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01 祝福ぐらい、自分で取りにいけ

 

「……………………だ、大丈夫、かい? が、学生、くん……?」


 おじさんが、俺の顔を覗き込んでいた。目が覚めて最初に見るのは美少女ヒロインだろ、普通。おじさんを見て何の得があるって言うんだよ。まったく。

 ……でも、なんか、普通に安心するな……。人の顔見ると。


 そう言えばカラスは──いないな。なんか。

 多分道路に寝転がってるっぽいが、そこから見える空は、やけに綺麗に感じられる青空だけで、黒い奴は飛んでない。


 つーか、俺、空から落ちたよな……?

 何、したんだっけ……。

 ……まぁ、どうでもいっか……。


「……あんまり、大丈夫ではないけど、とりあえず、俺の名前は転扇てんおう竜士りゅうじな。それと、歳は十七だが学生は少し前にやめたよ」


 制服をまだ着てるけどな。本当に、ついさっきやめたばかりだ。いや、退学する事になった。


 いつも動物を虐めて、女子生徒を喰ってヘラヘラ嗤っていた奴を全治数ヶ月で済めばラッキーなぐらいにまでボコったら、終わったのはそいつの人生ではなく俺の学生生活だったというだけの話。

 まぁ、インターネットという広大な海の至る所にそいつの悪業をバラ撒けるだけバラ撒いたから、別にいいけど。転んでもタダでは終わらない精神。


 あ、でも、こんなカラスの化け物いるなら、もう死んでるかも……?

 それに、学生もクソも無いか。こんな世の中なら。



 ◇



「……俺が、カラスを皆殺しにした、ねぇ……」

「ほ、本当だよ。君が、スコップで全部なぎ倒したんだ」

「んー、ほら話にしか聞こえねぇけど……んー……」


 必死におじさんは、俺が倒したんだと言い張る。

 嘘をついているにしては変だ。なんで俺が倒した事にするのか、よく分からない。だとすると、嘘をじゃないらしいんだが……うーん。


 というか。おじさん……俺が助けたおじさんだけじゃない。その後ろには、俺が殲滅ヒャッハーした所を見たというサラリーマンやらOLやら、とにかく大勢の人がいる。

 とは言っても十人かそこらだが。


 ……まぁ、何十人もの大勢が殺されてそこらに塊になって転がってるっぽいから、十人がよっぽど多く感じる。

 そんな数の人が、揃いも揃ってそう言うんだから、まぁ、そうなのかもしれない……の、かな?


 俺が、高笑いしながらカラス無双して、ヒーロー着地を決めて気絶したという事実を……ねぇ……。

 いや、信じられないというか信じたくないよな。


「……全部、本当の話だよ。君のお陰で、ここにいる皆は生きているんだ。本当に、ありがとう」

「……うわー。ありがとうとか恥ずい。そんなんいらねぇー」

「いや、でも……」


 その時、 いつもなら何もしていなくても萎縮させられるような音が聞こえた。パトカーのサイレンだ。

 そして──俺たちの目の前で止まった。


 はっ──!? 気付いてしまった。このおじさんまさか、「この人がカラス殺しまくってましたー」って俺を売る気だな!? いや、あっちが先に殺しにかかってきてたから正当防衛だよなこれ。

 え、大丈夫かな俺?


「君たち! 怪我はないですか!? あの凶暴なカラスは!?」警官だ。うわ。何もしてないのに悪さしたような気分になって嫌だ。

 間を空けず、俺の隣にいたおじさんが口を開けた。「あの凶暴なカラスは、この……竜士くんが、倒してくれました!」


 ちょっ、おじさんまじで俺を売る気なの!?


「君が……? にわかには信じ難いが……君、よくやったね。後は僕たち警官に任せてくれ」


 ……警官は、俺の肩に手を置くと少しだけ笑った。


「あっ、はい」


 どちらかと言うと俺、ヒーローっぽかった──。


 なんか、そわそわ嬉しくなってきた。人助けって、こんなに良いことなんだっけか……。

 こんな状況だからなのだろうか。人の笑顔の暖かみがより一層感じられる。暖かい。心まで浸透するような暖かさだ。


 ぴりりりりりり──。

 警官が、あたりに散らばる肉片に顔を顰めつつ、生き残った人達を誘導している最中。聞き覚えのある音が鳴った。携帯スマホの着信音だ。


 登録してあるのは、父と母と……元カノ。

 お願い。父さんか母さんであってくれ。そう強く思った。

 こっちからは怖くてかけられない。もしも出なかったらと思うと、不安で心が潰されるかもしれない。


 ────。ひばり。……元カノの名前だ。


 悪いなと思いつつ、落胆するのを抑えられない。


「……もしもし」


『──ッ、────』


 ……? ノイズ? いや、雑音……? うるさくて聞こえない。


「聞こえない……けど、えっと」


『……ガガッ、ザッ────たっ、す──ガ──』


「……え?」


『りゅっ……じ、──助けて──────プツッ




 ……──は?




「もしもし? もしもーし? おーい? ……もしもし、もしもし! おい! もしもし! おい!!」


 電話は──切れてない。でも、雑音だけ──? 襲われてる? いや、でも、どこで……?

 なんだ、なんなんだよ──?


 あ……切れた。電話。

 そして、一通のメール。



 ▽


 差出人 ひばり

 宛先 Ryuzi@icluoudio.com



 す



 △




 ……くそったれ。


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