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竜狩りの姫と笑う魔術師  作者: 三條しずか
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魔龍纏の丸薬

アイリスが所持していた魔龍の角を質屋で換金し、十分な資金を手に入れた二人はアノールで人気のアノールのメイン通りにある小さな食堂に来ていた。


「アノールで魚料理を出す店の中でこの店が1番のオススメですよ。種類こそ少ないものの味は絶品ですから!」


「前から聞きたかったんだけど、あんたなんでそんなに色々詳しいわけ?地理的なことならまだしも、その街の店のこととかさ。」


「ワタクシは長年旅をしてきた身です。そうしていると色々な情報が自然と耳に入るものなのですよ。」


「はぁ……そんなもんなの?」


「お待たせしました!」


二人のテーブルに給仕係の女性がやってきた。その両手に持った皿をアイリスとジェルミーの前に並べていく。


皿の上にはこんがりと焼けた白身魚が盛られ、立ち上る湯気と香りがアイリスの食欲を刺激した。


「うわぁ!ねぇ食べていいの?」


「もちろん!遠慮なんてしないでください。足りなければ新しく頼みましょう。煮込み料理も絶品ですよ!」


ナイフとフォークを使って脂の滴る魚の身をアイリスは口いっぱいに頬張った。香辛料が効いた肉厚な身は噛みしめるごとに旨味が口の中いっぱいに溢れ出てくる。


今まで味わったことのない美味な料理にアイリスは思わず口元がにやけそうになってしまった。


「美味しいでしょう?美味しい料理とは身も心も幸せにしてくれるのです。思わずにやけちゃうでしょ?」


「に、にやけてないわよ!」


「フフ、そうですか。ではアイリス、料理を食べるついでに聞きたいのですが今後の旅の方針はどうするおつもりですか?次の目的地だったり移動手段だったりのことは?」


「そうね、目的地は特に決めてないわ。魔龍の被害に遭ってる人たちを助けながらロベリアの情報を集めたいと思ってる。ねぇ、奴らがどれくらいの規模とかどこに基地があるかとかは知らないの?」


「流石にそこまでは、ロベリアについて分かっているのは、四原龍の討伐のために魔龍を製造していること。魔龍は人を喰らうことでその魔力を高めることが出来ること、くらいですね。まるで影のように正体が掴めないのです。」


「まぁ、そこは地道に行くしかないのかしら。それと各地にいる龍聖の人達にも会いに行こうと思ってる。龍聖なら何か有力な情報を持ってると思うし。」


「成る程、では移動手段として馬が欲しいですね。流石に徒歩でこのソルドレッド大陸を旅するのは現実的ではないですから。あぁそれと!」


ジェルミーは何か思い出したのか、パンと音を立てて両手を合わせた。ちょうど料理を食べ終えたアイリスはまだオススメの料理があるのかと思ったが、その予想は外れたようだ。


「ねぇアイリス、仲間を集めませんか?」


「仲間?突然何よ?」


「この大陸には竜狩り以外にも魔龍に対抗できる力を持った人達がいるんです!そんな方達を誘って仲間にすれば、より目的達成の近道になると思うのですよ!」


「そんなこと言われても……仲間なんて。」


仲間、今までのアイリスなら考えることがなかったことだ。実際彼女はフィアンナの元で生まれ持った膨大な魔力を自身の身体能力に還元する技術を習得したことで並みの竜狩り以上の力を持っているため、大抵の敵は一人で対処できてしまう。


だがジェルミーの言っていることも理解出来た。ロベリアという魔術組織は全くもってその規模が分からない。そんな組織を相手にするならば必ず一人では対処できない場面が出てくる筈だ。


「そう…ね。考えてみるわ。」


「素晴らしいことじゃないですか!竜狩りとその仲間達!一体どれだけ素敵な笑顔が観れるのでしょうね!」


「あんたにはちゃんと付き合ってもらうわよ?どんな風に仲間を誘うとかアタシ分かんないんだから。」


「お任せを!このジェルミー、笑う魔術師の名にかけて……おや?」


ジェルミーが突然テーブルの横を見た。つられてアイリスもそちらに目を向けるとそこには給仕係の若い女性が立って興味深そうな眼差しを二人に向けていた。


「あの、ちょっといいですか?」


「どうしたのですかお嬢さん?ワタクシで良ければ何なりとお答えしますよ?」


「えっとお兄さんじゃなくて。あの、あなたって竜狩りなの?」


給仕係の少女はアイリスにそう問いかけた。自分に質問が来るとは思っていなかったアイリスは少し驚きながらその質問に答えた。


「アタシ?えぇ、そうよ。ほら、ちゃんと紋章も持ってるわ。」


「すごい!私と同い年くらいなのに本当に竜狩りなんだね!私ミナっていうの。あなたは?」


「アイリスよ。よろしくねミナ。」


「ワタクシは『笑う魔術師』ジェルミー。以後お見知りおきを!」


「へぇ、竜狩りと魔術師のパーティーなんだね!私ね小さい頃、故郷が魔龍に襲われたの。もうダメかと思ったら銀色の鎧に黒いマントをつけた竜狩りさんが駆けつけてきてあっという間に退治してくれたんだ!」


「銀色の鎧に黒いマント……ねぇ、その人のマントにこんな紋章が描いてなかった?」


アイリスはミナに自身のマントに描かれた紋章を見せた。するとミナはその紋章を指差しながら驚いた。


「そうそれ!首切り龍の紋章!どうしてあなたが?」


「多分その人アタシの師匠だよ。銀色の鎧に黒いマントは師匠が狩りに行くときの正装だから。」


「そうなんだ!すごいすごい、これって運命だよ!私ね、ずっとお礼が言いたかったんだ。あの竜狩りさんが来てくれてなかったら私達みんな死んじゃってたんだもん。本当にありがとう!」


「いや、救ったのは師匠なんだからアタシにお礼を言われても……」


「ハハハ!いいではないですかアイリス。ミナ殿がこんなにも素敵な笑顔を浮かべておられるですから。」


三人の間に和やかな空気が流れる。自分のことではないにしろ、初めて人から感謝された。


しかも自分と同年代の少女に。ミナの屈託のない笑顔を見てアイリスは全身がむず痒くなる。だが彼女の心は心地よい気分に包まれていた。


店の扉が開き、取り付けられた鈴が可愛らしい音を立てる。新しい客が来たようだ。


「あ、いらっしゃいませ!私行かなきゃ。話し込んじゃってごめんねアイリス、ジェルミーさん。ゆっくりしていって。」


「うん、あいがとうミナ。」


「お仕事頑張ってくださいねミナ殿。」


ミナはパタパタと小走りでアイリス達のテーブルから離れた。その様子を眺めていたアイリスはジェルミーが自分をニヤニヤしながら見つめていることに気づく。


「何よ、気持ち悪いわね。」


「アイリス、あなた同年代の子と話す経験があまりないのでしょう?とても幸せそうな顔をしてましたよ?」


「いちいちそんなこと言わなくていいから!あと別にそんな顔してないし!」


「照れなくてもいいじゃないですか!ほらほらもっと見せてくださいよ!」


「ちょ!本当に調子に乗るな……」


「キャァ!!」


店の中に甲高い悲鳴が響いた。アイリスとジェルミーの二人だけでなく店の中にいた客の目が悲鳴がした入口の方に集まる。


そこには1人の男が立ち、その足元には男に叩かれたのだろう。右頬を赤く腫らしたミナが倒れている。


「ミナ!」


アイリスは反射的にミナの元へ走り、彼女を庇うように男の前に立ちはだかった。


「ちょっとあんた!なんのつもりよ!ミナが何したって……あれ、あんたは……」


「見つけたぜ偽竜狩りのガキが!昼間はよくも俺をコケにしてくれたな!ぶっ殺してやる!」


「おやおや、あなたは昼間の。」


ミナを張り倒した男の正体は昼間、質屋で自信を竜狩りだとうそぶいていたバーズだった。その目は瞳孔が開き、顔中に脂汗が滲み、呼吸も荒い。


明らかに普通ではない様相のバーズにアイリスとジェルミーは怯むことなく、正面に立って見据えている。


「ムカつくぜぇ、その顔!俺のことをどこまでもバカにしきった顔しやがって、クソどもが!!」


「別にそんな顔してないわよ。あんたの被害妄想でしょ。それよりミナを殴った落とし前つけてもらうわよ?」


「全くです。自身を偽るだけに飽き足らず女性に手を挙げるとは本当の外道に落ちてしまったようですね。」


「うるせぇうるせぇ!調子に乗ってんじゃねぇ!てめぇらは今ここで俺に殺されるんだ!」


歯をむき出しにし、唾を撒き散らしながら喋るバーズは懐から小さな球体を取り出した。そしてなんの躊躇もなく一息にそれを飲み込んだ。


「今のは……まさか。」


「何?なんか心当たりでもあるの?!」


ジェルミーがアイリスの問いかけに答える暇もなく異変は起きた。


「グァァア!!う、がぁ!!ギャァァァア!」


バーズが人のものとは思えない悲鳴を上げ始めた。それと同時に彼の皮膚に鱗が浮き上がる。それはアイリスが嫌という程見てきたものと同じものだった。


「あれは……魔龍の鱗?!」


魔龍の鱗は瞬く間にバーズの全身を包み、その爪や眼は人間のものとは明らかにかけ離れ、その姿はまさに『人の形をした魔龍』だった。


(どうする?!他に人もいるし店の中じゃ槍を振れない。なんとかしてこいつを外に出さないと!)


今まで見たことのない敵を前にアイリスは動揺しつつも目の前の敵を倒すことを最優先に考える。そんな彼女と魔龍バーズの間にジェルミーが割って入った。


「まさか『魔龍纏(まりゅうてん)の丸薬』を完成させているとは、予想以上に研究熱心ですねロベリアは。」


「ちょっと何してんの!魔術師が魔龍と戦うつもり?!あんたはミナと他の人を連れて逃げて!」


「アイリス、あなたの手をこんな外道の血で汚させるわけにはいきません。それにこれだけ人が多い場所で戦うならワタクシの方が向いていると思います。」


本来魔術師は戦うことはない。もし戦場にいたとすれば、それは回復などの援護が主な役目となる。


だがジェルミーは戦うと言った。しかも対人間ではない。普通の人間が何人束になっても敵わない魔龍を相手にするというのだ。

ジェルミーが両手を勢いよく広げるとマントの裏に仕舞われた無数の魔道具が姿を現した。


「とくとご覧に入れましょう!魔術師、いいえ『笑う魔術師』ジェルミーの戦いを!」

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