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火精のグレン  作者: 仮宮 カリヤ
一章 始まりのグレン
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第9話 どれだけ

その時のマナの顔は、清々しく綺麗だった。


一度もマナが笑った所を見たことがなかったが、その笑顔はいつもの素っ気ない表情の幾分か可愛らしかった。

しかし、俺が言うと一瞬で消え失せてしまい、元の無愛想な顔に戻った。

マナはまた、人を寄せ付けない態度で俺に当たった。


「何言ってるのか分からないけど、それ回収したら場所を変えるわ。もうここにレアモンスターは湧かないもの」


俺は地面にしゃがみ込んでレアモンスターの鼠をメニューに入れると、マナに訊いた。


「……? どう言うことだ?」


「はぁ、あんた何も知らないのね」


マナは一つ深い溜め息をついた。

呆れたように言いながら、俺を煽る。


「そんなんだから私を100万なんかで買っちゃうのよ」


「……自分に「なんか」なんて言ってたら、自分がどれくらいか分からなくなるぞ?」


俺は座ったまま、真剣な眼差しを向けて言った。マナの生き方をどうこう言う権利は、俺には無いのかもしれないが、これだけは心に刻んで欲しかったのだ。


「自分の価値をお前が決めるなよ」


マナは不満気に、腕を組んで口を膨らませた。


「そんなの、分かってるわよ……」


するとマナは身を翻し、歩き出した。

俺もその後を付いていく。

俺がマナに追い付き隣に並ぶと、マナは語った。


「レアモンスターにはそれぞれ出現するエリアが決まってるんだけど、そのエリアにつき出現するレアモンスターは決まって5体。しかも一つのエリアの面積が広いから、一体出たらエリアは変えた方がいいわ」


マナの性格が柔らかくなった気がして、俺は少し嬉しくなる。


「へぇ。マナは色々知ってるな!」


「別に、ちょっと攻略を見ただけよ」


「それと一つ………」


俺はマナの後頭部を狙っていた矢を素手で掴み取った。

後ろを見ると、さっきのマナのパーティが全員揃ってフル装備で来ていた。


「追っ手が来たみたい……」


「追い付いたぞマナ! それとそこの「赤ウィッチ」!」


「……「赤ウィッチ」?」


俺が意味の分からないワードに困惑していると、隣のマナが小声で言った。


「火属性の「ウィッチ」ってことよ」


「あー、なるほど」


俺の本職「ファイター」なのに……。


「お前が奪った俺らの経験値、返してもらうぞ!」


そのパーティの中では、何やら隊列が動いている。

そんなことも決めているのか……。


そして出来た隊列は「アーチャー」、「ソードマン」と「ファイター」、「ウィッチ」という、先頭の「アーチャー」で敵を威嚇しつつ、近接系のジョブで攻撃を仕掛けるという至ってシンプルな陣形だった。


「アーチャー総員、かかれー!」


リーダーらしき男の合図により、多くの矢が俺達へ射られた。


「よし、マナは下がってろ。俺だけで充分だ!」


「えっ! でも流石にこれは………」


マナは今回ばかりは心配しているようだった。


「大丈夫だって。出来るか出来ないか位、俺が決める!」


俺は迫り来る矢を見た。


うーん、一本一本の威力はそこまでだけど、数が数だなぁ。


「よーし、初級以外は初めてだけど、やるしかねぇよな!」


中級【バンフレア】!


俺は左手から魔法で炎を出す。その炎は【ボムレア】の小規模の物とは違い、広範囲へ広がった。

その炎は迫り来る矢の全てを焼き付くした。


「な、なんだあいつ!」


「アーチャー十人総出の矢を全て止めやがった!」


そのパーティは口々にそんな言葉をあげた。

俺は本陣へ走り出す。


「だ、誰かあいつを止めろぉ!」


リーダーらしき男が、震えた声でそう言った。


スキル【神速】発動!


しかし、その願い叶わず、アーチャー十人は俺によって全員デスアウトされてしまった。

更に、次々と凪ぎ払われ、デスアウトしていくパーティの兵士たち。

到頭周りには、俺とリーダーの男、それと離れてみていたマナだけとなっていた。


「ひ、ひいぃぃぃ! 許してください! 何でもしますから!」


男は俺の足に縋りよってきた。しかし俺は男に触れられないように足を下げ、マナの方を見た。


「マナ、もう来て良いぞー!」


マナは辺りを見回しながらゆっくりと近寄る。


「本当に全員やっちゃったのね………」


訝しげな目で俺を見た。


「いや、やり残しとかないから」


すると、男はマナを睨む。

そして言った。


「おまえの所為で……おまえの所為でこんなことになったんだ! 誰のおかげで今までこのパーティに居られたと思ってる!! どうやって落とし前つけてくれるんだあぁ!?」


男はマナを酷い形相で睨みながら、ゆっくりと立ち上がる。

その威圧感は凄まじいものだったが、俺は構わず膝カックンを食らわした。


「ほい」


すると、男は悶え苦しんだ。


「骨が折れたみたいに痛いいぃ!」


「……なんか可愛そうになってくるな」


イグニはそう言い溢した。


もはや可愛そうにも思えてくるが、一切気に留めず男の襟首を掴み、男の頭を少し上げた。

その時の俺は怒り心頭に発し、顔にまで怒りが滲み出ていた。

今度は俺が、男の目に睨みを聞かせて言う。



「俺は何も関係ないけど、これだけは言わせてもらう! お前はこいつの気持ちを理解したのか!? 悲しみを理解できたのか!? 自分のことばっかで人を考えねぇ奴が、落とし前だの語ってんじゃねぇ! 自分のこと棚に上げて……被害者面してんじゃ……ねぇ!!」


そう言って俺は男に頭突きを食らわす。

すると、男はデスアウトしてしまい、経験値となって消えてしまった。


「あっ! やべっ! 殺っちまった! マナ、ごめん!」


俺は必死に謝ろうとマナの方へ振り向くが、マナは笑いを噴き出した。


「アッハハハ! 可笑しい、私の為にあそこまでやって、言ってくれて、ちょっと感謝してるわ」


「……? お、おう」


突然の素直さに少し照れながらも、マナが言うと違和感を感じた。


「さぁーて、まだ一日は終わってないでしょ?」


マナは俺に近づくと、地面に座り込んでいた俺に手を伸ばした。


「まだ100万の額には釣り合いもしないんだから、意地でも付き合って貰うわよ!」


「……あぁ! そうだよな!」


俺はマナの手を掴み、立ち上がる。

そうして俺達はまた、次のエリアへと歩き出した。




《《《《《




夕日が沈み、辺りはもう暗くなってきた頃、俺達はエルシスタのベンチで話していた。


「今日は楽しかったわ。ありがとう」


「なぁ! またやろうぜ! 俺の友達も連れてくるから!」


「良いけど、その友達も同じく化け物なのでしょうね」


そう言いながら、俺とマナはフレンドになった。


「これからも宜しくな!」


「えぇ、こちらこそよ」


すると突然、空に花火が打ち上げられた。


「……? なんだあれ」


その花火は破裂すると、「祝! W・M・O Festival開催!」と描かれた。


「あれは一週間後、パーティ対抗でイベントがあるの。ランキング付けもされるのよ」


「へぇ、やってみたいな!」


俺は即座にそう言うが、マナが見透かして言う。


「入るのは良いけど、何処かのパーティにでも入ってるの?」


俺は少し考えて、すぐに面白い方法を思い付いた。


「……そうだ! 俺たちでパーティ作ろう! そしてイベントに参加しようぜ!」


「良いけど、私も? 役に立てるか分からないわよ?」


そうやってまた弱気になっているマナに、ベンチから立ち上がって言った。


「別に俺は、イベントで良い結果を残したい訳じゃない。ただ単に、友達と遊びたいんだ!」


「ふぅん、そう。そう言うことなら」


そう言ってマナも立ち上がった。


「私も入らせて貰うわ」


「! あぁ!」


こうして、俺達のパーティが出来上がった。

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