プロローグ
これから宜しくお願いします!!
《With・Monster・Online》。
西暦2030年に発売されたそのゲームは、もはや世界中で轟いていた。
そのゲームを体験した者は口々にこう口にした。
『現実的』
風は肌を掠り、モンスターの迫力に圧倒され、本物のような景色に心を奮わせる。
そのゲームは、全てが現実的であり、世界も、その「世界」に人気を博した。
そして、ここにも――――――
「――――はぁー、受かってやったぜ高校受験!!」
俺、赤滝 蓮はベッドの上で子供のように何度も何度も跳ね上がった。
第一志望校の高校、《紫練学園》に受験し、そして合格通知が届いた。歓喜を言葉で言い表せず、こうして身体を奮わせて表現している。
三年の苦労が全て吹き飛んだ気分だ。
今になって、三年間の回想録が脳内を透け通っていく。
嫌な記憶が頭を過った。陸に上がった魚のように跳ねていた体が自然と治まっていく。
……もう二度と会いたくはない。
ピンポーン♪
学生で二回しか味わえない喜びをしみじみと感じている最中、玄関からチャイム音が聞こえる。
まぁどうせ母さんのエクササイズマシーンとかだろう。関係ない関係ない。
そう思っていたが、部屋の外から母さんの声が聞こえた。
「蓮ー! 叔父さんからあんたへの高校祝いよー!」
俺は驚きつつ、急いで下の階へ降りる。
「えっ!? 早くない? 今日合格発表があったのに……」
「叔父さんはなんでも早いからねぇ、さぁ、ちゃっちゃと開けちゃいなさい!」
確かに。あの人は色々速い。
俺はその段ボール箱を見る。大きいと言う訳ではないが、少し厚めの段ボールが使われているようだ。
俺は恐る恐る、慎重に箱を開けていく。
そして現れたのは、頭に嵌めるヘルメットようなハードと、「With・Monster・Online」と書かれたゲームカセットだった。
「いいもの貰ったわねあんた、それCMとかに出てる、結構高いゲームじゃない?」
「マジか……」
俺は内心、飛びあがりそうなほど喜んでいた。CMやブログで情報を見ていただけで、これがどれだけ素晴らしいものかよく分かる。世界初の「現実型RPG」《With・Monster・Online》。ハードを頭につけることで、脳からゲーム内にアクセスすることでゲームをしながら睡眠を取れ、ゲーマーにありがちな「寝不足」を解消出来るように設計してある。ゲームに割く時間も睡眠時間で確保することが出来る。全く、良くできたものだ。
ずっと俺が欲しがっていたものを当てるなんて、叔父さんは神かなんかかよ。
高校の準備をしなければならないこの時期に送るものではないと思うが。ま、叔父さんのご厚意にお預かるとしますか。
俺はその二つを持って急いで自室へ走る。
「ちょっと! ゲームするのは良いけど、ちゃんと夕飯には来なさいよ!」
「分かってるって!」
適当な返事を返してドアを開いた。
部屋には、とある格闘家のポスターが何枚も貼られていた。――――あまりこの人の顔は、見たくない。
親が勝手に貼った叔父のポスター。世界的な格闘家なのだが、どうにも俺はこの人に馴染めない。というか、マイペース過ぎるんだよなぁ。
剥がそうにも、親がベッタリとつけているようで壁紙すら剥がしてしまいそうだ。そういう意図でしているんだろうけど。
机の上で開いていたパソコンにメッセージが届く。開いてみると、それは叔父からのメッセージだった。
『合格おめでとう! 蓮!』
「……何がなんでも早すぎでしょ。叔父さん」
サングラスを掛けてパソコン越しに祝いの言葉をかける叔父に俺は驚きを通り越して溜め息しか出てこない。
『いやー学校から先に合格したと連絡があったからすぐにプレゼントを用意したんだぞ?』
いや、学校ぐるみかよ。
「わざわざそんなことしなくてもいいのに」
俺はまた軽くため息をついた。
『でも本当におめでとう。高校に行く前にお前を折るつもりだったが仕方ない。道に迷ったらすぐ来いよー? お前ならすぐに誰よりも強くなれる』
叔父はガッツポーズをして見せた。
「俺は何度言っても折れない。ていうかそろそろ李人に教えてやれば? やる気は満々じゃん、あいつ」
李人というのは俺の従弟、つまり叔父さんの息子なのだが、何故だか俺を弟子にしたがる。李人が可哀想だ。
『………蓮よ。やる気だけじゃどうにもならないものもあるんだよ』
寂しそうな、それでいて鋭い眼をしてそう言った。あぁ、ヤバい。この顔の叔父さんは何をするか分からない。これ以上はやめておいた方が良さそうだ。
「じゃあ、今からゲームするから。プレゼントありがとう」
『あぁ! ゲーム内でまたあ―――』
プチュン
―――なんか今叔父さんがゲームに参戦してきそうな台詞吐いたんだけど。やめてくれ。叔父さんが参加したらゲーム崩壊待ったなしだ。
俺は心配になりながらも、プラグに付属のコードを差して、ベッドに横になり、ハードを付ける。
「よし、じゃあ行くぞー」
興奮と緊張で胸が詰まりそうになりながらも、右頭部にあったスイッチをカチッと押した。
レッツスタート!!