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03 全力で戦うしかないだろ

 



 かがめぇぇぇッ、ひばりぃぃぃぃぃいいいいいッッ!!



 そう叫んだ時、俺は前方約千五百メートル先にその建物を捉えていた。それは、三階建てのショッピングモール。頑丈そうなコンクリートの壁。

 だが、まるでそれがガラスの壁であるかのように、中の様子をしっかりと認識できていた。これもスキルとやらの力なのか。


 入り口は、反対側。

 それでは間に合わない。ひばりの元にあの──蟻っぽい奴が追いついてしまう。


 つーか、でけぇ。


 遠くから見ているというのに、小さくないというのは驚きだった。

 近くにひばりという比較対象がいなければ、モニュメントか何かだと感じていたかもしれない。


 ……いや、そんな事はどうでもいい。

 今はそれどころじゃない。


 目指すは、壁。

 壁を、突き破る。


 それしかない──!



 足が地面に沈む。それぐらいの踏み込みなんだなって、他人事みたいな思った。



 景色が流れ、



 音が後ろに流れ、



 全てを置き去りにして、









 激突────衝撃──爆音──破壊──衝撃波──宙を舞う瓦礫──視認──ひばり──蟻──対象固定──思考を絞れ──意識をそこだけに向けろ──守れ──守れ──守れ──倒す────ッ!







 激突──衝撃──斬撃──蟻の頭──壊れ、ない──反撃──痛────。





 宙を舞──痛──がっ──立ち上がる──怪我は──無し──まだ──動ける──走る──飛ぶ──斬る。



 



 圧縮された時間の中で、竜士は蟻と舞う。

 血飛沫飛び交う惨劇の剣舞。


 竜士が蟻に弾かれ、壁に衝突し血を吐く。


 竜士が蟻を斬り、血を吐く。


 かつて、ローマの円形闘技場アンフィテアトルムで殺し合いをしていた、というのはよく聞く話だが、現代人には遠すぎる話で現実味などありもしなかった。

 切り株の土俵とカブトムシで擬似的に体験した程度では、人間対人間、あるいは人間対化け物の極限状況を理解できるわけもない。


 だがどうしたものか。

 もしかして俺は。と竜士は思った。もしかして俺は、コロッセオに立っているのではないか?

 目の前には化け物。後ろには観客。そして、竜士グラディエーター



 そうか、俺──殺しあってるのか。


『ユニークスキル「勇猛果敢」を獲得しました』






 斬撃──返り討ち──痛覚刺激──ふらつく──視界──認識──化け物の脚──思考放棄──避ける──破砕──敵の──攻撃──連撃──まずい──。






 ところでひばり、随分大きくなったよな。

 そういや色々あって、別れてからもう五年ぐらい経つんだもんな。四年だっけか。いや六年か? まぁいいか。五年あれば、高校生っぽくはなる。


 見違えた。正直に言うと見違えた。

 背は伸びるし、髪の毛だって伸びる。服だって高校生の服だし……まぁ、身体だって。

 あと、性格……いや、性癖……とかね?

 女の子同士の方が良かったんだね……。僕じゃ駄目だった理由がはっきり分かった気がするよ……。


 でも、守るって決めたからな。

 守り抜く。


 必要とされているのかとか、守られて嬉しいかなんては後の話。


 重要なのは、その後の話を出来るかどうか。



『ユニークスキル「王の因子」を獲得しました』






 地面──接触──変質──スキル?──突然──武器が──蟻──攻撃──咄嗟に──避ける──武器を──振る──接触──斬れる──痛がる──蟻──。


 ああああああああああああああッ────叫び──俺の──。

 キィィィィイイイイアアアアアアッ────咆哮──蟻の──。






 視界が霞む。

 思考が止まる。


 腕が痛い。

 足が痛い。


 止まらない。

 止まれない。


 一世一代。

 全てを賭けた。

 本気の勝負。






『ユニークスキル「王の因子」が「覇王因子」に進化しました』


『ユニークスキル「覇王因子」が「超越因子α」に進化しました』


『ユニークスキル「超越因子α」が「ヨタ」に進化しました』


『ユニークスキル「ヨタ」により、「極大因子Ω」が生成されました』


『ユニークスキル「勇猛果敢」、「獅子奮迅」、「極大因子Ω」が同質化し、「ヨタΩ」が生成されました』



















「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああッッ」


 竜士がスコップを振るった。

 それは蟻の脚に衝突し──瞬間、蟻の脚を捻り切り、なおも止まらず、身体の半分を捥ぎ取り、それでも止まらず、このショッピングモールの天井に風穴を開けた。



 空が見える。



「ギギギギギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアッッ」


 だが、止まらなかったのは蟻もだった。

 身体の大部分を無くし、絶命の間際にありながら、それは断末魔ではなく咆哮だった。

 今までの比ではない速度で振るわれた脚は、空気を斬り裂き、音速を超えて竜士に迫った。


 咄嗟にスコップで身を守ろうとしたが、抵抗虚しく、スコップごと吹き飛ばされる。


 左腕が斬り飛ばされ、あばらは少なくとも半分以上。その他諸々、骨折箇所多数。


 だが、なおも竜士は立つ。

 奇跡としか言いようのない状況の身体で、竜士が見たのは、蟻ではなくひばりの姿。




 泣いていた。


 哀しく、されど美しく。




 その涙の為に死ねるのなら、最良の終わりを迎えられる。




 竜士は、かつての日々を思い返した。

 ひばりと過ごした、満ち足りた日々を。ひばりのいない、欠けたピースを探す虚ろな日々を。


 幸せを見つけたからこそ知ってしまった、絶望。

 絶望は、幸せを知って始めて知ることが出来た。


 そして本当の幸せもまた、絶望を知る事で、分かる。




「ひばり、大好き」





『ユニークスキル「ヨタ」と「ヨタΩ」を合成し、「A to Z /LOST&BREAK」を生成しますか?』


 YES


『ユニークスキル「A to Z/LOST&BREAK」を入手しました』




『ユニークスキル「A to Z/LOST&BREAK」を発動しますか?』


 YES


『ユニークスキル「A to Z/LOST&BREAK」を発動します』


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