第4話 カオル
中に入ると、俺は凍りついた。
中では、死んだように床に伏す女性。床に広がっている液体。部屋中に染み込んでいる刺激臭。
これは紛れもなく――――
―――酒だ。
飲んだくれた女性も、床の液体も、この臭いも、全部酒だ。
しかし、何故酒に飲んだくれている女性がいるのだろう。ここって、俺達の家だよな?
少し疑念の意が出てきた。カリンが女性に近付き、揺さぶりながら彼女に話を聞く。
「あの、大丈夫ですか? あと、ここ私達の家なんですけど……」
彼女は目を覚ましたようで身体を起こした。
すると、彼女の姿が直接眼に入った。
白い髪に紫の眼、露出度の高い服から覗ける豊満な胸が、彼女の第一印象だ。
「ん……あなた誰?」
いやこっちの台詞だよ!!
そう思いつつ、俺は丁寧に自己紹介をした。
「俺はグレン。ここは俺達パーティのギルドハウスの筈ですが、あんたは誰ですか?」
すると、彼女は笑いを堪え、口元を押さえた。
「敬語が下手なのね。可愛い。私はカオルって名で通してるの。敬語は要らないわ。私、見てわかる通り酒好きなの。ちょっとここ誰も使ってなかったみたいだから、私の酒飲み場にしてたのよ」
反省の意が全く見えない。
「へっ! 可愛いだとよ。良かったじゃねぇか。可愛子ちゃんに言って貰えてよ!」
イグニがケラケラと笑いながら、俺をからかった。
「本物の家主を前にそんな態度が出来ることに吃驚だよ」
俺は皮肉を込めてそう言った。
「でも、この家は気に入っちゃったし、どうしよう。……そうだ。私を君らのパーティに入れてもらおうかしら」
カオルは能天気にも言った。
「………は?」
こいつ、何言ってるんだろう。現実では不法侵入すら問われてしまいそうなのに。パーティに入れてもらおうかなって、何言ってんだこいつ!?
頭を整理するごとに疑問が生じて少し頭が痛い。
「まぁ、私が認められないのは分かるわ。うんうん」
カオルは一人頷く。当然だ。
「じゃあ、勝負しよう」
突然そんな事を言い出した。
俺達は考えの分からないカオルに自然と視線を集めた。
「君らのうち誰かが私と勝負するの。勝負内容は殺し合い! 《コロッセオ》は面倒だから近くの狩り場でいいでしょ。で、私が勝ったらこのパーティに入る。あなたたちが勝てば………」
カオルはメニューを出し、ぱんぱんに詰まった大容量の金袋を出す。
カオルはそれを地面に置く。
「1億Gを差し出してこの場を去るわ!」
気持ちいいくらいの心意気でそう言った。
確かにこの人、よく見ると風格がある。結構な手練れかもしれない。
「私が行きます」
そこで立ち上がったのはカリンだった。
「グレンも、さっきのことで疲れているでしょうし、これは待ってもない資金稼ぎです。私が行きます」
「うん、じゃあお願いしようかな!」
「……はい! 絶対勝ちます!」
カリンは嬉しそうだった。
「じゃあ、決まったら行こうかしら」
《《《《《
緑一色の平原の上で、二人が睨み合い、もう二人はそれを見ていた。
カオルも、カリンも、剣を取り出してお互いに構える。
カオルの剣は、赤みを帯びていて少々気味が悪い。
「じゃあ始めます。レディ、ゴー!」
マナの合図をスタートに、二人とも剣を交える。
「あら、あなたの剣、あまり重くないのね」
カリンは下がって、カオルとの距離をつけると、得意の光魔法の飛ぶ斬撃を繰り出した。
「あら可愛らしい♡ でも、私こんなのより凄いの見たことあるわ」
カオルは斬撃を全てその剣で受けきると、その素早さで一気に間合いを詰める。
カリンが逃げられない所まで詰めると、剣先を向けた。
「”お返し”するわ」
瞬間、カオルの剣が光を発する。それと同時に、その眩しさに視界を保っていられなかった。
光が晴れたのを見届けると、そこから現れたのは、カオルと緑色に光る石だけだった。
「え、えっと、勝者カオル!」
「ふふ、勝っちゃったわ」
その勝負、タイムはたったの、5秒。