ハロウィンパーティー(美湖の場合)
美湖の冒険のハロウィン編です。
時期は、一章と二章の間。エイルと出会う前です。
「よし、みんな。カボチャを探しにいくよ。」
いきなり、美湖が屋敷のリビングで大声で言う。それを聞いた、他のメンバーは、
「?、ご主人様、カボチャって何ですか?」
美湖の話を聞いていたユーナが、しかし聞いたことのない単語にはてなマークを浮かべる。ほかのメンバーも同じような反応だった。
「え、この世界にカボチャないの?」
美湖は、みんなの反応に困っていた。それでは、計画が実行できないからだ。
「えーと、じゃあ、こんな野菜見たことないかな?」
美湖は、紙にカボチャの絵を描いていく。それを見たほかのメンバーは、
「こんな野菜あったか?」
「どっちかっていうと、この時期によく出てくる『ジャック・―オー・ランタン』に似てないですか?」
ユーナとユリカが、美湖の描いた絵を見てそんなことをいう。
「『ジャック・オー・ランタン』?」
「ええ、確か、この時期の沼地によくあらわれる、精霊の一種でしたわね。めんどくさいお願いをしてくる代わりに、それを叶えたら、自分とそっくりの食材『パンプ』をくれるといわれていますわ。」
美湖はその話を聞いて、確信していた。それこそ、自分の求めているものだと。
「よし、みんな、その『ジャック・オー・ランタン』に会いに行こう。」
そして、今日の活動内容が決まった。
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「というわけで、ラティアの町から一番近い沼地に来たんだけど...」
美湖は、ユーナやユリカたちを連れて沼地にやってきていた。少々薄暗いが、水もよどんでおらず、小魚なども生息していた。
「いないですね。」
「いねぇな。」
沼地は、とても静かで、『ジャック・オー・ランタン』どころか、魔物一匹すら出てこなかった。
「仕方ないね。何か出てくるまでピクニックとしゃれこもっか。」
美湖の提案で、一行は一時沼地でピクニックをすることになった。
「でね、その時のユーナちゃんたら、こんなにかわいいのに、すっごくかっこよかったんだから。」
「やめてください、ご主人様~。」
「いや、そのあとスタンビートを一人で殲滅してる美湖さんは、規格外すぎないか?」
「それはもう、わかりきっているではないですか。」
美湖たちは、全員が出会う前の話で盛り上がっていた。
「それにしても、美湖さんのスキルは便利ですよね。このように、おいしい食事を温かいまま食べられるのですから。」
7人は、楽しい昼のひとときをすごした。美湖がふと後ろを見ると、カボチャに目とロがついている何かが、ふよふよと浮かびながら彼女たちが食べている物を見つめていた。
「うわ〜、何これ!?」
美湖はおどろいて、手に持っていたサンドイッチを、放り上けてしまった。すると、そのカボチャのようなものは、美湖が放り上げたサンドイチを空中でロでキャッチして、おいしそうに食べてしまった。
「ご主人様ぁ、これが『ジャック・オー・ランタン』ですぅ。大丈夫、見ためはあれですがぁ、無害な精霊ですぅ。すこしいたずら好きですがぁ。」
スーリンが説明してくれた。美湖のサンドイッチを食べられはしたが、襲ってくる様子もなく、ただ食べ物を見つめている。
「ねぇ、スーリンちゃん。ちょっと通訳してくれる?どうしたら『パンプ』をくれるのか?」
スーリンは、美湖に言われた内容を『ジャック・オー・ランタン』に伝え、その返事を皆に伝えた。
「この子が言うにはぁ、何個ものおかしが食べたいみたいですぅ。それも、いろんな種類のがいいみたいですぅ。」
美湖は、「これが、厄介な願い事か。」と、心の中で確信した。この世界では、お菓子というジャンルの食べ物の種類はそう多くなく、また、甘味料をふんだんに使用しているので、一つ一つの単価が効果になっているのだ。したがって、このような願い事に大金をつぎ込む形となるため、ほとんどの探索者は無視してしまいがちだった。しかし、美湖はそのほとんどには当てはまらなかったようで、
「よしみんな。手分けしてお菓子を買い集めたり、作ったりするよ。スーリンちゃん、『ジャック・オー・タンタン』に、5日後に又来るからここに来るように伝えてくれるかな?」
美湖はスーリンに指示を出し、彼女はその内容を伝える。そして聞いた返事をメンバーに伝えた。
「了解してくれましたぁ。でもぉ、ご主人様ぁ、そんなにたくさんのお菓子をどのように集めるのですかぁ?」
「フフフ、僕に任せておいて。みんな、急いで町に帰ってお菓子の対策をするよ。」
美湖はそう言って、メンバーを連れてラティアの町に戻っていった。
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町に戻った一行は、3手に分かれて行動していた。
一つ目のグループは、お菓子を買い集めるグループで、ユーナ、ユリカと、クラン支部から連れてこられたアリアが担当していた。
「はぁ、どうしていきなりお菓子の買い出しに付き合ってるんでしょう、私。」
いきなり、クランに来たユーナたちに連れ出されたアリアは、大きなため息をついていた。
「仕方ないではありませんか。ご主人様から、アリアさんにも手伝ってもらえとの指示なのですから。それに、少し余分に買ってもいいと言われているので、アリアさんにお礼という形で、お菓子を選んでいただこうかと思うのですが。」
ユーナが、少しからかうように言う。しかし、後半の言葉に目を輝かせたアリアが、
「わかりました。全力でお手伝いさせていただきます。ふふふ、この時期は、なぜかどの店もおいしいお菓子が並ぶんですよね。ラッキーです。」
そうして、必要なお菓子を買いながら、食べ歩きをしていく3人だった。
2つ目のグループは、お菓子の材料の買い出しのグループで、アリサとレイク、エリザが担当していた。市場を回り、小麦粉や、甘味料、果物などの食材を買い集めていた。
「しっかし、ご主人様も変にこだわるなぁ。」
買い物袋を背負ったアリサがつぶやく。
「どういうことですの?」
そのつぶやきに、エリザが反応する。アリサは、
「だってな、あの『ジャック・オー・ランタン』って精霊の、『パンプ』って素材なんだが、討伐すれば、最低でも1個は手に入るんだよ。なのに、こんな回りくどいことをするから、不思議に思っちゃって。」
「確かに、その情報は聞いたことがあります。しかし、それには続きがありますよ。そのようにして手に入れた『パンプ』と、今回、美湖さんがしているようなやり方で手に入れた『パンプ』には、味に雲泥の差が現れるそうです。もちろん、味がいいのは後者ですよ。」
アリサの説明に、レイクがさらに付け加えている。それを聞いた二人は、
「それなら、ご主人様がこの手段を選んだのもうなずけるな。でも、あの人、この辺りに来たばかりなのに、そんな情報よく知ってたな。」
「あの人は常識では、はかれませんわ。黙ってついていくしかないですわよ。可愛い奴隷さん?」
エリザは、アリサをからかいながら、市場で売っている食材を買い集めていった。
3つ目のグループは、お菓子を作る担当で、美湖と、スーリン、宿屋『癒しの風亭』の看板娘、ソクラが、担当した。
「しかし、美湖さんがお菓子を作るからキッチン貸し手と言い出した時は驚きました。美湖さん、お料理で来たんですね?」
小麦粉を練りながら、ソクラが美湖に話しかける。
「失礼な。ソクラさん、僕がいた故郷では、女の子は対外料理できますよ。男の人でも簡単な料理くらいなら作れる人も多いんですから。」
「それはすごいですねぇ。この辺りでは、『男は外で、女は中で』みたいな風習がありますからねぇ。結婚すると、そんな感じになりますよぉ。」
スーリンが、美湖の言葉に感心する。その手には、きれいにスライスされたルプアの実があった。
「スーリンちゃん、味見もいいけど、そのペースでやったら素材がなくなっちゃうから。しっかり食べる分も残してあげるから、今はそれ以上食べないで。」
美湖は、リスのように頬を膨らませているスーリンを見て、焦ってスーリンを止めた。
「ほんと、美湖さんと奴隷の皆さんって、常識とはかけ離れてますよね。普通、こんなことしたらお仕置きされてますよ。」
ソクラが、苦笑いしながら美湖に言う。この世界では、確かに奴隷はある程度守られているが、やはり、主人になる人によっては虐待もあるらしい。
「ははは、こんなかわいい子に、これくらいのことでお仕置きしてちゃきりがないよ。それに、僕は、この子たちを守らないとだからね。いじめたりはしないよ。ソクラさんも、できれば仲良くしてあげてね。」
「もちろんです。常識とはかけ離れてるだけで、皆さんといるととても楽しいので。」
ソクラは、花が咲いたような笑顔をしてお菓子作りに戻る。美湖はそれを見て、
(やっぱり、ソクラさんもかわいいな。いつか、一緒に暮らしたい)
と、幼い少女に少しよこしまな考えを持ってしまっていた。
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お菓子を買い集めるグループ、お菓子の素材を買い集めるグループが、必要なものを市場で買い集め、宿屋『癒しの風亭』に戻ってきた。そして、一日かけて、全員でお菓子を作り終わると、約40種類くらいのお菓子が、それぞれ10個ずつはあるようだった。
「これだけあれば、『ジャック・オー・ランタン』も満足するでしょ。よし、みんな、昨日の沼地に戻るよ。」
美湖は、メンバーを連れて、昨日訪れた沼地にやってきていた。そこで目にしたのは、約束していた『ジャック・オー・ランタン』が、ほかの男探索者たちに襲われているところだった。
「へへ、こいつの出す食材はなかなかの美味らしいからな。たくさん討伐して大儲けしねぇと。」
男たちはどうやら、『ジャック・オー・ランタン』が食材を落とすことを知っていたらしく、討伐しようと考えたらしいい。
「みんな、あの子を助けるよ。」
美湖の掛け声で、メンバーは男探索者たちを無力化していく。
「てめぇら、いきなり何しやがる。人の得物をとりやがって!」
一人の男が、美湖たちに対して怒鳴り声をあげる。
「それは僕たちのセリフだよ。僕たちは、昨日この子と約束したんだ。お菓子をたくさん持ってくるって。だから、僕たちはこの子を守っただけ。そもそも、有害でもない精霊を討伐しようなんて、欲望駄々洩れじゃない。これだから男は...」
美湖は、男たちの首に種痘を落とし全員を気絶させる。
「ごめんなさいぃ。遅くなってしまって、怖くなかったですかぁ?約束のお菓子を持ってきましたからぁ。たくさん食べてくださいねぇ。」
スーリンに、お菓子を出すように言われ、美湖は魔札に封じていた多種多様なお菓子を出現させた。
ルプアの実のパイや、ケーキに始まり、クッキー、プリン、キャンディーなど、たくさんのお菓子が『ジャック・オー・ランタン』の前に並んでいく。
「♪♪♪。」
『ジャック・オー・ランタン』は、そのお菓子を見て大喜びして、お菓子を次々に食べていった。美湖たちも、その様子を見て柔らかい笑顔を浮かべ(スーリンだけは、少しうらやましそうに)、その様子を見守っていた。
「♪♪♪」
お菓子を食べ終わった『ジャック・オー・ランタン』は、美湖たちの前で空中をくるくる旋回し始める。すると、地面に大きなカボチャがいくつも現れ始めた。
「ご主人様、これが『パンプ』です。この時期しか手に入らない、とても貴重な食材ですよ。」
ユーナが、出現したカボチャに対して、説明してくれる。美湖も、
「そう!これ、これだよ。僕がほしかったのは!!」
念願のカボチャが手に入り、大喜びであった。かぼちゃを、『パンプ』を出し終わった『ジャック・オー・ランタン』は、満足したのか、どこかに飛び去ってしまった。
「よしみんな。念願の者も手に入ったし。かえって新しいお菓子を作るよ。」
美湖は、メンバーを連れて、ラティアの町に戻っていくのだった。
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その夜。
「お菓子くれないと、いたずらしちゃうぞ~。」
手に入った『パンプ』をくりぬき、『ジャック・オー・ランタン』そっくりのくぼみを作った提灯を下げ、美湖は、メンバーたちに近寄っていく。
「はぁ、ご主人様。お菓子はありませんから、いたずらしてあげます。」
そして、『吸性』スキルが発動してサキュバスの血が目覚めていたユーナに、ビクンビクンするまで攻め続けられたのだった。