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火精のグレン  作者: 仮宮 カリヤ
第二章 前日祭
12/18

第1話 ギルドハウス&コロッセオ

俺とイグニは、マナと一緒に中心街の噴水に集まっていた。


「よし! 全員集まったな!」


「と言っても二人しかいないけどね」


「俺様を忘れんな」


イグニはひょいと俺の右肩から顔を出した。


「今日は俺達のパーティ設立日だ!」


俺は腕を高くあげた。

今日俺達は、一つのパーティを作り上げるのだ。


「でも、名前はどうするの? まだ何も決まってないけど」


「うーん………」


俺は少し考え込む。しかし、上手い考えが出ることもなかった。


「まぁ後々考えようぜ。今日は取り敢えず………」


少し考えただけでも頬を緩ませてしまう。

緩む頬を硬直させながら、俺は言った。


「ギルドハウスを買おうぜ!」


そう言って俺達はゆっくりと歩き出した。


ギルドハウス----ギルドとはパーティの別称で、その集会所のような場所。それがギルドハウス。


「でも、少々値が張るわね……」


マナはメニュー画面でギルドハウスについて調べると、困ったように呟いた。


「大丈夫だろ。金は俺が有り余る程持ってるしな」


いつの間にか目の前に目的地が近づいており、俺達はその建造物のドアを開いた。

その中では、沢山のプレイヤーで賑わっていた。


「なんか今日、人多くね?」


俺は辺りを見回してただそう言う。


「そりゃそうよ。一週間後はW・M・O初のイベント。沢山のプレイヤーが意気込んでる筈だわ」


ここはアガルタと呼ばれる、公共の施設である。

W・M・O内のニュースを逸早く取り上げたり、プレイヤーのランク付けが行われる《レベルタワー》や、プレイヤー同士のバトルが楽しめる、《コロッセオ》もここから移動することになる。

そしてギルドハウスの購入もここで受け付けられている。


少し進むと、壁に掛けられた幾つものニュースを取り上げた掲示板に目が行った。

中でもその一位は、《謎の赤ウィッチ、一分も経たずプレイヤー百人斬り!!》という物だった。


「……凄い奴も沢山いるものだなぁ」


これは俺も、頑張って行かないとな!


俺は決意して受付へまた歩いて行った。

しかし、マナは掲示板を見て思う。


「これ、グレンのことじゃないの………?」


しかし、確かめる手段もないので、もどかしく思いながらも俺の傍へ駆け寄った。


俺は受付に言った。


「一番高いギルドハウス下さい!」


すると、その受付は何処からか取り出した紙を渡した。


「その物件は如何でしょうか。ここからも近く、W・M・Oを遊んで貰う中で非常に便利な物件と思います」


「へぇ、で、いくら?」


俺はマナに訊かれて、紙に書かれた数字を見て手を振るわせた。


「五、五千万G………」


「はあぁぁ!?」


マナは巨額の値段に驚愕する。

どうしよう。俺の予算四千万Gしかないんだけど……。


「もうちょっと考えて行動するべきだったなぁ。グレン」


イグニの遅い助言に俺は更に肩を落とした。

そこに、重そうな甲冑に金髪のキャラメイクをした男が、俺たちの近くへやって来た。


「君らさ、そのギルドハウス欲しいの?」


辺りを見渡すと、俺達の会話は盗み聞きされていたようだ。

沢山のプレイヤーのニヤニヤと笑う視線が俺達に突き刺さる。


「じゃあさ、勝負しようよ。俺が負けたら、そのギルドハウス買ってあげる」


「……! 本当ですか!?」


俺達は驚きつつも歓喜した。

何か裏がありそうだが、それよりも助け船だ。

拾っておかない理由はないだろう。


「うん、勝負内容はPVP。俺と君達のどっちかが俺と勝負。どう?」


俺達はアイコンタクトを取ると、決心して答えた。


「分かりました! 俺がやります!」


「そうかそうか! じゃあさ、俺達が勝ったら……」


男は、それまでの爽やかな笑顔を止め、気味の悪い笑みを見せた。


「君達の所持金、全部貰おうかな」


「…!……」


そう言うことか。こいつは俺達が弱いと見込んでこの勝負を挑んで来てるんだ。まぁ、負ける気はしないが。


「…分かりました。賭けましょう。その代わり、勝負は勝負です。約束は守って貰います」


「あぁ良いだろう! そうと決まればこれだ!」


男は一枚の契約書のようなものを取り出した。

そこには、《PVPにおける契約書》と書いてあった。


これはあるPVPで賭けたプレイヤーが、勝利したのに約束の品を貰えなかったと運営に報告して出来た運営の配慮だ。


これでお互いに約束は破れないだろう。


俺と男はお互いに名前と賭ける物を記し、受付に提出した。


「大丈夫なの? 負けたらあんたの努力が………」


俺はそれ以上言おうとしたマナに待ったをかけた。

俺は楽しそうに言った。


「勝てば良いんだ! 簡単だろ!」


するとマナの顔には心配はなくなり、逆に呆れが現れた。


「ほんっと楽観的なんだから……行ってらっしゃい。観客席で応援してるわ」


「あぁっ!」


俺はマナに手を振ると、男と共にコロッセオへのワープホールヘ入った。


「本当は、コロッセオは時間をかけないと行けない場所なんだけど、ワープホールを使うことで、三十秒程度で向かえるんだ」


男はそう説明した。俺の口からは「へぇ」という簡単な言葉しか出てこない。


「君、本当に勝てると思ってるの?」


俺は黙って男を見ていた。


「僕のパーティはね、今までダンジョンのボスだって倒したことのある凄腕ばかりなんだ。僕もその一人さ」


男はそれを自慢気に言うが、俺にはそれが自惚れにしか見えなかった。


「……なーんだ、俺の友達の方が強いな!」


俺は男の自惚れを嘲笑うように言った。


「……んなっ!」


俺は先にワープホールを出た。これ以上あいつと話してたくない。虫酸が走る。


「ま、待てっ! それはどういう………」


男も俺を追い掛けるように、ワープホールを抜けた。



《《《《《



コロッセオの選手待機室では、グレンとイグニが話し合っていた。

しかし、それにこれからの緊張というものは、一切なかった。


「なぁイグニ! ギルドハウス貰ったらどうする?」


「……そうだな。新たな人間を見てみてぇな。そう言えばまだお前、カリンとかマナとか、女しか見せてこねぇじゃねぇか! もっと人脈見せろや!」


グレンもその言葉は聞捨てならないようで、精一杯の反論を返した。


「いや、俺友達いるからね? ただ、このゲームやってるか受験前になんて聞き出せなかった訳で………」


しかし、グレンには上手く反論するほどの能力はなかった。


「やっぱりいないんじゃねぇか!!」


「だからいるし!!」


『グレン様、コロッセオ会場へ入場してください』


突然、アナウンスが鳴り響いた。

グレンはそれを合図に立ち上がった。


「じゃあ、行くか!」


コロッセオ会場へ入る前に、グレンは入り口で会場を見渡した。

そこは現実そのもののコロッセオを再現しており、観客席のローマ感も中々の物だ。流石ゲームと言ったところか。


そして再度アナウンスが鳴り響いた。


『アレク様。ご入場ください』


男は入り口の影から姿を現し、会場へゆっくりと歩いていく。

突然、コロッセオ中が黄色い歓声で満たされた。


「キャー! アレク様こっち向いてー!」「今度の相手もぼこぼこにしろよ!」


離れてみていたグレンはイグニに言った。


「あいつ、そんな人気あるの?」


「さぁな。少なくともあるとは思うぜ。じゃなきゃここまで会場は沸かない」


「……まぁどっちにしろ、勝つしかないよな!」


そう言ってグレンは、気合いを入れるように胸の前で左の手の平に右手を撃ち込んだ。


『グレン様。ご入場ください』


「よし! 行くぞ!」


グレンは、コロッセオの中へ姿を現した。

しかし、アレクのような歓声は沸いてこない。仕方ないかぁ。


「あ、あいつは………!」


突然観客席からグレンへ指を指す男がいた。

その男は、昨日のパーティのリーダーだった男だった。


「ニュースの百人斬りだっ!」


「何っ!? それは本当か!?」

「あのトップの記事に載ってた?」

「えっ、マジで!? どうなんのこの勝負!!」

「えー? じゃあ、アレク様はどうなるのー?」


「さぁ? でも、負けるかも?」


すると突然、会場はグレンへの歓声で沸いた。


「グーレーン!! グーレーン!! グーレーン!!」


「あいつは許せない奴だったが、まぁこの件で片付けてやるか……ん? どうしたグレン?」


「ん? いやちょっと………」


グレンはキョトンとして言った。


「俺って、《百人斬り》だったの?」


「………分かってなかったのか? 俺はてっきり、敢えて隠してるもんだと思ってたが……」


「ぜーんぜん!」


イグニは一人、いや一匹、蜥蜴の小さな頭を抱えた。

そんな中、アレクの顔は雲行きが怪しくなっていく。


「俺よりも目立ちやがって……殺してやる……ゲームの中だけでなく、精神的に!! 苦痛を味わせてやる………はは、ははははっ!」


その笑みは、不吉に。

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