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火精のグレン  作者: 仮宮 カリヤ
第二章 前日祭
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第五話 プレイヤー狩り

緑が生い茂る森の中、木の上を何か風のような何かが蠢く。

それは、まるで木の揺れのような微かな音で、何もなかったかのように痕跡すら残さない。

しかし、それは確かに生き物であった。


何故なら、そのエメラルドに光る眼光は、離すことなく、木の下で身を寄せ合うプレイヤーを捉えていたからだ。


「おい、奴ははどこだ? 見える奴はいるか?」


大柄な男が、他のプレイヤーに泣く泣く呼び掛ける。しかし、それに答えるものはいなかった。

その最中にも、何かはシルエットを誰にも見せないままプレイヤーに近づいていく。


「はっ、団長、見えたらこうやって身を寄せ合ってないでしょ?」


諦めたのか、へらへらとした口調で男に言った。


「ちょっと! 諦めちゃったの? あんた男でしょ、気合いいれなさいよ!」


今度は女が、その身体を震わせながら仲間を精一杯励ます。しかし、目の前の恐怖に怯え、あまり効果がない。


「だってよ……」


「しかし、じゃあ俺達は何も出来ないまま、デスアウトするしかないのか?」


「無知なものだな」


いつの間にか、プレイヤー達の上空を、何かが飛び上がっていた。

何かはプレイヤー達に気付かれる前に二つの銃口を向け、冷徹に引き金を引いた。


一気にその銃弾は、全てのプレイヤーの脳天を撃ち抜いた。


プレイヤーはほぼ同時に光の粒子と化し、経験値の石数個だけがその場に残った。

何かは音も立てず、空中からゆっくりと地面に降り立つ。


「元々、貴様らにそれ以外の道など用意されていない。『弱肉強食』とはよく言ったものだな」


何かは漸くその姿を露にした。

真っ白のローブから覗かれる端正な顔立ちとエメラルドの眼は、この少年の冷徹さとはギャップがある。

少年はフードを頭から降ろすと、真っ白の顔と木漏れ日に光る純白の白い髪を露にした。


この少年は、巷ではこう呼ばれる。


『七大罪の暴食』と。



《《《《《




「プレイヤー狩り?」


俺はカオルとテーブルを囲んで話をしていた。

今はマナもカリンも用があるようでゲーム内にはいない。

なので、まだ何も知らないカオルと二人で話をしていたら、このワードが話題となったわけだ。


「そうよぉ。最近ちょっと話題なの。狩り場に赴いたプレイヤー達を、姿の見えない何かがデスアウトしていくんですってぇ」


カオルは勢いよくワインを飲み込んだ。


「ふぅん。でもそれって、ただの超強いモンスターがやった、てことは無いのか?」


「いえ、それはないわぁ」


カオルは断言する。何か根拠があるようだ。


「何人かのプレイヤーが、人間の声が聞こえた、て証言してるの。それにその場にはもう、()()()()()()()()()()らしいのよぉ」


そう言ってまた、コップに注いだワインを飲み干した。

俺はこの話に確信を持った。


「なるほど。石を狙った犯行か?」


「えぇ。みんなそう推測してるわぁ」


空となった酒瓶を見て、残念そうに言った。

すると、俺は話が始まる前からテーブルに置いていたクエストの依頼書を右手で持ち上げて言った。


「………で、これはなんだ?」


「依・頼・書♡」


カオルは満面の笑みでそう言った。


「うぅん、じゃあこれはどういうことかな?」


俺はもう片方の手で「受理者」と書かれた部分を指差した。そこには俺のアカウント名である「グレン」という文字が記されていた。


「あら、知らないの? パーティの団員はクエストの受理者を団長に押し付けられるのよ。報酬は当然団長行きだけど。いいじゃないいいじゃない。プレイヤーからの依頼申請よぉ?たんまりと金が稼げるわぁ」


「ざけんな、さっきの話から察するに、この依頼書はさっきの男を倒せって依頼なんだろ? 俺まで倒されちゃったらどうすんだよ」


俺は呆れたように言った。


「大丈夫よぉ。団長ちゃん強いんでしょ? カリンちゃんがとても褒めてたわぁ」


「…………カリンが?」


俺はいつの間にかカオルを睨むように見ていた。

カオルの笑みは更に深くなり、そして立ち上がった。


「えぇそうよぉ? とっても褒めてたわぁ」


カオルはテーブルを避けてゆっくりと俺の方へ歩み寄る。

俺の後ろに回り込むと、耳元でこう囁いた。


「かっこいい♡だって」


そう言い残すと、カオルはまた自分の席に戻った。

俺は暫くカオルに嘘がないか探っていたが、俺にそういう才能が

ないのかさっぱり分からない。逆に笑みを返してくる始末だ。

俺は大きく溜め息をついた。


「仕方ない。行くか!」


俺は勢いよく立ちあがり、玄関へ向かう。


「その調子よぉ!」


カオルは後ろから声援を浴びせるが、俺は歩いていく途中で、その勢いを止めてカオルの方を向いて言った。


「あ、そうだカオル。パーティの資金が、いつの間にかワイン代になってたんだが、何か知ってるか?」


「…………」


カオルは黙り込んで甘える目を暫く俺に向け続けた。俺はそれをじっと見つめる。しかし、全く効果はない。

もう痺れを切らしたのか、カオルも立ち上がり、俺の隣に走り寄る。


「もう! 着いていくわよぉ!」




《《《《《




『テレポート』


俺とカオルは瞬時に狩り場の森に移動した。


「お、すげぇ! 瞬間移動ってやつか?」


俺は今まで一切感じたことのなかった感覚に興奮した。


「団長ちゃん、こういった戦力にならないようで、便利な呪文は少ないポイントで使えるから、振っといた方がいいわよぉ」


「あぁ、ありがとう!」


しかし、これからどうするか。

プレイヤー狩りを倒すとは言ったものの、そのプレイヤーがいつの時間帯で動いているのか分からない以上、少し時間がかかりそうだ。


「取り敢えず、経験値集めでもする?」


「………そうだな!」


俺はカオルの意見に賛成し、モンスターを狩ることにした。

俺は歩き始めると、カオルと少し距離を取った。


「イグニ、起きてるか?」


小声でイグニを呼ぶ。


「あぁ、起きてるよ」


俺のローブに身を隠していたイグニがひょこっと顔を出す。


「なぁ、なんでカオルの前では姿を見せないんだ?」


そう、イグニはカオルの前で姿を見せようと一切していないのだ。


「……………面識があんだよ。あの女と」


「はぁ?」


俺は何を言ってるんだと言わんばかりの声色でイグニに問う。


「………どういうことだよ?」


「今さっき言った通りだ。お前と初めて会ったとき、尻尾に傷があっただろ」


「あぁ、あれか」


俺がポーション投げて治した奴か。


「あの傷を作ったのが、あの女、カオルだ」


……………え、ええぇぇ!?

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