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火精のグレン  作者: 仮宮 カリヤ
第二章 前日祭
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第2話 グレン VS アレク

『では、そろそろ始めて頂きます。準備が良ければ、メニューからOKをタップして下さい』


グレンとアレクは特に何もせずタップした。

初めてのコロッセオ、一体どこまでやれるか―――。


『では、3、2、1、スタート!』


「死に去らせえぇ!!」


合図が告げられた途端、アレクは一目散にグレンの方へ駆け寄った。


「なんだこいつ! 何の準備もなく来やがった!」


グレンもそれに合わせて構えを取る。


「……! グレン! 掴み取れ!」


イグニの合図に反射的に体が動いたグレンは、風を切る音を頼りにそれを掴みとった。


「よっし! 取ったぞ! ………けど痛い!」


まるでグレンの手に刃物が食い込んでいるように……。


しかし、手には重量感はあるが、何も持ってなどいなかった。確かに感覚はあるのに。


「ほぅ、やるな!」


グレンが気を取られていると、アレクが近付き、腰の大剣を抜いた。

アレクは大剣をグレンの腰めがけて振るが、グレンもファイターさながらの指の握力で受け流しつつ交わした。

グレンは下がって距離を取りつつ、自分の手を確認する。

そこには、グレンの血で濡れたナイフがあった。


「………? なんだよこれ……」


「これは……スキルだな」


イグニは理解し、そう言った。


「スキル……?」


《神速》以外の知識が乏しいグレンは、イグニに尋ねるように言う。


「ソードマン限定のスキル、《透明(ステルス)》だ。刃物を透明化させられる。意外に燃費もよくて便利なスキルだ」


「………へぇ」


あれ、それって結構強くね?


そう話している内に、遠くにいるアレクは投げるモーションを取った。

きっとまた透明ナイフを投げているのだろう。

グレンも音だけを頼りにナイフを投げ、その全てを打ち落とした。


「二度目は喰らわん!」


次はこっちのターンだ。


スキル《神速》発動!


グレンは颯爽とコロシアムを駆け回る。


「おいおい、そっちに俺はいないよ?」


アレクは何処にいるかも分からない俺にそう言った。

しかし、その背後に……。


「何処を見てんだよ」


グレンが回り込んでいた。


手に火属性魔法を付与し、そのまま振りかぶって、反応しきれていないアレクの鳩尾を抉る。


「おぉらあぁ!!」


その威力は凄まじく、アレクを数メートル吹っ飛ばした。

そのままの格好でもがき苦しんでいる。


しかし、情けはかけない。


グレンはアレクに、手に火属性付与をしたまま駆け寄る。


「これで、止めだっ!」


グレンはアレクに殴りかかる―――――しかし、そこにアレクはいなかった。


「えっとイグニ、そのスキル、自分自身も透明化出来るの?」


何気なくイグニに訊くと、案の定嫌な答えが返ってきた。


「あぁ、どうやらそのようだな」


グレンは肩を落とす。


これはこれで面倒だぞ?


「………で、どうする? コロシアムは広い。時間も掛かりそうだが……」


「………ふっふっふ……」


グレンは不吉な笑みを浮かべる。


「なんだ? 策でもあるのか?」


イグニの質問に、グレンは満足気にしながら言った。


「あぁ! 俺の新技だ!」


俺はメニューから、ありったけのナイフを一気に出した。そのナイフは全てで360本で、グレンを囲むように角度を揃えて水平に並んだ。


「そして……こうだ!!」


グレンは一瞬溜め込むと、全て吐き出すように全力の火魔法を自分の周りに放った。

すると、360のナイフが点火でもされたように炎を灯し、衝撃波で真っ直ぐに飛んだ。


このナイフ……今実は火魔法を持っている。

俺のナイフだと、魔法を当てるとその魔力を帯びるらしい。

しかも、俺の物理攻撃という”条件”も達成出来ている。つまり……このナイフの攻撃は……


「約2.1倍って訳か」


「いやそれ俺が言いたかった台詞っ!!」


名付けて………


無限灼熱刃(むげんしゃくねつじん)】!!


炎を纏ったナイフは四方八方へ飛び去り、その数本が、肉体へヒットした。

みるみる内に、その肉体から透明が抜けていく。


「くっ、なんだよ、これは………!」


地面に伏すアレクにグレンが近付く。


「もう、MPも残ってなさそうだな。じゃあこれで、止め……」


グレンがそうナイフを構えた時だった。

首に何かが刺さる。咄嗟にその方を見た。

そこでは、マナが数人の男に連れて行かれていた。

きっと今の痛みは、これを見せつけるための奴等の攻撃だろう。

そしてこれは、人質を理由に、俺へ負けろという合図。


グレンは怒りを抑えながら視線をアレクに戻すと、彼もまた同じ光景を見たのか、絶望したような顔をしていた。


「………今のはどういうことだ?」


「………分からない」


その言葉は本当のようで、何も知らされていなかったようだ。


「あんたは何もしてないだろ。もうこの勝負は終わりでいい。棄権しろ!」


「無理だっ! 俺にはあのギルド以外場所がない! 負けたりなんかしたら……どうなるか……」


アレクはまだ状況に困惑しているのか、暫く地面を見て止まなかった。


こいつ、まだそんなことを………!!


これでは埒が明かない。こいつを倒してマナの所へ向かうか。

しかし……


「おいグレン。いや、相棒」


イグニが突然、俺に右肩から話してきた。


「俺がこいつを片付けるから、お前はマナをどうにかしろ」


「……! いいのかっ!?」


そう訊くと、イグニは得意気に言った。


「俺を誰だと思ってる。天下の大蜥蜴、イグニトラス様だぞ」


「………そうだな! ありがとう!」


俺はそう言ってイグニを地面へ下ろすと、すぐに出口へ向かった。


それを見ていたアレクは思う。


しめた! あいつは、勝負が終わってないのに出口を出たら状況に関係無く敗北するのを知らない! しかも、相手はこのチビ蜥蜴! この勝負、勝て……


そんなアレクの考えも束の間のことだった。

イグニはその小さな自身の身体をみるみる内に巨大化させ、いつの間にかアレクが米粒程に見える大きさとなっていた。


その爬虫類特有の眼は視界に入れた物を硬直させ、分厚い深紅の鱗は底知れぬ強靭さを現し、肉食動物の鋭利な牙は、相手を獲物と錯覚させる。


その姿は、まるでボス級モンスターそのもの。


アレクのみならず、会場全てが、その光景に釘付けとなってしまう。


ボス級モンスターが、一人の、しかも瀕死のプレイヤーと交戦……?


そんなもの、勝敗は誰の目にも分かりきっていた。


「すまん、俺も早く向かわないといかなくてな。簡単に終わらせて貰う……あばよ」


そう言って、イグニは思考停止していたアレクを踏み潰した。


『勝敗を決しました。このコロッセオ、グレン様の勝利です』


感情の籠らないアナウンスが、会場の静まり返った空気によく似合っていた。

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