表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

んああああああ! 身内にも変態が!

ごめんなさい。最後のあたり力尽きました。

「ふう、間に合った」

「きっちり三十秒前。時計より正確じゃないかしら?」


 教室に滑りこんだ僕は、彼女がリュックを持っていないことに気が付く。いつもは机の横にかけているのに、今日はそれがない。


「リュックどうしたのさ?」


 流れ出る汗が不快だ。天気は相変わらず曇天でじめじめした気候だった。


「ああ、大きくなっちゃったから。ロッカーにね」

「大きい?」


 席にどっかりと腰掛ける。

 大きいとはどういう事だろうか。今日の日課はいつもと変わらない筈だ。疑問に思う僕に、彼女は顔を近寄らせる。


「金曜の……正確には土曜だけど。に使った代物。学校に持ってきてるの」

「んな!?」


 声を潜めて彼女はとんでもない事を言った。


「なんでそんな事を?」

「灯台下暗し。まさか学校にそんなものが保管されてるなんて思わないでしょ。それにプライバシーがあるからロッカーも開けられないし」


 こんな事を言われた僕の心境を、他人に説明するのは実に困難だろうと思われた。取り敢えず警察に通報でもしてやろうかと思った。


「まあ、適当な所に移すわよ。ああ眠い」


 大あくびをする彼女。教室に入って来る教師。実に慣れたアホな朝だった。




 とんでもない事と言うのは前触れもなく突然訪れる物だと思う。まさかこの僕の意見が実証される日が来るとは夢にも思わなかった。

 本当は突然と言う訳でもなく、前触れはきっちりあったのだろう。ただ僕らがそれに気が付く事は無く、ただただ突然訪れた災厄としてこの事件を捉えていた。


「パンティー! フウウウウウ!」


 わが校は六月の中頃に球技大会が行われる。学校と言う組織は難儀な物で、生徒がやりたがらない行事の運営を生徒にやらせるものだ。きっと生徒会選挙か生徒総会か何かで球技大会廃止を唱え、代わりに休日を一日入れると提案をすれば、その意見はぶっちぎりの支持率で勝ち抜く事間違いなしだ。

 もっとも生徒の多数決で可決されたとて、教師が最終的に審議し許可を出すと言うプロセスがある以上、確実に廃止は不可能だろう。

 教師と言うのは元々自己満足で動く場面が多数散見される。具体例を一つ上げるならば、小学校の運動会における組体操。もっと言えば、それの人間ピラミッド。競うように段数を増やして致命的な事故が起きた事例が過去には幾つもニュースになっている。

 そんなにやりたいなら自分らでやれば良いものを。生徒に教育と言う名目でやらせることに快感を覚える変態しか居ないのだろうかと、教師嫌いな僕は常々思う。


 そんなこんなで、僕は大嫌いな球技大会の実行委員の一人に、なんの間違いか収まってしまったのである。

 元はと言えば彼女が最初に選出された。クラス会議の時に熟睡していたのが原因だった。存在を消すべき場面で存在感を悪い方向で露わにしてしまったのだ。これがいけなかった。彼女と僕の運命を決定づけてしまった。


 つまり、どこかのひょうきんな男子が言い出してしまったのだ。


『実行委員の立候補居ないなら、高島にやらせようぜ!』


 笑いながらそう言いだした坊主頭の柔道部男子の顔を、僕はきっと一生忘れないだろう。名前もきっちり覚えた。


 確か、佐藤だったか。いや、斎藤だったか。つよしだか、たかしだったか。そんな感じの名前だった。


 一組から二人選出と言う事で本来ならば男子が選ばれてしかるべき相方ではあるが、我が組の男子のやる気が特になかった。という事で仲の良い二人組はセットで生贄にしよう。要約すればそうなるだろう意見の下、僕は彼女と共に夜七時の学校に先輩同学年の連中と一緒に残って仕事をしていた、という訳だ。


 因みに彼女は、腹痛を装って、屋上にアタックする為に何やら行動を開始しているらしい。だから今、この三階のフロアには居ない。


「パンティー! ナウ! 脱ぎなサーイ! ナウ! ヒャッハアアアアアアアア!」


 テロリストが突然学校を襲撃する。僕だってこんな妄想をしたことがある。つまらない授業中の妄想の中では鉄板ネタだ。

 ただ、これだけは言いたい。現実に起きて欲しいなんて、願った事は一度も無いよと。


「ジャパニーズJK! 脱ぎたてパンティー!」


 パンツを頭に被った一団が突然襲撃してきました。警備員の屈強なお兄さんたちは、立体プリンターとやらで制作した銃器っぽい何かを相手が装備していたので、安全の為に投降しました。

 僕等は一階の多目的室から三階まで移動させられています。男は即座に解放されましたが、僕等女子は現在、パンツを脱ぐように指示されています。ピンチです。貞操の危機です。

 スマホは没収されました。僕は頑張って隠し通しましたが皆は連絡手段を立たれてしまっています。

 外には沢山の報道陣と警察と警備会社の部隊が居るらしいです。

 こんな馬鹿げた状況。誰が望んだよ。


「パンツを……パンツを脱いだら解放してくれるんですか……?」


 そばかすが浮いた先輩が、泣き出しそうな声で変態に尋ねる。僕自身、震えが止まらない。手足が縛られて床に先輩たち数名と一塊になって座らさせられている。逃げる事も抵抗する事も出来やしない。

 WWbpという団体。概要を聞いただけではつい吹き出してしまう変態集団。けれども実際に遭遇すれば、その異様な雰囲気にのまれてしまう。


 目が明らかにイってしまっている。まるで新興宗教の信者の様だ。自分の行いを一寸たりとも疑っていない、確信に満ちた狂信者。その濁った光で輝く目が女物のパンツから覗いているのだ。

 怯えない訳がない。相手は性犯罪者だぞ。


「イエースイエース。物わかり良いガールはベリーベリーライクデース! レッツ脱衣! プリーズナウ!」

「……私が脱ぐよ」


 中性的な声が響く。すっと立ち上がったのは三年生の先輩だった。声と同じく、中性的な顔に玉のような汗を浮かべている。マズいぞこれは。


「まこちゃん……駄目だよ……脱いだら駄目だよ……」

「私が脱いだら解放してくれるんですよね?」


 すらりと伸びた身体。胸はぺったんこだけどもそれが好みだったのだろう。僕等を監視している変態は鼻息を荒くする。荒くして首を縦に振る。


「焦らすみたいに脱いでクダサーイ。ゆっくりじわじわデース。勿論最後は中身も見せてネー」

「分かった……」


 スカートに手を突っ込み、ゆっくりじわじわとパンツを脱いでいく先輩。やばい。最後の要求を呑んだらやばい事になる。僕等全員殺されてしまう。それだけは阻止しなければならない。


「先輩! 止めてください!」

「シャラップ!」


 銃声。


 先輩の動きがぴたりと止まる。こっちを見て安堵する。

 鼻先をかすめた弾丸は教室後方の壁をへこませて、床に転げていた。


「私だけで良いんだ。私が脱げば解放されるんだから。恥をかぶるのは私だけ」


 そう言って、また脱ぎ始める。スカートの中から白くすらりと伸びた足を伝って、これまた純白のパンツが降りてくる。


 そういう事じゃねえよ変態野郎。


 そっと、先輩は悩まし気な表情でスカートをめくった。周囲の生徒たちは皆泣いている。僕も泣いている。ああこれで死んだと。止める事が出来なかった、マコ先輩の相方がしきりに『ごめんねえ。皆ごめんねえ。幼馴染の私が不甲斐ないせいで。おかあさん。おとおさん……』と呟いていた。


Ah(ああ)……a freak(狂ってる)…… pervert(変態だ……)


 顔を背けてしまった僕等からでは先輩と変態。いや、言い直そう。変態生徒もとい性徒と変態テロリストは見えない。だが変態集団が見たブツなら、絶対の確信をもってこれだと断言できる。

 呟いた英語。意味は分からない。けれどもその音に込められた意味ならば理解できる。全く違う文化圏であったとしても同じDNAを持つ生物。脳の深層が理解する。


 変態だと。変態が変態を見て変態と呟いたのだ。


 それもそうだろう。期待に胸を膨らませ、ナニも膨らませ、そうして見たモノは夢の桃源郷ではなくバベルの塔。それも多分恐怖でへんにゃりとした塔だ。

 その光景はさながら神に挑んだ末路。期待と言う塔は砕かれ、最後に残ったのは絶望という名の塔の残骸。

 統一言語だったはずの物は天罰によってばらばらの言葉にされてしまった。ならば現在、僕が彼らの言葉を理解できているのはその名残なのだろうか。散ってしまった言葉をDNAと言う生命の神秘が再び繋いだのだろうか。


 ならば言葉は再び砕かれるのだろう。怒り狂った傲慢にして独善的な旧約聖書の神によってではなく、現在こうして存在している人間によって。


 桃源郷(女の子)では無く、バベルの塔(男の娘)を見た怒りによって。


Ah(ああ)……ah(ああ)……fuck(畜生). Fuck(ちっくしょう)……!」


 彼は同性愛者ではなかったようだ。薄い本のようなエロい展開がもう少しで訪れると、期待に胸膨らませ、股間も膨らませ。出てきたのは女装した野郎。そりゃあキレても仕方ないだそうねと思う。僕だって、可愛い美少女キャラだと思ったら男だった展開に激怒した人間の一人だ。

 大体なんだよ。男の娘って。女で良いだろうって思う。だからあの変態には同情を禁じ得ない。激怒しながらも大粒の涙を流している。粒通り越して川だ。滝だ。二本のナイアガラだ。


「ヤロウはデテいきなサーイ! とっととキエルがいいデース! 今ここで君をキルしないのをウレシクおもいなさい!」



「うひゃあ!? 離して! 離して」


 パンツ被った変態が鼻息荒く変態(男の娘)の襟首をつかんで引きずる。行き先は窓だ。変態も抵抗しているが、メリケン人と思しき変態の方の力が強く、ちょっとばかり遅らせる効果しかない。


「マコちゃーん! だから女装はやめようって言ったのにいいいいいい! いやだいやだって言ってる癖して妙にノリノリだからこんな目に合うのよおおおおお!」

「だから!? あれは姉さんが――」

「シャラップ変態野郎!」


 変態が変態を変態と呼び、泣きながら変態のいつもの様子を暴露する本物の女の子。カオスだった。


「よくルックしなさーい! HENTAIとライアーはこうなりまーす!」


 変態のいう事を聞き、嫌々そちらに目を向ければ、丸出しの尻が目に入った。変態の尻だ。勿論小バベルも見える。ぷらんぷらんだ。


「嫌だあああああ!?」


 窓から下に落とす気なのだろう。皆が凄惨な場面を想像し、顔を強張らせる。変態の手に力が入る。


 暗転。


「What's!?」


 空間が闇に包まれる。一寸先は闇だった。目の前に人が居ても気が付かないだろう。瞳孔が光を取り入れようと無駄な努力を行っている感覚。とても気持ち悪かった。

 変態が何事かわめいている。人質の怯え、驚く声。動くならば今しかない。


 かつて親のすねをかじりただ飯を喰らい続けたネット上の師匠四十七歳は教えてくれた。無職の薄っぺらい言葉だがなかなか役立つ言葉だった。


 曰く


「俺たちを捕らえられる奴なんて、この世には警察くらいしか居ないよな!」


 その通りだった。僕を捕らえられる者など警察だけだ。それは変態集団とて例外ではない。無職で座敷牢もかくやの狭っ苦しい部屋に隔離されているニート野郎でも、その言葉を励みに僕は鍛錬を続けてきた。

 今こそ見せよう。自分と人質を助けるために。奥義、縄抜けを。


 縄がパサリと床に落ちる。けれどもパニック状態の皆の声にかき消され、変態達には聞こえていない気配だった。

 ゆっくりと立ち上がり、開いていても意味がない目を閉じる。


 ネット上の師匠は言っていた。


「俺さあ、最近人が近づくと分かるようになったんだよねw ほら、あれだよ。心眼? 親が階段上るとすぐ気付くのwww 気配でwwwwwwwww」


 それ単純に音で気付いているだけだろうと思ったけど、きっと本当に気配で察知しているのだろうと必死に思い込んだ。無職でごく潰しの男で、当時小学生だった頃の僕に平気で児童ポルノを要求してくるド変態クソ野郎の言葉だけど、僕はその言葉の通りに必死に鍛錬した。

 結果会得した。空気の流れ、動き。匂いに音。全ての要素から敵の位置を、目にすることなく算出する奥義。心眼を。


 通信合気道と通信少林寺拳法で習った動きの方法をミックスさせた、滑らかな動き。ぬるりとした動きでシャラップと絶叫する変態に近寄り、鳩尾に一発。俯いた頭に膝蹴りをかます。

 倒れた変態を縄で縛りつける。


「皆落ち着いてください」


 声を落として指示する。少しずつ静まっていった。

 不意にポケットに入れた携帯端末が震えた。光が周囲に漏れないように手で隠しながら確認する。メールだった。我が親友のメールだ。


 件名は無し。本文は簡潔だった。

 曰く、電源落とした。屋上で待つ。


 先日使った暗視ゴーグルでもって、この暗闇の中を動き回っている様子だった。彼女は何て運が良いのだろうと思う。普通だったらすぐに見つかって捕まるのに。

 部屋の外からは人の動く気配。どうやら様子を見に来たようだった。先手を打とうと思った。攻撃こそ最大の防御。無慈悲かつ苛烈な攻撃で相手を粉砕する事こそ、安全確保への一歩だ。


 僕が習っていた定期購読者限定通信武術トータルで十万円は、こんなことを薄っぺらい雑誌で語っていた。全ての武術に置いて大事なのは『流れ』だと。

 動きの流れ、万物の流れを理解すればそれすなわち神の一撃。神をも殺す一撃だと、紙面上でつるっぱげな太っちょのおっさんが語っていた。口から飛ぶ唾の飛沫がきれいに映った写真が掲載されていた。奇跡の一枚だと思った。


 名前も知らない総合格闘技大会で、準決勝敗退だったそうだ。ちなみにその大会に参加したのは四人だけだったらしい。優勝賞品は無料で焼肉だったそうだ。負けた連中の奢りだったらしい。


 仲間内で殴り合って初戦敗退じゃないか。



 そんな太っちょの負け犬のいう事でも、まあ信じれば良い事あるよねと僕は必死に鍛錬を続けてきた。

 音も気配も発さずに迅速に、ぬるりと扉の方へ向かう。気配から察するに敵は二人だ。動きに無駄が多い。素人め。


 がらりと音を立てて扉は開かれる。きっと増援の変態二人は大層驚いただろう。いきなりにゅっと女子高生が目の前に現れたのだから。ちょっとしたホラーだ。


 鳩尾と顎を殴りあげ、体をくるりと回して回転蹴り。吹っ飛ばずによろめくだけなあたり、さすがガタイの良いアメリカ人だと思う。

 大勢を崩したメリケン人を突き飛ばし、後ろに居た変態その二に当てる。ここまでで一秒半。僕も修業が足りない。


 とどめを刺そうと踏み出した時だ。変態その二が自分に寄りかかった変態を突き飛ばす。それを回避し、見ればなにかを構えていた。


 ――奴め、後ろ飛びで。


 バックステップでその二は距離を取っていた。素早い反応と決断力。手練れだ。構えるは見慣れぬ形状。銃に近い。されど銃ではないそれ。間違いない。テーザーガンとかいう奴だ。


「ゴウホウロリ! ヒンニュー! いただきナリ!」


 流暢な日本語だった。きっとアニメか何かで勉強したのだろう。変態が引き金を引こうとした。後ろから大きな影。


 はち切れんばかりの筋肉。圧倒的な質量。間違いない。奴だ。わが校の最終兵器にして人間兵器。


「生徒に――」


 その名も。



「ゴリ先生!」

「何してるんだ!」


 裏拳が変態の後頭部に炸裂する。横の壁にべしゃりと叩きつけられた変態はぐったりと動かなくなる。


「し、死んでる……」

「緊急避難で正当防衛だ。梅津。怪我はないか?」


 変態のライトを広い上げつつゴリは僕に聞く。とても嫌そうな顔をしていた。聞けば変態の汗で持ち手がぬるぬるしているとの事だった。それは確かに嫌だと、僕も顔を歪める。


「素晴らしい戦闘能力だ。さすが私の見込んだ貧乳僕っ娘」


 ドロッドロの悪臭漂うヘドロを耳に詰め込まれたらきっとこんな気分なのだろう。とにかく粘着質な性格なのだと察せられる声。吐き気を催す声が廊下の奥から響く。


「誰だ!?」

「おおっと失礼。私はWWBPの総司令官。アルフレッド=スミスという者だよ」


 護衛二人を従えたスーツの男が歩み寄って来る。

 なんでラスボスがいきなり登場してるんだ。というかなんでこんなに展開が急なんだと突っ込まざるを得ない。まるで素人の書いた話じゃないか。

 ラスボス、つまり変態達の首魁だけども、凄まじいまでに気持ち悪い顔をしていた。見た目は普通の白人男性なのにも拘わらず、抱く印象は気持ち悪いのだ。とにかく顔がキモイのだ。


「なんでこんな事を!?」

「梅津! 刺激するな」


 僕の質問に、変態ボスは顔をゆがめる。にんまりと笑ったみたいだった。事件が起きる前に食べたサンドイッチが逆流してくるのを感じる。胃腸炎にはなりたくない。


「良い質問だね。君達が目的なのだよ。他の連中はあれだ。兄弟を満足させるためのおまけ」

「ゴリ先生が……目的?」


 つまりその気がある人なのかこの人。


「ちっがーう! その筋肉ダルマじゃない! 君といつもつるんでいるクールな女子だ! 私はね、世界中を探したんだよ。作られたキャラではなく天然の僕っ娘貧乳低身長女子のティーンを! そして見つけた! 君をだ! しかもクール系女子とつるんでいるではないか! 神とパンティーに感謝したよ……」


 思わず一歩後ずさる。なんだこの変態は。やばいぞ。


「梅津、大丈夫だ。俺がどうにかする」


 そう言ってゴリは僕を教室の中に入れようとした。きっと自分が盾になろうとしたのだろう。しかしそれを変態ボスは許さなかった。


「待ちたまえ、変な動きを見せるんじゃあない。爆弾を起爆されたいのかね?」


 そう言って彼はアニメにでも出てきそうな、ドクロのスイッチが付いた装置を見せる。


「これを起爆すれば、校舎中がマスタードガスに満たされる事になる。大変な事になるぞ。眼と粘膜と美容に大ダメージだ。良いのかね?」


 マスタードガス。第一次世界大戦でドイツが使用した化学兵器。今では禁止兵器の一つに入っている危ない毒ガス。

 端的にまとめれば、吸うと大変なことになるガスだ。


 そんな物を学校に仕掛けていると、変態ボスは言う。装置を自慢げに見せびらかす。ひらひらと挑発する様に頭の横で振っている。


 瞬間だった。装置が爆ぜた。いや違う。後ろから打ち抜かれたのだ。


「誰だ!?」


 変態ボスと護衛が振り向く。そこに居たのはいかにも特殊部隊といった風体の男達だった。


「アル。ナゼウラギッタ(なぜ裏切った)?」

「貴様、ジャックか!?」


 なにやら因縁がありそうな二人が悠長に会話を始める。それぞれの部下たちは主人らの会話をぼけっと突っ立て聞いている。なにかしろよと思う。


「オマエ……。面倒だ。このキャラはやめだ。貴様、なぜ軍を抜けた!? あんなしょうもない理由で!」

「黙れ! 女性職員の下着を盗んで何が悪い! あんな汗臭い環境、耐えられるはずがないだろう! オペレーターのカワイ子ちゃんにもフラれるしよ!」

「ええ……」


 これには困惑を隠せない。こいつ下着盗んで軍脱走したのかよ。というかあの特殊部隊の隊長っぽい人、元同僚かよ。通りでなんだかアホそうだと思った。片言言葉で登場するし。


「ジェーンは俺と付き合っていたんだ! お前の告白を受け入れる訳ないだろう!」

「な……。お前! 私がジェーン好きだって知ってたよな! 親友だと思ってたのに! もう良いよ! 起爆するから! 地獄見ろバーカ!」


 昼ドラ展開が始まってしまった。子供の言い争いだった。醜い。そして彼は起爆するといった。起爆すると。え、起爆だって。


「安心したまえ。一階からだ」


 そう言って彼は自分の胸元を叩く。ドラミングの様だった。一階から響くは破裂音。


「人質と隊員を脱出させろ!」

「そうはさせんよ。君たちはここで地獄を見てもらう」


 無線に向かって怒鳴る隊長。

 救出を邪魔しようとする変態集団。


 お互い銃を持っているのに、なぜかど突き合いの乱闘が始まってしまった。ゴリも野生の血が目覚めたのだろう。戦闘に参加してしまう。


 僕は物陰に隠れて彼女に連絡しようとした。メールの本文を打ち込み、いざ送信と言う所で画面は暗転する。

 充電が切れてしまったみたいだった。


 舌打ちを一つする。転がったライトを持って教室の中に入る。そして人質仲間に向かって「屋上へ逃げよう」


 と伝えた。

次回最終回

「丸くおさまれば全てよし」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ