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とある世界でのクリスマス物語

作者: 枳殻 唯冬

ある世界でのクリスマス。

魔法剣士の悲しい悲しい恋物語。

この小説を読み感動して、お楽しみあれ!


 クリスマス。皆さんにとっては楽しみで仕方なく、大イベントでもある。

 ···そんなクリスマス。ある物語をご存知だろうか。

 それは皆さんと同じ様に、クリスマスを楽しみに待っていた人の物語...


12月2日

「それじゃ、全員揃ったところで...カンパーイ!」

俺は雨空 涼。冒険者の一人だ。この世界はいくつものダンジョンがある。

 古代文明の道具など、いろいろな物があり、この世界では、冒険者という職業の人達がダンジョンで集めた宝を換金し稼いでいる者が多い。

 俺もその一人なのだが、今日、ある小規模ギルドが苦戦していたため、支援するとお礼として宴会に誘われたという訳だ。

辺りからは、「ありがとう」「助かった」「今日は楽しめよ」などと歓迎やお礼の言葉が俺に向かって発せられている。もちろん悪い気はしない。そして、1つのパーティーが向かってきた。

「なぁ。ちょっといいか?」

 そのパーティーのリーダーらしき人物が話しかけてきた。

「えっと、俺らのパーティーはあのギルドのメンバーじゃないんだが、苦戦してたみたいだからさ。戦闘に加わったんだけどさ。こいつ、一応槍使いなんだが少し火力をつけるために魔法剣士にしようと思うんだ。でも、上手く出来ないらしいんだよ。あんたの戦闘みてたが、あんたも魔法剣士だよな?悪いけどこいつに教えてくんね?」

 一人の少女の頭をポンポン叩きながらリーダーの男は言った。

 確かに俺は魔法剣士だ。多分そこそこ強い...と思う。

「ああ、構わないよ。俺のパーティーメンバーはしばらくダンジョン攻略休むって言ってたし。年末くらいまでなら平気だよ。」

「サンキュー♪てか、一ヶ月も教えてくれるのか。あんたみたいなベテランだと凄く心強いよ。ほら、お前も挨拶しろよ。」

 6人いるパーティーの一人の少女が頬を膨らませ、拗ねるように言った。

「だって、慣れてないしいきなり魔法剣士に転職って言われても...」

 前髪をくるくる回しながら拗ねているとこも可愛いと感じた。

「大丈夫。なるべくわかりやすく、優しく教えるから。少しずつ体に慣れさせよう。」

 少女は拗ねた顔から満面の笑みになり、言った。

「ありがとう!」


 翌日の早朝、全員で自己紹介にプラスして前衛と後衛、スキルなどを話し合った。

 そこで、俺と魔法剣士見習いの少女、冬花は前衛でアタッカー。リーダーと体のでかい盾持ち剣士がタンク。後衛に援護、回復を担当するヒーラーが2人となった。

 この世界のダンジョンは攻略が難しく現在は54層を攻略中だ。だがまだ先はある様な状態で、ダンジョンの最下層が何層か全く想像出来ない。正直、ダンジョンのさらに奥には何があるのか俺はいつも心を震わせ攻略しているが、流石にここまで来ると敵も強くなり、難しい。

 と、そこで俺たちは今回、13層とレベルの低い層を探索する事になった。冬花に戦闘を慣れさせるというのもあるが、このパーティーは最前線と比べると物凄くレベルが低い。このパーティーの最高は18層らしい。

 そして、冬花が魔法剣士を始め1週間がたった。そこそこ様になってきてはいるしみんな安心して攻略出来ると喜んでいた。


 12月11日の夜、冬花は俺の部屋に来た。

「えっとね、眠れないからここにいてもいいかな....?」

 不安げな顔でそんな言葉を発する冬花に俺は頷く事しか出来なかった。2人ベッドに横になり眠ろうとした時、

「ねぇ、涼はさ...死ぬの怖くない?」

「いきなりどうしたんだ?そんな質問して。」

 冬花の質問の意図が読めなかったが、次の言葉で俺は納得せざるをえなかった。

「私怖い。いくらダンジョンがお金集めで効率的でも、皆がいても、モンスターにやられたらそこで終わり。死んじゃうんだよ?私、死にたくない。」

 彼女の声は少し震えていた。確かに冒険者がモンスターに殺されたという情報は少なくない。なら、俺がやることは一つ。彼女を慰めることだろう。

「大丈夫だよ。冬花は実力もあるし、みんなだって、弱い訳じゃない。最悪の場合、俺が最大魔法でみんなを助けるからさ。」

 それに続き、出来るだけ彼女を安心させるように言葉を紡ぐ。

「大丈夫。君は死なないよ。絶対に俺が守るから。」

 そして、彼女は小さな声でありがとうといい、眠りについた。


 それから、毎晩の様に冬花は俺の部屋に来る。だから、俺も毎晩大丈夫という言葉を紡ぐ。

 そして、12月19日俺たちはいつも通り攻略を行う。そこで、ある一つの隠し宝部屋を見つけたとリーダーが言った。その言葉にみんなテンションが上がっていた。そして、リーダーが宝箱を開ける...

 その刹那

 部屋の入り口が消え、壁となり、完全な密室となる。

「しまった!トラップだ!」

 リーダーが叫んだ瞬間、部屋中にモンスターが湧く。さらに、全員の定位置はバラバラであり、事態は最悪だ。湧いたモンスターは40層近くに出現する奴らだ。10層代をいつも行っている彼らには倒しようがない。

 全員必死に戦うが、数十秒もせずに叫び声が聞こえる。

 そして...冬花以外の全員が死んでしまった...

 俺も必死に剣を振る。そして、一人の少女に向けて手を伸ばし叫ぶ。

「冬花!」

 彼女も俺に気付き、手を伸ばす。

「涼!」

 その声が聞こえた瞬間、冬花は一体のゴブリンに背中を斬られ倒れこむ。倒れている冬花は、僅かながら、口を動かして言葉を紡ぐ。だが、死にかけの彼女の声はとても小さく、全く聞こえない言葉だった。

 そして、彼女の目は重力に従い落ちていく。

 そして...そして...そして...


12月24日

 あの後、一人でモンスターを全滅させた俺は一人、部屋で雪の降っている夜空を眺めていた。

 後悔をした。だって、俺は毎晩彼女に「大丈夫」や「君は死なないよ」などと言っていた。なのに、結果は彼女を守れなかったというもの。

 俺は自分を嘲笑う。あんな言葉を言っておいてこんな結果か。口だけ達者なだけのただのクズだと。

 そして、俺はある事を思い出す。彼女の命が尽きる前、彼女は何か言葉を発していた。何を言っていたか。俺はそれが気になった。でも、彼女はもうこの世界にはいないて、それは彼女が言った言葉を聞くことも出来ないことを意味していて...

 「俺って、本当にクズだな。」

 刹那、俺の部屋にある一つの結晶が贈られてきた。

 これは、メッセージを録音できるという代物だ。だが、一体誰が?

 その疑問は、声を聞くとすぐに消えた。

「メリークリスマス。涼。えっと、冬花です。って、声聞けばわかるか。あはは。えっと、このメッセージを涼が聞いている頃、私はもうこの世界にはいないでしょう。実のとこ言うと、もう死んじゃうこと分かってたんだ。魔法で、未来予知ってあるじゃん?それ使ったらさ、未来がでなかったんだ。だから、もう終わりなのか~って。えっと、未来予知した理由はね、私はあなたの事が...す...好きだったから!告白しようと思ってたんだけど、上手くいくか予知したかったんだ。なのにね~。あはは。嫌な事知っちゃったな。本当に生きたかった。でも、仕方ないよね。これが運命だもんね。...もう時間ないや。じゃあ、最後に伝えたいこと伝えて終わるね。」

 一拍置いて、言葉が紡がれる。

「大好き。...ありがとう、さよなら。」

 俺は部屋のその場で膝をつく。そして、泣き崩れる。彼女が力尽きる前に言った言葉。それは、最後の一言だろう。それを確信し、さらに涙が出る。彼女の言葉はもう聞けない。彼女には会えない。

 だから、紡ごう。最後だ。彼女に別れの挨拶を...

 

 『さよなら』



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