第0.5話 カリンの日常
50万、いや、百万は越える大観衆の囲む先には、数十人のアイドルグループ《EVOL》が華麗に踊っている。
中でもセンターを飾る夏本 凛花は、センターに相応しいずば抜けて綺麗なダンスとその美顔で、会場を熱気で満たしていた。
最後のダンスを全員で決めると、凛花は一人、前に出て言った。
「みなさん! 今日は来てくれてありがとうございました! 今日は来てくれてありがとう! 次もライブやるから、また来て下さい!」
観衆は返事をするように沸き立った。
皆このアイドル、というか夏本 凛花に夢中なようだ。
その言葉を最後に、アイドル達はステージを降りていった。
《《《《《
舞台裏では、アイドル達が口々に凛花のことを口にした。
「いやー、やっぱ凛花さまさまですよねぇ、凛花さんいなかったら、このアイドルグループ成り立ちませんよ」
「あ、カナ、さらっと私たち馬鹿にしたでしょ?」
先輩アイドルが少し怒った口調で言った。
「でも、事実でしょ。テレビ番組には芸能人顔負け位に出演するし、まだ中3ながらも年収は驚異の1000万!」
「うわー、それは成人したとき困らなさそうですねぇ」
皆は次々と凛花を褒め称える。しかし、凛花はそのムードに着いていけず、少し弁解した。
「いえ、まだテレビもそこまで出れてませんよ? それにお金だって祖父母の家へ半分は渡してるんですから」
…………え、は?
「え、ちょっと待って。あんた、年収1000万は否定しないの? ていうかそれ、親は金出してんの?」
凛花はキョトンとして、当然のように言った。
「まぁ、否定はしませんよ? あと、お金は私だけで出してます。親は、『五十万もあれば生きていけるだろ』て言ってます」
それを聞いていたアイドルグループ全員は思った。
それを当然のように言う凛花ちゃんマジ天使!!
「でもなんか、最近の凛花は生き生きしてるね? 前までやめたいとかずっと言ってたのにさぁ」
先輩アイドルが凛花の肩に腕を乗せた。
「あ! もしかして凛花ちゃん、好きな男でも出来た?」
そのアイドルはお巫山戯で言ってみるが、凛花はみるみるうちに顔を赤くしてしまった。
皆は察し、そしてこれからの自分達の為に凛花のもとへ全員で集まり、年を押していった。
「あんた、恋愛するならばれないようにしときなよ? あんたがいなかったら、うちら成立しないんだから」
え、そこまで言っちゃう?
「そうそう! 別に恋愛するなとは言わないけどさ。ばれたら大変だよ? 気を付けといて」
皆は次々に凛花へアドバイスしていくが、当の凛花はどんどん顔を赤くしていった。
到頭凛花は立ち上がり、皆へ言い放つ。
「もう! 皆さんなんで私に好きな人がいる前提なんですか!? 私が助けられた人を好きになっても良いじゃないですか!!」
うん、全部漏れてんだよなぁ。
「まぁ、あんたも頑張りなよ」
そう言って《EVOL》全員で凛花の肩を軽く叩いていった。
「なんでアイドルの卒業式みたいになってるんですか!?」
《《《《《
私、凛花が舞台裏でのこともあり、疲れ果てて車を出ると、超高級マンションを見上げた。
詰まるところ、ここが私の家だ。
私の父がこのマンションを五千万で買い、入居者すらも収入源にする、という父のビジネスらしい。
指紋認証で私は自動ドアを開かせる。
エレベーターで20階に上がり、自分の家のチャイムを鳴らした。
少ししてドアから現れたのは、専業主婦の母の顔だった。
「あらおかえり。お風呂沸かしてるわよ?」
「ありがとうお母さん。丁度入りたかったの」
私は靴を脱いで家に上がり、服を脱いで几帳面に畳むと、風呂場に入った。
この20階は私の家族が占拠している。
しかし、部屋には必要な分面積を使ったので、残りを全て風呂場にしたらしい。
おかげで毎日温泉気分だ。
私は体を洗い流すと、余りにも広いお風呂の湯に体を浸けた。
「うぅ、気持ちいい……」
私がお風呂の気持ちよさに酔いしれていると、ふとグレンのことを思い出した。
「グレン、二日位会ってないけど、大丈夫かな……」
いつも何も考えなくて良いときは、グレンのことを思い出す。
心配しているようにも見えるが、実際大丈夫ではないのは自分の方だった。
「会いたいなぁ……」
そう言って私は口を風呂に浸けると、中で水泡を立てた。
風呂から上がって、私服に着替えてリビングに出てきた私に、お母さんが言った。
「あなた、明日オフらしいわよ。珍しいわね。今日ももう休みでしょ?」
「……! そうだね。じゃあ好きにしようかな」
「えぇ。中々父さんも時間作れなくてごめんね。折角の休みなのに……」
私は切ない目で皿洗いを続けるお母さんに言った。
「……お母さんが謝ることじゃないよ」
そう言って私は自室に戻った。
「やったー! ゲームが出来るー!」
久しぶり(二日ぶり)にグレンに会えるー!
私は内心心臓を高鳴らせながら、ハードをつけてベッドに横になる。
心の準備をしっかりして、私はスイッチをオンにした。
レッツスタート!