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うっとうしくなるほど極甘で

「それで、どうするの?」


 二人、机を突き合わせながら食べる。鼻を塞いだ状態で、ただただひたすらに不味い昼食をとる。

 教室で甘いだけのイチゴジャムサンドの欠片を必死にもちゃもちゃと齧りながら、高島さんに問いかけてみる。彼女は握りがあまいせいでご飯粒がぽろぽろ落ちるおにぎりを食べながら、なにやら考えている。


「時たま見回りに来るって言ってたから……それがランダムなのか、周期性があるのか調べる必要がある。とりあえずは暫く大人しくした方が良いわね。あ……」


 喋ったことでおにぎりに向ける意識がおろそかになる。結果、具であるそぼろが、一塊となって机に落ちる。おにぎり本体には、もう数粒しか残っていない様に見えた。哀れだった。ひたすらに哀れな表情だった。こんなことが現実に起こりえるのかと、本気で困惑し、絶望した表情だ。みじめとしか言いようがない。


「三秒ルール! 三秒ルールあるから!」


 高島さんがおにぎりを口に押し込み咀嚼する。空いた震える両手でそぼろを掴もうとするが、いざ触れるか触れないかと言う、まさに直前で動きが止まる。三秒はとっくに過ぎていた。現在六秒を突破している。


「あ、ああ……」


 彼女は茫然と周囲を眺める。教室に居残った連中が楽しそうに思い思いの事をしていた。食べるのが遅い人も半ば食べ終えている。周囲に人目があり過ぎる。拾って食べるのはちときついだろう。

 現在、既に二十秒経過している。雑菌は完全にそぼろに移っているころだ。



 哀れなり、なんだかとっても、哀れなり。字余り。


 そんな一句が思い浮かぶ。それほどまでに彼女は哀れだった。


「そぼろちゃん……。おばあちゃんの知り合いの駅前の商店街で富太郎って言う名前のお総菜屋さんを営んでいる三代目店主の大五郎さんが作ってくれた、税込み価格二百三十円の、本格派家庭の味とりそぼろ、三百グラム醤油――」

「長いわ!」


 思わず突っ込んでしまう。突然大声を上げた僕を、周りの人たちが見る。しかし直ぐに興味を失たみたいで、自分達の行っていた事に戻る。

 駅前の富太郎は知っている。安くて美味しいので有名だ。だがそんな詳細な情報、今はいらない。断じていらない。


「どんだけショックだったのさ……」

「だってえ」


 最早泣きそうな程に落ち込んでいた。眼の表面に膜が張っている。その膜は厚さを増していき、今にも零れ落ちてしまいそうだ。

 傍から見ればまるで僕が泣かしたかの様なこの現状。どうした物かと内心嘆く。

 言っては悪いけども、第一印象と今の彼女の印象は全然違う。もう少しクールと言うのだろうか。物静かな性格だと思っていた。けれども話してみると中々どうして、愉快な性格じゃないか。


「ほら、これで涙をお拭きよ」


 こちらに尻を向けた可愛い子ブタちゃんが刺繍されたハンケチを渡す。見返り美人のごとく、振り返り、誘惑するが如く挑発的な、けれどもどこか切なさを感じさせる腹が立つ子ブタちゃんだ。無駄に尻がぷりぷりしていて、見れば見る程にイライラしてくる。


「ありがとう」


 目じりをふき、その後蒸しタオルを渡されたおっさんの様に顔を拭く。鼻をずびっと一回すする。鼻元を両手で抑える。まさか、止めろ。


「ちょっとまっ」


 チーンと一回、思いっきり鼻をかまれた。僕からは子ブタちゃんが見えない。きっと彼女の鼻元に居るのだろう。哀れ、子ブタちゃんは汚豚ちゃんになってしまった。彼、もしくは彼女も驚いただろう。誘惑したら鼻水をプレゼントされたのだ。ご自慢のプリケツも台無しだ。


「可愛いデザインだね。洗って返すよ」

「気に入られたのならば差し上げますよ」


 思わず敬語になってしまう。まさか鼻をかむとは思わず、正直に言えば思いっきり引いてしまった。話して一日どころか、まだ数時間しかたっていない。ドン引きである。

 まあ、可愛いと言ってくれるご主人に貰われてプリケツ汚豚ちゃんも幸せだろう。僕が持っていても生姜焼きにしたいとか、プリケツを真っ赤になるまでひっぱたきたいとしか思わないから。


 いざさらばプリケツ。フォーエバープリケツ。ナイスヒップだプリケツ。お前と過ごした日々は特に楽しくもなんともなかったぜプリケツ。別れられられて清々したぜプリケツ。でもお前を見ながら食べる豚料理は美味しかったから、二度ともうあの感覚を体感できないと思うと少し悲しいぜプリケツ。元気に暮らせよ鼻水まみれのプリケツ野郎。


「なんで敬語……え、なんで泣いてるの!?」

「別れって、なんだか物悲しくなりません? なぜかしら? 涙が出てくるの」


 プリケツよ永遠なれ。偉大なるラノベハーレム主人公神よ。女子供を侍らせる好色の神よ。願わくばぷりっぷりの尻に永遠の喜びを与えたまえ。ソーメン。


「はあ……」


 彼女はよく理解出来ていない様子だった。当たり前だと思う。理解出来たらそれはそれでおかしい。ハンケチ貸してくれた女が心の中でプリケツの幸福を祈っていると、そう考えられる方がイカれている。


「本当に良いの? 悪くない?」

「どうぞどうぞ。大量に持ってるから」


 これは嘘ではない。一時期母さんがドハマりして箪笥の一棚をみっちり埋め尽くす量、買ってきた時期がある。何故か全て僕に譲渡された。ハッキリ言っていらないのに。


「ありがとう。ふふ、かわいい」


 鼻水の部分が服につかない様に丁寧に折りたたみ、ポケットに入れる。ちょっとばかりバッチイと感じるのは僕だけではないだろう。

 最初は不愛想だったのに、この昼休みの十数分でこの変わりようである。そぼろ落とした直後は無く寸前だったのに、ハンカチをプレゼントした今はもう、鼻歌すら歌いだすまでに機嫌が良くなっている。


 ちょろい。


 ちょろいとしか言いようがない。ちょろすぎて逆に不安になる。あと趣味がおかしい。あのプリケツ豚が可愛いとか目が腐ってるとしか言いようがない。脳みそ醗酵してるじゃないかと疑う。


「それ美味しいの?」


 おにぎり最後の一口を口に放り込んだ彼女は、やや大きい欠片ゆえに頬を膨らませながら問うてくる。汚いなあと思う気持ちもある。行儀悪いし飲み込んでから喋れよと思う。けれども可愛いと感じる自分も居る。


「あんっまい。登山とかに持っていったら遭難しても問題なさそう」


 小さく千切った欠片を口に入れる。最初に甘ったるい香りが口内全体に充満するのを感じる。咀嚼する。外側のカステラ生地が水分を奪っていく。内側のカスタードクリームとやけに甘いホイップクリームがぬちゃりと重い舌触り。噛む気力が失せる。クリーム層を越えればメインのイチゴジャム。ただただひたすらに暴力的な甘みが舌を刺激する。鼻を突き抜ける甘い臭い。きつい。


 最早暴力であった。商品開発部出て来い。これにゴーサインを出したやつ頭狂ってる。


 咀嚼し、口に残るものはただのヘドロである。トイレの芳香剤がごとき臭いを放つそれを飲み下そうと努力するも、どろどろと舌やら歯やら、それこそ喉やらにへばりついて中々飲み下せそうにない。

 苦行だった。食事が苦行だった。これは食事ではない。ただの栄養摂取だ。味が感じられないだけ点滴の方が気が利いてる。

 スポーツドリンクで無理やり流し込む。甘みが強い商品であるはずなのに味が感じられなかった。


「ほお」


 興味津々と言った風だった。確かにパッケージに『新商品!』だとか、『異次元の快楽! 脳内物質過剰分泌注意!』だとか書かれていれば、そりゃあ気にもなるだろう。食べたらジャンキーになりそうなパッケージだ。インパクトはある。インパクトしかない。

 大体なんだよ。脳内物質過剰分泌って。きっとあれだと思う。過剰な苦痛。ストレスと言い換えても良いかもしれない。それらを和らげるために健気な脳が必死に分泌させてるとか、そう言った部類だろう。


「食べかけで良いなら上げるよ。満腹だし。一応全部千切って食べてたから口は付けてないよ」

「良いの?」


 僕は鷹揚に頷く。是非とも貰ってくれと言いたい。ちょっと大きめのサンドの四分の一だ。四分の一で食べ盛りの年頃である僕がダウンするレベルだ。押し付けられるのならば有り難く押し付けるさ。


「ありがとう」


 嬉しそうに受け取っては、くるくる回しながらしげしげと見つめている。何が彼女をそこまで搔き立てるのだろう。

 彼女は小さく千切り、その欠片を口に含む。噛むことも無く、唾液で溶かして味わっている様に見えた。穏やかに笑っている。


「美味しいじゃない。本当に良いの?」

「馬鹿な」


 飲み込んで言う一言。衝撃の一言だった。ありえない。まさかそんな馬鹿な事があるとは。

 彼女の味覚はおかしいんじゃないかと思う。人の好みはそれぞれと聞くけども、まさかそんな。


「気に入ってくれたのならうれしいよ。僕お腹いっぱいだから」

「僕?」


 彼女は怪訝そうな表情だった。疑問を浮かべた表情のまま大口開けてサンドに食いつく。見ていてげんなりする光景だった。可愛い子が美味しそうに食べている。一見可愛らしい光景だと思うだろう。

 だけれども、食べているのが胃もたれ胸やけを引き起こす程の糖分の塊であると考えれば、そしてそれを食べた経験が有れば、嫌な気分にもなる。

 そもそも僕は人ががっついて食べている様は好きじゃないんだ。グルメ番組とか大食い番組とか見ていて気持ち悪くなる。ソースが口元についているのが可愛らしいポイントとか、食べた後顔をしわくちゃにして呻くとか、下品極まりない。美味しそうなものを見ているのに、吐き気を催すとか何の冗談だろう。


「僕っていう女の子、初めて見た。中二病?」


 あっさりヘドロを飲み下し、失礼な事を言うてくる。甘ったるい臭いが彼女の口から漏れ出てきていた。きっと僕も同じ状態なのだろう。後でうがいをしなければ。


「中二病って……随分と失礼だね」


 咎める様な口調になってしまうのは仕方ないと思う。


「いや、だって普通は使わないでしょ。僕」

「家族が男所帯でね、その影響。それ以外に特にないよ理由なんて。ん? あ、あと五分で昼おわっちゃう!」


 やけに人が増えてきたと思っていたら、もう終わる寸前だった。あと五分で予鈴が鳴ってしまう。話題を打ち切り、彼女にさっさと食べ終わる様にと急かす。


「うがいしてくる!」


 午後を甘ったるい口で過ごすのは我慢ならない。勢いよく席を立ち、小走りで水道に向かう。小汚い流し台に辟易しながら水道を回す。出てきたカルキ臭い水で口内を洗い流そうと試みるも、水が甘かった。甘く感じられた。これほどまでにしつこく、くどい甘みであるのかと驚き、愕然とした。

 きっとこの甘ったるいのを流しきるにはリットル単位の水が必要になるのだろうと思った。再度、メーカーは頭おかしいと確信する。


 スピーカーから鳴り響く気の抜けた予鈴のチャイムも、足早に行きかう人の群れの音も、どこか遠くに聞こえた。




「最近は暖かくなったっていうけど、この寒さはどうにかならないのかなあ?」

「さあ。着こめば?」


 教科書類をカバンに突っ込みながら高島さんに話しかける。彼女も普通に返答してくれる。随分と打ち解けたなと、ちょっとばかり嬉しくなる。


「この時期に? あー無理。暑いしなにより精神的にきついよ。変人に思われちゃう」


 彼女はふっと鼻で嗤った。小馬鹿にする感じの嫌な笑いだった。腹が立つ笑い方と言ってもいいだろ。とにかく不快な笑いだ。


「もう変人に見られてるから問題ないよ」

「……いや、それはないね」


 彼女の中の僕はどんな人間なのか、とてもとても気になった。聞いてみたいと言う好奇心もある。だけど少し怖い。絶対ろくな事言われないだろうなという確信があった。根拠は無い。けれども分かるのだ。

 失礼を承知で言わせてもらえれば、彼女も十分変人だと思う。


「ふっ。まあいいや。家どこら辺にあるの?」

「ん? 昇川」


 他のクラスメイト達の流れに乗り、彼女と一緒に教室を出る。


「高島。私は部活見学してから帰るよ」


 聞き覚えのある声が後ろから。あのイケメンな声は。

 振り返れば、がっしりとした体つき。短く刈りあげられた髪型。この数日間、視界の隅に常に捉え続けてきた女だ。相手も意図的に視界に入ってきた訳じゃない。僕も意識して見ていた訳じゃない。存在感だ。存在感故に意識せずにはいられないのだ。


「入学式の時はどうも」

「構わないよ。気になっただけだけだ」


 入学式の時、隣に座っていた柔道男子系女子。その名も


「あれ? 二人とも知り合い? まあいいや。私は先に帰るね。姉川ちゃん」


 姉川薫。武闘派な見た目にも拘わらずやけに可愛らしい名前だから憶えていた。僕の脳みそにもはっきりと刻み込まれるインパクト。ある意味ゴリ以上だ。ゴリ以上のインパクトだ。

 僕らに背を向け、のっそのそとゴリ子は反対方向に去っていく。人が次々に脇に避けていく。その中央を進む様はモーゼだ。背中からは王者の風格が漂っていた。


「あ」


 モーゼ=ゴリ子が突然声を上げた。振り返ってみれば、モーゼ=ゴリ子も振り返る。そして戻って来る。


「変な奴だけど、仲良くしてやってくれ」

「んな!? 変なっ」


 そう言って高島さんを指さした。そして再度去っていく。口をぽかんと開けた高島さんは何やらプルプルと震えている。高周波マッサージ器を当てられたみたいな動きだった。なかなかに見ていて面白い。少し笑いそうになる。


「変なってなによ! 変なって!」


 彼女は振り返ることをしなかった。黙ってサムズアップを返してきただけである。とことんイケメンな女である。性別が男ならさぞ女の子連中からモテたであろう。

 生まれる性別を間違えた彼女の未来が幸せなことを祈ってやまない。


「あいつ! ……なによ。帰りましょ」


 生暖かい目で見つめていた僕と周囲の様子に気が付いた彼女は、慌てて表情を取り繕う。その様が特に面白くて、思わず大声で笑ってしまった。


「笑うな!」


 高島さんが怒ると、僕の笑い声はどんどんと大きくなる。春に訪れた寒い空の下ではあったけれど、僕はちっとも寒くはなかった。




「そういえば、なんで屋上に行きたいの?」


 電車通学らしく、自転車を持っていない彼女に合わせて歩く。ぎこぎこと異音を立てる僕の十年来の相棒がなんだか情けなく感じた。いつもは追い抜かすか、邪魔で仕方ない自転車集団が僕等を追い抜かしていく。


「え? 昼寝したいじゃん」

「は?」


 思考停止したのか、面白い顔で固まる彼女の後ろには昨日のシェパードが居た。楽しそうに飼い主のおばちゃんと散歩をしている。今日は吠えられなくて済んだみたいだった。


「昼寝?」


 声が若干裏返っていた。よほど驚いたのだろう。仕方ないと僕は思う。そりゃあ不法侵入してまでやりたいことが昼寝って、常識を疑う。


「そんなくだらない事がしたいの!?」

「はは……。僕にとってはくだらなくない事なんだよ」


 頬をぽりぽりと掻きながら答える。そこでふと気になる事がある。彼女は何故屋上に行きたいかだ。


「高島さんは? なんで行きたいの?」


 この質問をした瞬間だ。まさにその瞬間、待ってましたと言わんばかりに右頬が吊り上がるのを僕ははっきりと見た。一瞬の事ではあるけども、僕は確かにこの目に捉えたのだ。


「宇宙人を信じる?」

「は? まあ、居ると良いなくらいだけど」


 彼女は目を輝かせる。どんどんと僕との距離を詰めてくる。車道にはみ出そうになって危ない。


「宇宙人と言う宇宙の神秘。考えてみてよ。良い? この宇宙には数えきれないほどの星が存在している確かに生命が誕生する確率は限りなく低いし尚且つそれが遭遇できる確率も低いけどこの宇宙は広いの同じ時代に二つの星の別の生命が遭遇する確率だってゼロパーセントじゃないし古来の地球には古代人によって文明がもたらされたと考えられる壁画やらが色々と残っているのよそれに――」


 尋常ではない早口だった。眼が血走っている。完全に薬をキメた中毒者の様な状況だ。きっと脳内麻薬でトリップしているんだろう。


「んで? 結局なんで屋上に行きたいの?」


 延々としゃべり続ける彼女を遮り、さっさと理由を言うように促す。まだまだ喋り足りたりない様子だった。熱に浮かされたように肩から下げたエナメルバッグから一冊の本を取り出す。


「それは!?」


 著者森匹子。僕の愛好するラノベと同じ作者。その作者の書いた中でも、一、二を争うクソと名高シリーズ。


『宇宙から美少女エイリアンが降ってきて、平凡な俺の周囲が宇宙戦争状態なのだがハーレム築く』


 それの第一巻だった。


「それは世に名高いク……るしみを幸せに変える魔法の書じゃないか」

「文章から滲み出る圧倒的な教養……高度に考察された理論。最高よ……」


 頬をほんのり赤くし、うっとりと呟く様はまるで恋する乙女だった。けれども可愛らしさ愛らしさの類いは全く感じられなかった。


 こいつヤベエ奴だ。


「それで? 何で屋上に?」


 大体何が目的か察せられるが、念の為に問いかけてみる。


「UFOとの交信がしたいに決まってるじゃない!」


 ああ、こいつは本格的に脳みそ逝っちゃってるやつだ。大真面目にそんな事言う電波が居るとは知らなかったよ。


「ああ、この作者は素晴らしい……。このシリーズはバイブルよ……」

「はは……僕は高校入学が好きだなあ」

「は? あのクソラノベが?」


 彼女は今いったい何を言ったのだろうか。よく聞き取れなかった。


「あ、駅だから別れるね。また明日」

「いやちょっと待って……」


 僕の静止も聞かず、彼女は構内に入っていった。

 がっくりと項垂れつつ自転車に跨がり家へと向かう。本音では自棄になって猛スピードを出したかったけども、なにぶん子供が多い。安全運転を心がける。


 昨日の集団に会わなかったのは、きっと幸運なのだろう。




 自宅に帰りつき、荷物を投げ出しソファーに腰かける。アイスをかじりながら近寄ってく妹は何かを持っていた。


「ほい回覧板。不審者だって」


 このご時世不審者なんて掃いて捨てるほどいる。挨拶しただけで警察に通報される時代だ。


「高度な変態もいるんだねえ」


 ケラケラ笑いながらさっていく妹。固まる僕。


 身長百四十センチ後半から五十センチ前半やせ型の女。稲生高校制服を着ている。下半身の下着を露出した状態で小学生に声をかけた。


 完全に僕だった。乾いた笑いがリビングにこだました。

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