これならどうだ?」


それは、《ビーストテイマー》のジョブ説明画面だった。


《ビーストテイマー》


このジョブは他のジョブと違って、自分では戦わず、仲間にしたモンスターに敵を倒して貰う、特別なジョブだ。

モンスターを仲間にするには、仲良くなって、「双方の合意」をしたことを証明することで、仲間にすることが出来る。

動物好きな人は、モンスターとこの世界を旅してみるのも良いかもしれない。 (《W・M・O》メニュー画面参照)


「これなら敵モブも仲間に出来て、一緒に行動できるんだ! お前もこれなら入れるだろ?」


だが、大蜥蜴は心配そうな顔をして聞いた。


「いいのか? ジョブの追加には大層なポイントが要る筈だぞ」


「良いんだって、俺が約束したことだしさ」


俺は表示を躊躇いなくタップした。

これで俺は《ビーストテイマー》を取得したのか? 呆気ないものだな。

表示に書かれていたことによれば、モンスターテイムには握手などの「双方の合意」が必要らしい。

俺はまた力を振り絞って立上がり、大蜥蜴に握手を求めた。


「はぁ、まぁ、感謝する」


大蜥蜴は照れ臭かったのか、曖昧にそう言って小指を突き出した。

俺と大蜥蜴は、手と小指を合わせて握手を交わす。


なんか、変な握手になっちゃったな………。


すると、辺りからアナウンスが鳴り響く。


『プレイヤー「グレン」が、初のモンスターテイムに成功しました。おめでとうございます』


「へぇ、俺たちがはじめてだって!」


俺は大蜥蜴の方を見る。

だが、大蜥蜴はそこにいなくなってしまっていた。


「………へ? えっと、大蜥蜴さーん?」


俺は大蜥蜴を探すが、全然見当たらない。


一体……どこ行った?

もしかして、デスアウトしちまったのか?


「ここだよ、ここ」


足下から声が聞こえ、覗いてみると小さな赤い蜥蜴が俺を見上げていた。


「え、お前が、あれ?」


「うっせぇなぁ、そうだよ。俺があの大蜥蜴様だ。どうやらテイムされるとこのミニバージョンになれるらしいな。あと俺は伝説の精霊、サラマンダーのイグニトラスだ」


「え、あ、そうなんだ……」


俺は困惑したまま、取り敢えずイグニトラスを肩に乗せる。


「じゃあ、宜しくな! イグニ!」


「おう、それとだな、俺様の今まで貯めてきた宝物庫があるんだが、全部お前にやるよ」


「え、良いの?」


「良いさ、どうせもうここには用無しだしな」


俺はイグニに案内され、宝物庫に辿り着く。

すると、俺は驚愕した。


「……いや、はっきり言って想像以上だわ。これ」


それは、数えきれないほどのレアアイテムで満たされていた。


「全部やるぜ? 持てなくなるまでな」


俺は宝物庫の中に胸を高鳴らせながら足を踏み入れた。

もしかして俺、結構ゲーム運とか良かったりするのかなぁ。

そんなことを考えながら、俺は輝くレアアイテムの数々を見て回っていった。

『火精のグレン』をお読みいただき、ありがとうございます。


このゲームには、ジョブが幾つもあるのですが、「用意されている」だけで、「使える」かどうかはプレイヤー次第なのです。


《ビーストテイマー》を例にあげると、イグニは人の言葉を理解できる数少ないモンスターですが、他のモンスターはそうもいきません。まず、意志疎通が出来ないので。

ホラー映画で、幽霊と仲良くなってる主人公なんて見たことないでしょう? なので、「双方の合意」の条件を達成できず、《ビーストテイマー》を投げ出す人が多数です。更にはコミュニケーションを図れず、食いちぎられてデスアウト。動物嫌いになるというルートが確立されます。あぁ、怖い怖い。


しかし、ジョブはそれだけではありません。

プレイヤーが『ある条件』を達成することで、独自のジョブを………


あぁ、いけない。作者直々にネタバレをしてしまうところでした。

これは戦闘シーンの時の為のネタに取っておきましょう。


では、シーユーアゲイン!

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